グローバル教育研究室

ベネッセのオピニオン

第4回 2013年新課程・高校英語
「授業は英語で」は何のため? 誰のため?

2013年05月17日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室
主任研究員 加藤 由美子

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ご存知でしたか?
- 高校英語「授業は英語で」行われること

2013年4月より、高校の英語の「授業は英語で行うことを基本とする」ことになっています。文部科学省が定める高等学校学習指導要領外国語編では、高校英語のすべての授業を英語で行うことを謳っています。

実際の授業はどうなるのでしょうか?
-先生の不安は「文法説明」「英語が苦手な生徒への対応」「大学入試対策」

この「授業は英語で」は今年度から実施されましたが、新しい学習指導要領として2008年時点で既に告示はされていました。しかし、高校の英語の先生方の間でさえも関心が高まってきたのは、昨年ぐらいからだったと思います。英語教育関連の学会でも「授業は英語で」をテーマにした発表が急に増え始めたのも昨年からでした。

ベネッセコーポレーションでも昨年12月に上智大学と共催で、『高校英語「授業は英語で」を考える』シンポジウムを開催しました。このシンポジウムは過去5回行っていますが、昨年は高校の先生方の参加比率が最も高いものとなりました。ここからも「授業は英語で」に対する先生方の関心が高まってきていたことがわかります。

昨年のシンポジウムの企画検討段階で、高校の先生方はどれくらい「授業は英語で」行うつもりなのか、どのような不安や課題を持たれているのか、という疑問がわいてきました。そこでシンポジウムの前に「授業は英語で」行う上での課題について英語の先生50人にアンケートを実施しました。

そこから見えてきたものをご紹介します。まず、2013年度以降に授業で英語を、「概ね使う」と答えた先生は2割程度、「あまり使わない」は3割弱という結果でした。新しい学習指導要領施行後も実際には授業で英語はあまり使われないであろうということがわかりました。この背景には、同じくアンケートの中で挙げられた「文法は日本語で説明しないと生徒が理解できたか不安になる」、「英語が苦手な生徒は英語だけで理解できるか」、「大学入試に対応できる学力をつけられるのか」などの先生方の不安や課題認識があると考えられます。

ではいま何が必要なのでしょうか?
-「授業は英語で」への誤解を解くこと

「授業を英語で」と聞くと、従来の英文和訳や、そのための文法や語彙の説明など「日本語で行っていたことを英語に変換する」と思われがちです。しかし、そういうことが求められているのではありません。

新しい学習指導要領には、「生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする。」と書かれているのです。メディアなどでは「授業は英語で行うことを基本とする」の部分ばかりがキーワードとして取り上げられがちです。しかし、「英語で行う」ことが目的なのではなく、授業の中で生徒が英語にたくさん触れ、英語を使う様々なコミュニケーションの機会を増やすことが目的なのです。

すなわち、英語の授業が、「英語の文法や語彙の知識を教えること」を中心にしたものから、「生徒が英語に触れ、英語を使いながら、思考・判断・表現力を高めるための言語活動」を中心にしたものへと転換されることが求められています。

「授業は英語で」の目的は、生徒が「使える英語の力(英語によるコミュニケーション能力)」を身につけることです。

どうすればよい授業になるでしょうか?
-「授業は英語で」行うための取り組み

前述の英語の先生50人に聞いたアンケートの中では、新課程の授業をよりよいものにするために、先生方が挙げられたのは「自分の英語力を上げる」、「書籍や研修等で指導方法を研究・開発する」という解決策などでした。

これらの先生方の個人の努力は必要なものですが、文法や語彙の知識を増やしながら、「生徒が英語に触れ、英語を使いながら、思考・判断・表現力を高めるための言語活動」中心の授業へと大きく転換することは容易なことではありません。また、前述の先生方の不安や課題以外にも現在の高校の英語指導にはたくさんの課題があります。たとえば、高校入学段階での生徒間の英語力の違い、既に英語が苦手になってしまっている生徒の動機付け、グループワークなどの言語活動の前提となるクラス内の人間関係作りなどです。

それらの課題を包括的に解決していくためには、文部科学省・教育委員会・エリアや学校単位でのさらなる情報共有や指導力向上のための支援・予算の配分、そして、高校の指導内容に大きな影響力を持つ大学入試制度改革などが不可欠でしょう。

誰のための英語の授業なのでしょうか?
-「授業は英語で」は子ども達のため

すべての子どもが、それぞれの人生をよりよく生きていくために、「ことばを使って考え、判断し、自分の意見や主張を表現していく力」を身につけていく必要があります。この力は、日頃の生活の場面においても、人生において何か大きな困難にぶつかった時にも必要です。「授業は英語で」行うこと、すなわち、生徒が「使える英語の力(英語によるコミュニケーション能力)」を身につけることは、グローバル化がますます進むこれからの社会を生きていく子ども達にとって極めて重要なことだと思います。

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著者プロフィール

加藤 由美子
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、大阪支社にて進研ゼミの赤ペン指導カリキュラム開発および赤ペン先生研修に携わる。その後、グループ会社であるベルリッツコーポレーションのシンガポール校学校責任者として赴任。日本に帰国後は「ベネッセこども英語教室」のカリキュラムおよび講師養成プログラム開発等、ベネッセコーポレーションの英語教育事業開発に携わる。研究部門に異動後は、ARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)にて、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育のための理論的枠組み)開発および英語教育に関する研究を担当。これまでの研究成果発表や論文は以下のとおり。

関心事:何のための英語教育か、英語教育を通して育てたい力は何か
その他活動:■東京学芸大学附属小金井小学校、島根県東出雲町の小学校外国語活動カリキュラム開発・教員研修(2005~06年)
               ■横浜市教育委員会主催・2006教職キャリアアップセミナーin 横浜大会講師(2006年)

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