14 ものづくりの真髄を伝える専門学校が、
学生の意欲を高め、
クリエイターの在り方を変える

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 産学連携でIT人材の育成も

夏期特別講座を教材や講師などの面で支援していたのが、ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」や「Yahoo!ショッピング」を運営するヤフー株式会社。今回、この講座でクリエイターがYahoo!ショッピングに自分たちのストアをつくれるように指導していたのが、メイン講師を担当した白山達也さんだ。

白山達也さん

ヤフー株式会社 白山達也さん

白山さんは普段、ヤフー株式会社が運営する「Yahoo!ショッピング」の店舗オーナーたちを育成する業務に就いている。そのため、北は稚内、南は石垣島まで全国津々浦々を巡って、店舗数を増やすために講師としてセミナーに登壇している。ヤフーの社員である白山さんが、ヒコ・みづのジュエリーカレッジで学生たちに講義する意義をこう語った。

「目的はIT人材の育成です。eコマースの市場では、インターネット通販での売り方を教えられる人の数はまだ少ないです。最近、IT企業が子どもたちにイベントやスクールなどを開いて、ITの仕組みや技術を教えることが増えてきました。私たちは、『ITをビジネスとして活用できる人材』を増やせる取り組みをしようと思っています」

たしかに、今回のヒコ・みづのジュエリーカレッジで開講された夏期特別講座の内容も実践そのもの。実際、学生クリエイターが自分のストアをネット上に開店させることがゴールになっていた。授業の中では、一般企業のWeb担当者が聞いても喜びそうな、すぐに役立つWebマーケティングの内容が多かった。その中で印象的だったのが、Yahoo!ショッピングだけに留まらない競合他社のサービスの紹介だ。

授業では、アマゾン、楽天、グーグルなど、ヤフーのいわゆるライバルたちの情報も伝えていた。もちろん、自社が有利になるような案内ではなかったことも付け加えておく。このような講義内容は、教育的見地から公平にするという側面もあるだろうし、もうひとつ重要なのはIT業界全体の発展とIT人材の育成が根本にあるからだろう。

「ITをビジネスに活用できるスキルは、Yahoo!ショッピングを使えればそれでOKというわけではないです。ネットショッピングだけでも、様々なサービスがあります。将来的には、楽天市場を使って売上をアップさせるとか、Facebookをビジネスに活用するとか、ショッピングモールだけではなく他社や他業種のサービスを使った講座も開きたいと思います」(白山氏)

 ものづくりの学校でも有効だったeラーニングによる反転学習

受講者のアウトプットの質も高く、アンケート結果によると受講者側からの満足度も高かった夏期特別講座。この講座を裏側からシステム面で支えていたのが、サイバー大学だ。サイバー大学は、ソフトバンクグループの通信制大学で、独自の専門プログラムを使って、IT・ビジネスのプロフェッショナル人材を育成している。

本講座では、座学の一部分の授業を動画配信する役割を担っていた。コンテンツの内容は、Yahoo!ショッピングの店舗構築とWebマーケティングの知識についての大きく2つ。開講前には、専門学校側と打ち合わせを重ねて授業設計を行い、動画を制作したという。

今回、関係者からは、昨年に比べて合理的な講座になっていたという声が上がった。昨年はeラーニングがなく、すべての講義をヤフーの社員が講座時間内に話していたので、ストア制作の作業は自宅に持ち帰ってやらなければいけなかった。しかし、今年は実習を中心にして、わからない箇所をeラーニングの動画講義で見直すという方法が取られた。山本先生は、eラーニングを導入したことによるメリットを次のように話した。

「eラーニングの導入は、この学校にとって初めての試みでしたが、授業に効果的なツールを得たと思います。講座では、サイト構築の実習が中心になるので、必要な箇所を必要な時に学べるのは助かりました。結果、学生たちの学びが昨年よりも深くなっているのが実感できました。また、自分が教えられない項目も網羅してあり、僕自身も予習できました。おかげで自信をもって、学生たちに教えることができたのです」


 核にあるのは「伝統技術を養成」という専門性

ヒコ・みづのジュエリーカレッジとeラーニングをつないだのが、サイバー大学の副学長である小野邦彦さんだ。小野さんは、副学長を務める一方、同学と専門学校の提携を推進する事業も担っている。小野さんはヒコ・みづのジュエリーカレッジに注目した理由を次のように語っていた。

サイバー大学副校長の小野邦彦先生

サイバー大学副校長 小野邦彦さん

ヒコ・みづのジュエリーカレッジは、ジュエリー分野はもちろん、ウォッチ、シューズ、バッグの各分野で、古くから伝わる技術を学び、それを新しいカタチで表現できる人材を育成することに主眼を置いている。サイバー大学としては、そういった教育理念に基づいた実践教育に魅力を感じていたという。

小野さんは別の観点からこうも言った。

「クリエイターには売るものがあります。サイバー大学は、IT系の専門学校とも提携しているのですが、彼らはITスキルが高く、ネット系の授業はやりやすい面もあります。一方で、ショッピングストアを構築するとなると商材から考えなければなりません」

この点は重要で、商材がある、あるいはつくれるクリエイターは、インターネット事業と親和性が高い。クリエイター自身がアナログ志向だからといって、インターネットを敬遠するのは、彼らの貴重な商機と新たな学びのチャンスを逸することになる。

これまでの卒業生の実績から、名だたるジュエリーメーカーから学校指名の求人を出されるほどの専門学校、ヒコ・みづのジュエリーカレッジ。そんな同校がヤフー社やサイバー大学の力を借りて、夏期特別講座ではさらなる一歩を踏み出した。従来の職人がモノづくりの枠を超えられる、新たなキャリアスキームをつくり出そうとしているのだ。


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