学校でも塾でもない、躍進する
「アフタースクール」という新たな選択肢

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 受けたい教育はつくればいい

東京インターナショナルスクール アフタースクールは今回取材した中目黒校の他に、都内に2校、札幌、兵庫に各1校ずつの合計5校が運営されている。今後もさらに多くの学校を開校する予定だ。開校から2年、同校はそもそもどんなきっかけで誕生したのだろうか。

「私の娘が13歳の時、自分には親友がいないと泣いていました。考えてみたら東京インターナショナルスクールは約95%が一定期間しか日本にいない駐在員の子どもたち。

娘は小学校を卒業すると、中学では小学校時代のクラスメイトがひとりもいないような状態です。地元の学校って大事だなあとその時に感じました。だけど、私たちが受けたい教育はそこにはありません。そこで、放課後の学校をつくればいいじゃないかと思いました。アスタースクールをやろうと思ったきっかけです」

坪谷さんといえば、教育界の有名人。1997年に「東京インターナショナルスクール」をつくり、一方では国際バカロレア機構アジア太平洋地区委員も務めている。ここからは、坪谷さんのもう1つの顔に迫り、今の日本の教育問題とこれからの展望について話を広げてみよう。

昨年、日本政府は2018年までに国際バカロレア(以下、IB)認定校を200校まで増やすという方針を打ち出した。ここに至るまでに坪谷さんは、文部科学省に、IBを日本に導入することによって、初等中等教育が変わる起爆剤となるという提言を続けていた。2012年にIBの委員長から委員就任への打診があって引き受け、文部科学省とのネゴシエーションの末、2013年3月にIB導入の合意をとりつけた。その後、昨年IB認定校として200校を導入する閣議決定がなされた。

 日本人の素晴らしさ世界に伝えたい

坪谷さんは閣議決定後も精力的に動いた。国際バカロレア日本アドバイザリー委員会をつくり、日本の主要大学の幹部たちに委員へ就任してもらい、委員長には前駐米大使だった藤崎一郎氏を据えた。その委員会を重ねることで、一気に国際バカロレアの門が開いたのだ。さらに今年6月、文部科学省はIBの履修科目を高校に必要な単位に読み替えられる特例措置を実施することに決めている。

「いよいよ、教員の質を変えようということで、大学の教育学部の中でIBの授業を教えられる講座を取り入れ、単位として認められるようにしなければならないということも決まりました。現在、教員養成課程をスタートさせようと18の大学が手を挙げています」(坪谷さん)

一方、坪谷さんはIBの導入を公立校で実施することにこだわった。経済格差が教育格差になってはいけないからだ。先日、大分県に行って気づいたことがあった。 「大分県の先生からIBを導入したいけれど、お金の問題があるといわれたのです。最初は何のことだろうと思ったのですが、IBの卒業試験は試験官をともなう約3週間かけたアナログなものなので、受験生1人あたり約10万円の費用が掛かります。この点は気が付きませんでした」

そうとわかった坪谷さんは、すぐに文部科学省に助成金を出すように掛け合った。ところが、国家としては、すべての人に平等にお金を出すことはできるが、IBを導入している学校の特定の個人を支援することはできないと伝えられる。しかし、これで折れる彼女ではない。ついに、世帯収入が500万円以下の世帯の子どもたちのために、経済的に援助する財団「世界で生きる教育推進支援財団」を立ち上げた。既存の枠組みにない、新しい教育の提供に期待がかかる。

最後に、坪谷さんのこの言葉を贈りたい。

「日本人の奥ゆかしい声なんて世界では聞こえません。だからこそ、21世紀型のスキルを身に付けて、私たちの主張を世界に伝えていこうよというのが私の夢のひとつです。日本人の素晴らしさが世界に知れわたれば、世界が日本を真似するようになって世界が平和になる、そう信じています」

国際バカロレア奨学支援事業

坪谷さんが代表を務める「世界で生きる教育推進支援財団(GEF )」は、一世帯の所得に応じてIBの卒業試験費用を助成し、カリキュラムを受けるのに必要なPCや関数電卓の貸与などを支援している。当財団では、個人は1口5000円から、法人からも寄付を募っている。

興味のある方は以下のページから

http://www.sekaideikiru.com/#!about2/c1i74

 

 

 

【筆者プロフィール】
林 信行(はやし のぶゆき)
ジャーナリスト

最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。

主な著書は「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」、「グーグルの進化」(青春出版)、「iPadショック」(日経BP)、「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか?」(アスペクト刊)など多数。
ブログ: http://nobi.com
LinkedIn: http://www.linkedin.com/in/nobihaya

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