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 医療の世界には、デザインで変えられる余地がたくさんある

2010年のファッションショーで、彼女と生徒は、マスクの前面にファブリックでできた動物の鼻を付け、見た目が楽しい変装アイテムに変えてしまう「アニマル・マスク」を提案した。着けていると「いかにも病人」という雰囲気のマスクの憂鬱な雰囲気を払拭してくれると大好評。現在はチャイルド・ケモ・ハウスでも使われている。

「学生の間に実際に社会で役立つものをつくれた」??そんな貴重な体験を自らの生徒に与えることができたと、於保氏はこのイベントを喜んで振り返る。この経験を通して、彼女自身にも「医療の世界には、デザインで変えられる余地がたくさんある」ということに気づいた。

「デザイナーとしての自分の役割は、建築家の手塚さんたちがつくった世界観をしっかりと守ること」と於保さんは言う。かわいい鮮やかな色の遊具などを置く場合も、それが施設内の雰囲気をあまり子どもっぽくしないようにするためにはどこに配置したらいいのか、考えを巡らせた。

デザインされた点滴カバー

そこから、ちょっとしたチラシや配布物をデザインしたり、寄付の集め方をデザインしたり、他の企業がデザインした医療機器をうまく活用する方法を考えたりするうちに、どんなところにもデザイナーの仕事はあるのだと実感する。

こうして、施設内で課題があがると、それに対してデザインで解決を行なうことが於保氏の役割になっていく。彼女は同施設における正真正銘のアートディレクターになり、メディカル・デザイン・ラボ担当を名乗り始める。「メディカル・デザイン・ラボ」とは、入院している子どもとその保護者たちが、施設内で快適に過ごせるようにする取り組みと空間を指している。

 

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