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 アートディレクターのいる診療所          

「チャイルド・ケモ・ハウス」は、家族で快適に過ごせる19戸の共同住宅と診療所などから成り立っている。住宅の中には、子ども部屋(病室)やお風呂場、洗濯室、リビング、家族の寝室などがあり、子ども部屋には2つの扉がある。1つは家族が集うリビング、もう1つは治療施設へとつづく扉だ。建物の中は、外出できない子どもたちが少しでも外界を感じられるように、部屋にもお風呂にも大きな天窓が用意された心地よい空間になっている。

シンプルで広々とした空間には、皆で集まって壁一面に描かれたすごろくを楽しめるスペースもあれば、本の世界に没頭できる読書スペースも用意されている。さらには「ここが遊び場だ、と大人に決められた場所ではないところ」に集まりたい子どもたちのために、保護者や医師たちの目から逃れてたむろし、息抜きできる隠れ家のようなスペースまで用意されている。

例えば、各部屋の表札には小さな子どもでも読めるように「ひらがな」で部屋の名前が書かれているが、この名前に使用している書体をデザインすることで、大人が見てもおしゃれに見えるようにしてあるなど、空間としての美しさには細部にいたるまできめ細かい工夫とこだわりを感じる。

施設内のクリニック「チャイルド・ケモ・クリニック」の楠木重範院長は言う。「ここには子どもといっても色々な年代の子どもたちが一緒にいます。小学校高学年や中学生にもなってくると、施設内をあまりかわいい感じにしてしまうと子どもっぽすぎると感じるようになります。あらゆる年代の人々が快適に感じられるようにしているのは、デザインの力です」

そもそもチャイルド・ケモ・ハウスには、そうそうたるデザイナーが関わっている。建物や内装を手掛けたのは、幼稚園の屋根に園児の遊び場を作るという斬新なアイデアで多くの建築賞を受賞した手塚建築研究所。施設のロゴやマスコットであるカエルのキャラクターはグラフィックデザインSIRUSIの笹 克行氏、施設をつくるのに必要なお金を集めるためにつくられた「夢の病院をつくろうプロジェクト」のホームページは、人気デザイナーの寄藤文平氏がデザインした。

「デザインの力を信じている人たちは医療現場を見て、なんとか助けたいと思っている人が多いのだと思います。彼らは、これまでの病院を見ていると黙っていられないのでしょう」と楠木氏。
 デザインの重要性を理解する同施設では、医療機関にしては珍しいアートディレクターという役職を設けている。務めるのはのちほど詳しく紹介する若手の服飾デザイナー、於保可那子(おほかなこ)氏だ。

 

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