グローバル教育研究室

ベネッセのオピニオン

第116回「一生学び続ける」を科学する⑮
英語力を伸ばしているのはどんな学校か?(前編)―4技能の言語活動で英語力を伸ばす―

2016年11月25日 掲載
研究員 森下 みゆき

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 第113回のオピニオンで紹介したように、ベネッセ教育総合研究所では、GTEC for STUDENTSのスコア分析から「英語力が伸びた学校はどんな学校か」をテーマに、根岸雅史先生(東京外国語大学)の指導のもと研究をしています。

 高校の英語教育の成果として、高校3年時のスコアが高い学校をみるのではなく、高校1年生から3年生までにどれだけスコアを伸ばしているのかに注目をしています。スコアの伸びが著しい学校についてデータや情報を分析するとともに、インタビュー調査をすることでその要因を探っています。今回は、高校でのスコアの伸びの全体結果とスコアが伸びた学校へのインタビュー調査から指導についてわかってきたことを紹介したいと思います。

高校2年間での英語力の伸びは学校により大きく異なる

 まず、全体結果をみていきます。前述の通り、この研究では英語力の指標としてGTEC for STUDENTS(以下、GTEC)の「聞く」「読む」「書く」3技能のトータルスコアを用いています。

 全国でGTECを学校単位で受験した高校のうち、高1と2年後の高3のそれぞれ夏の回を受験した学校を対象としています。なお、本研究では小規模の学校について対象外とし、受験者数100名以上の学校を対象としました。さらに、なるべく公平に比較ができるように、受験人数の増減、高1に受験してから高3で受験するまでの期間に条件 を設けて絞り込みを行いました。

 その結果が、図1です。高1から高3までの2年間でトータルスコア(学校平均)が何点伸びたかによる分布となっています。平均すると、2年間で70点位スコアがアップしています。図1の右側の方に、2年間でスコアを100点以上伸ばしている学校がある一方で、図の左側の方、ほとんどスコアが伸びていない学校もあることがわかります。

図1 2年間のトータルスコア(学校平均)の伸びの分布

図1 2年間のトータルスコア(学校平均)の伸びの分布

※2013-2015は2013年(高1)→2015年(高3)の2年間の伸びをみたグループの結果、
 2012-2014は2012年(高1)→2014年(高3)の2年間の伸びをみたグループの結果。


 また、高1のスタート時のスコアの点数別に、2年間でどれだけ伸びたかをみてみると、スタート時GTECのグレード2(CEFRii A1レベル)である300点台の学校も、グレード5(CEFR A2レベル)に近い500点以上の学校もスコアの伸びは似た傾向となっており、1年生の時の英語力の高低に関わらず同じような伸びとなっていることもわかっています。

英語の授業の「量」は学校により異なる

 次に、英語の授業時間数(=学校での英語の学習量)とスコアの関係をみていきます。図2は、先ほどのトータルスコアの伸びの分布に、それぞれの学校の高校3年間の英語の授業時間数の情報を合わせたものになります。3年間の授業時間数iii が、私立等で21時間以上(その多くが25時間以上)の学校もありますが、91点以上スコアを伸ばしている学校でも21時間未満の学校があります。これらの学校の多くは、公立の普通科などで17‐19時間ほど(文系の選択科目をいれて最大20時間前後)の学校であり、一般的な英語の授業時間数の中で英語力を著しく伸ばしているということになります。

図2 2年間のトータルスコアの伸び(2013-2015※)×3年間の英語の授業時間数

図2 2年間のトータルスコアの伸び(2013-2015※)×3年間の英語の時間数

※2013-2015は2013年(高1)→2015年(高3)の2年間の伸びをみたグループの結果

英語力を伸ばしている学校の英語授業

 英語力を伸ばしている要因を探るため、スコアを91点以上伸ばしている学校の中から、公立で3年間の英語の授業時間数が21時間未満(一部特設科併設を含む)の学校を全国から5校選び、英語科の先生にインタビューを実施しました。学校を選ぶ際、高1のスタート時の英語力が偏らないように考慮をしました。その結果、これらの学校は、学校や英語科として英語力向上の取り組みを行っていることが明らかになってきました。その一つが、指導の改善です。ここでは、英語力を伸ばしている学校が、どのような授業をしているかについて、共通してみえてきたことをご紹介します。

 言語習得の基本的な流れが、インプットからアウトプットであることはよく知られていることですが、英語力が伸びている学校でもそのように学習(授業)の流れが組まれていました。また、それらの学校では、英語で授業を行うことを基本としています。

 インプットとアウトプットの活動について、少し詳しくみていきます。図3は、英語力が伸びている学校のインプット活動とアウトプット活動の内容です。インプット活動については、まず英文の概要をつかむことから始めて、詳細理解へと進められています。また、インプット活動の中で、アウトプット活動に向けて、語彙やチャンクなどの新しく習った言語材料や知識を、生徒が自分のことばとして使えるようになるまでのステップが組まれていることも特徴的でした。

 アウトプット活動については、最初は間違いを気にせずたくさん話し書く活動を行い、その後、次のステップとして文法などの正確さの指導をしていることが、共通していました。また、ペアワークなど日々の授業で行える簡単なスピーキング活動を行うと共に、学期に数回などプレゼンやディスカッションなどの大きなアウトプット活動を設定されていました。晴れの舞台があることで、「それに向かってインプットの意識が高まり、授業で習った内容をアウトプットで積極的に使うようになる」、とある先生は述べられています。

図3 英語力の伸びている学校のインプット活動、アウトプット活動の内容

図3 英語力の伸びている学校のインプット活動とアウトプット活動

 もう一つ注目すべき点としては、大きくはインプットからアウトプットの流れになっているのですが、実際には、そのどちらの中でも「聞く」「話す」「読む」「書く」の活動が小さく継続的に行われていることです。大きなインプットからアウトプットというサイクルの中で、「聞く」「読む」「話す」「書く」の活動が小さく何度もまわっているイメージです。

 例えば、インプットの活動の際に、ペアワークで内容理解のQAを英語で確認しあうなど、生徒が話す場面が設定されています。特別な活動の時だけでなく、日常的に英語でやりとりし、使いながら学んでいると言えます。また、話したことを書くなど、同じ表現技能でも総合に補強しあう活動も行われています。

 ここまで授業の中での具体的な活動についてみてきましたが、これらの活動を行うにあたって大切なことは何でしょうか。以下は、インタビューでは先生方にこれらの活動をする際に、気を付けていることを聞いたものです。

・あらゆる場面で意味を意識するようにしている。読んだときに意味が残らない読みはだめだよ、と生徒に伝えている。ペアワークするときも、相手の話した内容を聞いていた生徒が話す回を設けている。

・(授業に)様々な種類の活動取り入れても、その内容が練習だけではだめなんだと気づいた。活動をして「読んだ後に何をするか」、「英語を使って何をするか」ということを考えるようになった。アウトプット(の活動)で(生徒の)自分の気持ちを表現させるようになっていった。

・生徒の気持ちをゆさぶること。例えば、(教科書の単元にでてくる)フェアトレードは本当によいものなのか、と生徒に疑問を投げかけるなど、生徒が当たり前と思っていることに対してを揺さぶりをかけることが一番大切な部分。

 母語の習得で考えるとわかりやすいと思いますが、言語の習得は意味がある文脈の中で起こると言われます。とは言え、外国語を習得する際には、母語のようにたくさんの文脈にふれることはできません。だからこそ、意味のある文脈の中で、学習者が自分の頭を働かせながら、学ぶことが大切となります。先生方は、上記のコメントのように、インプット活動の際も、アウトプット活動の際も、意味を活動を貫く軸として大切にされています。読み手や書き手の言いたいことを理解しようとしたり、自分の気持ちや考えを伝えようとしたりと、生徒が自分で考えて行う活動となっていると言えます。

生徒の英語力を伸ばすために自信を持って言語活動の充実を

 「中高の英語指導に関する実態調査2015」(ベネッセ教育総合研究所)から、高校英語教員が「自分の考えを英語で表現する機会を作る」や「4技能のバランスを考慮して指導する」など言語活動を中心とした指導の重要さを実感しつつ、実際には十分に実行できていない現状が明らかになっています。また、悩みとして、「コミュニケ―ション能力の育成と、入試のための指導を両立させることが難しい」が74.4%、「効果的な指導方法がみつからない」が60.3%、とかなり高くなっています。これらの結果からも、従来から行われてきた文法説明や和訳、練習問題などではなく、「話す」や「書く」活動も取り入れた言語活動を行っていくことで、本当に英語力がつくのだろうか、と漠然と不安に感じている先生方は多いと思われます。

 しかしながら、これまで英語力を伸ばしている学校の指導をみてきた通り、それらの学校では、「聞く」「話す」「読む」「書く」の活動を中心とした授業が行われています。ですから、自信を持って言語活動の充実に向けた一歩を踏み出していただきたいと思います。インタビューを行った学校の授業には、新しい語彙や知識を取り入れつつ、生徒の4技能の英語力を少しずつあげていくためのステップを組み込んだ縦の糸と、生徒が自分の頭を使って取り組まないといけない、取り組みたくなる意味を大切にした横の糸の両方が盛り込まれていました。全てをすぐに取り入れるのは難しいと思いますが、これから授業で行おうしていることが、インプット、アウトプットどの段階の何を目的としたものなのか、見直すことからもスタートできると思います。

 最後に、インタビュー調査を行った学校の先生方も、以下のコメントのように初めから自信たっぷりに始められたわけでなく、個人や教員同士での様々な葛藤を経て、このような成果がでるまで試行錯誤をくりかえされたことを付け加えたいと思います。

- 8年前、伝統的な文法訳読から多くの教員が脱却できなかった。でも実は訳読は教師も生徒もつらい。和訳をやめて楽になった。

-(ワークシートを用いた活動を中心とした英語の授業になって)楽になったといってくれた先生がいた。授業に行くときには準備は終わっている(ことが必要)。授業で教員が一生懸命になっているのは全然だめ、生徒が一生懸命になるのが授業。それまでにどれだけお膳だてができるか。

 楽になった、というコメントには、いろいろな思いが込められているように思います。必ずしも時間的なことだけでなく、授業に意欲的に取り組む生徒の変化や、一人ではなく学校で取り組むこと、重要と思いながら行えてこなかった指導を行えているという気持ちもそこには含まれているように思います。

 また、言うまでもないことですが、楽になったということが、手を抜くということではありません。コメントにあるように、授業中、先生ではなく生徒が、英語を使った活動に自分の頭と心を使って取り組めるよう、授業を変えていかれたということではないでしょうか。授業の中で、先生が力をかける比重が変わっているのだと考えます。また、1人で準備をするのではなく、担当者間で議論をしたり、教材や指導法、評価を研究する。これは、先に述べた先生方の悩みを少しでも解消することにつながると思います。

 前編では、英語力を伸ばしている学校が、どのような指導(授業)を行っているか、その内容について詳しくみていきました。後編では、それらの学校が個人ではなく学校や英語科全体で取り組んでいるということに注目し、どのようにして全体で取り組んでいるのか、について考えていきたいと思います。


受験人数については、人数の増減が10%以内、学習日数については、2年間+前後30日以内という条件を設定しています。
Common European Framework of Reference for Languagesの略称。Council of Europeが作成した「外国語の学習、教授、評価のためのヨーロッパ共通参照枠」。
授業時間数は、例えば、5時間で、週に5コマ、英語の授業があることを意味しています。

2016年12月4日(日)開催の上智大学・ベネッセ英語教育シンポジウムにて、
本オピニオンでご紹介の「英語力を伸ばしている学校はどんな学校か」をテーマにした研究について報告、事例紹介等を行います。

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著者プロフィール

森下 みゆき
もりした みゆき

ベネッセ教育総合研究所 研究員

ベネッセ総合教育研究所の前身の研究部門にて、ECF(幼児から成人まで一貫した英語教育の理論的枠組み)開発、東アジア高校英語力GTEC調査等に携わる。(株)ベネッセコーポレーションの幼児・小学生英語教材・サービス開発を経て、2016年より現職。子どもの英語学習とことばの成長、学校での英語教育について関心を持っている。

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