テクノロジーとオーダーメイド教育が、
障がいを持つ子どもの学びの意欲を生む

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 一人ひとりに対するオーダーメイドの教育を

紙の教科書の場合、先生がページをめくっている

普段何気なく読んでいる紙の本。ページをめくるためには、手をページの端に伸ばして、指で1ページだけつまんで右から左(あるいは左から右)にページを送る。当たり前の動作だ。しかし、手の自由が利かない人にとっては、実に大変な作業なのだ。

ところが、これが電子書籍であれば画面の端、あるいはページ送りのボタンを指やマウススティック、生徒によっては頭にくくりつけたヘッドスティックで触れるだけでページをめくられる。また、ペンで文字を書く場合、通常はペンを握って、紙の上に持っていき、ペン先をノートに触れさせ、その状態のまま文字や図形にあわせて動かす。時にはペン先を紙から離さなければならない。しかし、タブレットを使えば、画面に表示されたキーボード上の入力したい文字を押すだけで済む。

タブレットに自分で入力している様子

左の生徒がタブレットでとったノート

障がいの状況によっては音声で文字を入力することもできる。

また、指でボタンは押せるが、前後左右には動かせないという人がいる。このような人は、iPhoneやiPadで使える「スイッチコントロール」という障がい者支援用の機能を使えばいい。これをオンにすると、画面上のアイコンやボタンなどが上から順番にハイライトされるので、選びたいアイコンがハイライトされた時にボタンを押せば、選択することができる。さらに、キーボードを使って文字を入力する場合、1文字ずつ順番にハイライトされていくので、目的の文字がハイライトされた時にボタンを押せば入力できる。ひじょうに時間のかかる方法だが、表現の手段が全くなかった以前とは大きな違いだ。なお、体の動かせる部位が多ければ、さらにスイッチを増やし、ハイライト項目を左右に設置することで入力の効率化を図ることが可能だ。

一方、指1本すら自由に動かせない人でも、口の前にストローのような機器を置き、息を吹きかけてアイコンや文字を選択できる方法もある。ただし、山口氏は「1人の生徒に対してうまくいったからといって、同じことをほかの子どもにもあてはめようとするパターン化はよくない」と指摘する。

「特別支援教育は基本的に1対1。先輩の言葉を借りると、オーダーメイドの教育」だという。

山口氏は学生時代の教育実習の際、普通の中学校での授業がうまくできなかったという。その経験から40人を相手にする前に、まずは一人ひとりの生徒に対して指導ができる教育を模索し始めた。そうしてたどり着いたのが特別支援学校だった。泡瀬特別支援学校では、約140名の生徒に対して教員が約100名いる体制で、普通の学校と比べて生徒に対する教員の比率は高い。必然的に、一人ひとりの生徒に対する個別教育、オーダーメイド教育を突き詰めることになる。そこには今日の教育が抱える課題解決のヒントがあると、山口氏は感じた。

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