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 「世界で誰も分からないこと」を見つける教育

学園の教職員が創意工夫を重ねた結果、高校生でありながら世界でも最先端の研究をする医進・サイエンスコースをつくりあげることに成功した。前編ではこのコースの生徒たちが、どれほど先進的な研究に取り組んでいるかを少しだけ紹介した。しかし、それを読んでいて、研究以外の勉強は大丈夫なのかと心配になった人がいるかも知れないが、医進・サイエンスコースを始めてから、生徒たちのその他の学科に対する取り組みが変わってきたようだ。

例えばそれまで教科の1つとして漠然と学んでいた「英語」が、研究を始めてからは、海外の論文を読むために必要なスキルの1つになってきた。これによって生徒たちの英語を学ぶモチベーションも変わってきたという。以前から「英語は実技教科」との認識で進めてきた英語科の方針も、英語をツールとして捉える医進・サイエンスコースにとって追い風になったという。

また、「数学」についても論理的に思考する上で重要な教科として、学ぶモチベーションが高まった。「体育は最も重要な教科かもしれません。臨床ではもちろん、研究も体力勝負の側面があるから、それに備えて屈強な精神と肉体を養う必要があります」と木村氏。
 このように、「研究活動」への取り組みは、教科を学習するうえでも、非常に良い影響を与えていることがわかる。

研究活動中の生徒

それでは、医進・サイエンスコースの研究活動は、実際にどのような方針で進められているのだろうか。

まず、最初の数カ月間は研究テーマの設定に費やす。生徒たちには「世界の誰も分かっていないこと」を研究テーマに設定することを課しています。「たとえ研究が在学中に終わらなかったとしてもいいので、まだ誰も知らない未知の問題にアプローチするその手法を学んで欲しい」と木村氏は言う。

「大学の卒業研究の発表会などにいって、学生に『なぜその研究をやっているのですか?』と研究の意義を聞くと、『教授に言われたから』などと平気で答えてくることがある」。そうした状況を見ると「このままでは日本は【ヤバいな】と思う」木村氏のこうした問題意識が、医進・サイエンスコースのデザインに反映されているようだ。

彼が医進・サイエンスコースをつくったそもそもの背景にも「このままでは日本は【ヤバい】。なんとかしたい」という想いがあった。大学生たちに悪気はないのだろうが、そもそも自分の指導教官が始めた研究がどういう経緯で注目され、予算を集められたのかといった背景もわからないまま、ただ言われたことをやっていることへの危惧。これからの時代は、そもそも何が問題なのかという問題設定も含めて学生たちが自律して考える必要がある、というのが彼の考えだ。

実は医進・サイエンスコースで、生徒たちに「誰も知らない未知のテーマを研究すること」を課しているのには、先生たちが「教えるのを防ぐ」という理由もある。過去の知識を教えることよりも、生徒たちが自律して学術的探求心に磨きをかけられるように大人は見守る。これが基本スタンスだ。既に答えの分かっているテーマだと、先生たちが知らず知らずのうちに生徒を導いてしまい、その結果、生徒たちから考える機会を奪うことがよくある。

 

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