グローバル教育研究室

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第16回 英語を早く始めればグローバル人材になれるのか?

2013年08月09日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室
主任研究員 加藤 由美子

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「早起きは三文の得」ということわざがあるのと同様に、英語でも ‘The early bird catches the worm.’ という言葉があります。直訳すると「早起きする鳥は虫を捕る」となりますが、中学生の頃にこれを知った時、日本でも英語を話す国でも同じような価値観があ るとことを知って、とても嬉しく思ったことを覚えています。

グローバル化の進展に伴い、英語力を身につける必要性が求められるようになっています。そんな中、幼児の段階から英語学習を始めるお子さんもたくさんいます。果たして英語を早く始めると ‘Early Bird’ になれるのでしょうか。

「早く始めるほどよい」は幻想か?

日本において家庭内で触れる言語のほとんどが日本語である環境で、幼児期に英語を学習した人の方が、しなかった人に比べて、後の英語力の習得レベルが高いということを科学的に証明した研究結果はほとんどありません。それでは、幼児期に英語を学習することには何のメリットもないのか、考えてみたいと思います。

次のような大脳生理学者のペンフィールド博士の学説に基づく記述が『幼児と英語』という本にあります。(*1)

「子どもは生まれてから10歳になるまでに、つぎの四つの特性を備えています。
 1、模倣が上手である。
 2、聴覚、発音器官が柔軟である
 3、機械的な学習に飽きない
 4、繰り返しの学習に耐えられる
この四つの要素があるかないかは、言語学習をしていくうえで重大な問題です。」

この記述から、幼児の時期には、日本語とは違う英語独特の音声(音やリズム・イントネーション)を敏感に感じやすく、身につけやすい、ということがわかります。確かに、これまでたくさんの幼児向けの英語レッスンを見てきましたが、「幼児は物まねの天才だ」と思えるほど、子どもはリズムやイントネーションに体で反応し、英語らしい発音をとても上手にできるようになります。多様な英語の音声で話す英語圏以外の人ともコミュニケーションする時代ですが、やはり英語らしい自然な音声の感覚を身につけることは「通じやすさ」の面で大切なことです。

幼児に英語を教えている先生方から、「幼児期は自意識があまり発達していない段階なので、抵抗感なく英語に接することができる」と伺います。例えば、意味が全部きっちりわからなくても、幼児期の子どもは絵などを頼りに想像しながら英語の絵本の読み聞かせを聞いたり、DVDを見たりできます。この「あいまいさに耐える力」はのちに大量の英文を聞いたり読んだりする時に、いちいち止まらずスピーディに大意を把握する力の素地になっていくと考えられます。また、正確さにこだわりすぎて、英語を発することができないということもありません。言いたいと思えば英語を発します。この「誤りを気にしない力」は、「間違ってもよいからまずは言ってみよう」というスピーキング力を向上させるための素地となると考えられます。

そして最後に、幼児期で何よりもすばらしいことは、自分の興味・関心のあることを心から楽しみ、集中できるということです。その結果、「英語は面白い・楽しいというポジティブな感情」を持つことができます。

これらは、英語を使う力とは直接つながらないように見えて、実は英語力をつけるための重要な素地となり、本格的に長く厳しい学習が始まってからも、がんばり続けることができる態度を育てるものだと思います。

(*1)吉田研作,菅浪正雄,緑川日出子,笠島準一『幼児と英語』(1977年)日本ブリタニカ,P25.

英語を「勉強」にしてしまわないこと

英語の学習は継続しなければ意味がありません。お子さんに英語学習の機会を与える保護者の方は、口をそろえて、「英語を好きでいて欲しい。英語嫌いにならないで欲しい」とおっしゃいます。ではそのために、どうすればよいでしょうか。それは英語を「勉強」にしてしまわないことです。

英語に限らず、幼児の学習を考える上で、幼稚園教育要領は大変参考になります。その総則に「幼児の自発的な活動としての遊びは、心身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、遊びを通しての指導を中心とする」という文言があります。幼児にとっての「遊び」は、「勉強」の対極にあるようなものではなく、それが学びそのものであると書かれています。ですから、英語の学習も「勉強」にしてしまわず、できるだけ子どもの興味や関心を高め、やる気を引き出す活動であって欲しいものです。学習サービスを選ぶ際には、活動内容はもちろん、講師や教材から子どもへの働きかけの内容もよく見極める必要があります。子どもにとって意味のある活動を与えず、たくさんの英単語や表現だけを無理に覚えこませ、覚えた量を学習効果として謳う学習サービスも考えものです。英語を学ぶ必然性のない幼児は、すぐに「英語嫌い」になってしまうでしょう。これは早期英語教育に反対する人の多くがよく指摘する点です。

保護者の方には、ご自身が英語が苦手だったから、子どもにはそうなって欲しくないと願われる方もいらっしゃると思います。そういう方は、お子さんの英語学習を講師や教材に任せっきりにされてしまうこともあるかもしれません。しかし、少し時間をとって、お子さんに教室での様子をたずねてみたり、教材で一緒に遊んでみられてはいかがでしょうか。歌を一緒に口ずさむのもよいでしょう。幼児期に大好きな保護者や家族と一緒に「英語で遊ぶ」楽しい体験を積み重ねた ‘Early Birds’ は、世界の大空で元気に羽ばたいてくれることでしょう。

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著者プロフィール

加藤 由美子
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、大阪支社にて進研ゼミの赤ペン指導カリキュラム開発および赤ペン先生研修に携わる。その後、グループ会社であるベルリッツコーポレーションのシンガポール校学校責任者として赴任。日本に帰国後は「ベネッセこども英語教室」のカリキュラムおよび講師養成プログラム開発等、ベネッセコーポレーションの英語教育事業開発に携わる。研究部門に異動後は、ARCLE(ベネッセ教育総合研究所が運営する英語教育研究会)にて、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育のための理論的枠組み)開発および英語教育に関する研究を担当。これまでの研究成果発表や論文は以下のとおり。

関心事:何のための英語教育か、英語教育を通して育てたい力は何か

その他活動:■東京学芸大学附属小金井小学校、島根県東出雲町の小学校外国語活動カリキュラム開発・教員研修(2005~06年)■横浜市教育委員会主催・2006教職キャリアアップセミナーin 横浜大会講師(2006年)

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