第13回 | 「デザイン・エンジニアリング」が新しい課題解決型授業を生みだす -子どもたちに伝えたい「失敗は成功への過程に過ぎない」- |
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以前、本連載で紹介した島根県松江市の公立中学校で始まっているコンピュータ言語Rubyを使った授業など、日本でもプログラミング教育が広がりつつある。しかし、プログラミング教育ブームは日本だけで起こっているのではない。むしろ、新興国ほど先進国に追いつき追い越せと熱心に行われている。つまり、今後は下請仕事をこなすだけのプログラマーは、スキルでもコストの面でも新興市場の競合たちになかなか勝てない時代に入ってくるだろう。
だからこそ、これから学校教育で学んでほしいのは、コーディングなどの常に変わり続ける技術的なことよりは、課題をしっかり捉え、論じ合い、試行錯誤を繰り返しながら解決のためのプロトタイプをつくるというデザイン・エンジニアリングの手法であり、経験だ。その意味で、デザイン・エンジニアリングの実体験ができる「ダイソン問題解決ワークショップ」は、課題ありきの教育を受けてきた子どもたちにとって、世の中の見方を変えることができる絶好の機会にもなると感じられた。
最も印象的だったのは授業のメッセージと方法次第では、子どもたちの学ぶ意欲は劇的に高まり、学びの連鎖が生まれるということだ。今回のメッセージとは、発明王トーマス・エジソンの「これまで失敗したことはない。うまくいかない方法を1万通り見つけただけだ」という名言や、5127台もの試作機をつくったダイソン氏の「成功するためには失敗からの学びがあってこそ」。そして、授業の方法とは、課題の捉え方から始まり、ひとりひとりが自由に発想しながら、協働的に課題解決していくというデザイン・エンジニアリングのフレームワークだ。このようにして「技術」の授業を社会に開くことで、生徒・学生たちの主体的な学びが一層促進されることを確認できたことが、今回の取材の大きな収穫だった。
STEM教育に力を入れている国のひとつである英国は、2011年のOECDインディケータによると、小中学校の総授業時間数のうち5.6%を技術教育に割いている。一方、日本は0.9%と他国に大きな差をつけられている。しかし、授業時間数の少ない授業は児童生徒たちからの評価が低いのかと思えば、意外にそうではない。2015年にベネッセ教育総合研究所が行った第5回学習基本調査の結果(図1)によれば、中学生の「技術・家庭」が「好き」な順位は第2位になっている。そう考えると、カリキュラムマネジメント次第では、日本の子どもたちのSTEM領域における成長の可能性はまだまだありそうだ。
※本企画は2015年に立案されたが、2016年3月にジェームズ ダイソン財団が日本で一般財団法人として設立されたタイミングで、理事の1人に本連載執筆者である林信行氏が選任された。今回の取材は林氏の理事就任直後ではあるが、客観性と公益性を保てるように最大限配慮して記事を編集した。(編集部)
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