次世代育成研究室

ベネッセのオピニオン

第122回 一生学び続けるを科学する⑲
小学1・2年生の「学習態度」を支える親の関わりとは

2017年03月17日 掲載
研究員 田村 徳子

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学びに向かう力 学習態度 生活習慣 幼児期から小学生の家庭教育調査 自ら学び続ける力 文字・数・思考

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 少しずつ暖かい日が増え、幼児期から小学校低学年のお子さまがいるご家庭では、卒園や進級を迎える時期になりました。保護者の方は、1年前を思い返しては子どもの成長に気づき、胸の奥に深い感動をおぼえているのではないでしょうか。そして、来たる次の学年に向けて、子どもはやっていけるのかと、心配がよぎることもあるかと思います。

 私たちは、子どもが幼児期から小学校への移行する過程とどのように支えるとよりよい成長を促せるかを探る目的で「幼児期から小学生の家庭教育調査」を行ってきました。毎年冬、同じ母親に子どもの様子や親の関わりについてたずね、小2までの調査結果がまとまっています。今回、小学校スタート時期に子どもの「学習態度」を支えるためには、家庭のどのような働きかけが大切かについて、わかってきたことを述べたいと思います。

「自ら学び続ける力」が、子どもが未来を切り開く力になる

 私たちは、幼児から高校生までの子どもたちが「自ら目標を持ち、主体的に学び続ける力」を育めるようにするにはどうしたらいいかを考えてきました。変化の大きい社会では、主体的に「未来を切り開く力」がたいへん重要であり、学習を通じて得られる「自ら学び続ける力」はその大きな土台となると考えています。

 「幼児期から小学生の家庭教育調査」では、「自ら学び続ける力」の一部である「学習態度」の項目として、以下の4項目を聞いています。


  • 大人に言われなくても自分から進んで勉強する
  • 机に向かったら、すぐ勉強に取り掛かる
  • 勉強が終わるまで集中して取り組む
  • 勉強をしていて、わからないとき、自分で考え、解決しようとする

 いわば、学習の支えとなるエンジンを子どもが自主的にどれくらいかけられるかという内容です。この「学習態度」はどう育まれるのかを2つの視点からみてみました。ひとつは子ども自身の成長のプロセスから、もうひとつは親によるサポートからです。

職業教育の幅広い効果―「青年期の自己形成支援」の視点

 まず、子どもの成長のプロセスから見ていきます。すでに前回のオピニオンで示した通り、幼児期では、生活習慣が学びに向かう力に影響を与え、学びに向かう力が文字・数・思考に影響を与えていることがわかりました。小2までの結果から、これらを幼児期に身に付けることが小1での「学習態度」につながり、さらに小2での「学習態度」に結びついていることがわかりました。幼児期の育ちが土台となって、小学校以降の学習や生活に大切な「学習態度」に結びついているのです(図1)。

 とりわけ、年長児で生活習慣が整っていること、人の話を終わりまで静かに聞いたり、集中していても時間が来たら切り替えられること(自己抑制)、物事をあきらめずに挑戦したり、工夫して達成しようとすること(がんばる力)、そして自分の言葉で順序をたてて相手にわかるように話せるなど言葉によるコミュニケーションができることが、小1での「学習態度」の成長につながっていました。そして、小1で「学習態度」が身に付いているほど、小2でも、自ら学習する態度に結びつく結果となりました。

 子ども自身の成長のプロセスを俯瞰してみると、幼児期では毎学年で影響を与える力が変化し、他の力に波及していくのに対して、小1から小2では変化が少ないことがわかります。調査した時期が3学期ですので、入学したばかりの1学期から2学期の間に、子どもたちに大きな変化が起こった可能性もあります。つまり、幼児から小学生になる、という変化です。それは、園で先生が身振りや何度も説明してくれることを頼りに、活動のなかで自分の興味に沿って力を発揮することから、園より1クラスあたりの人数が増えた中で先生の説明を聞き取って理解し、興味の有無に関わらずカリキュラムに従って学習していくことができるという変化です。

【図1】

【図1】 

親による「子どもの意欲を大切にする態度」と「学習環境を整える関わり」が、子どもの「学習態度」を支える

 次に、親によるサポートの視点から、「学習態度」をみていきます。調査から、小1での親の関わりが小2の「学習態度」にどう影響するのかを分析しました。影響の大きかった親の関わりを抽出すると、「子どもの意欲を大切にする態度」と「子どもの学ぶ環境を整え」が小2の「学習態度」に影響を与えていることがわかりました(図2)。「子どもの意欲を大切にする態度」とは、子どものやりたいことを尊重し支援したり、やろうとしているときに手を出さずに最後まで見守ったり、しかるよりほめるようにしたりしているといった7つの項目からなります。また、「子どもの学ぶ環境の整え」とは、ワークブックや教具などを使って学習させる、文字や数に興味を示したときにさらに学べるような環境を整えるなどの4つの項目からなります。

【図2】

【図2】 



 さらに、「子どもの意欲を大切にする態度」と「子どもの学ぶ環境の整え」を得点化し、それぞれ高群と低群に分けました(図3)。そして、両方とも高群だった人を「子どもの意欲を大切にし、学ぶ環境を整えた群」、どちらかのみが高群だった人を「意欲を大切にするのみの群」、「学ぶ環境を整えるのみの群」として、この3群で子どもの「学習態度」がどれくらい身についているかをみました。その結果、両方がそろっているほうが学習態度が身に付いていることがわかってきたのです。

【図3】
【図3】 


 親の関わりを俯瞰してみると、子どもがやろうとしている気持ちを認める心理的なサポートと、学校で学んでくることを深く理解できるように家庭でも学習環境を整える物理的なサポートの両方がそろってこそ、子どもの「学習態度」により影響することがわかります。いわば、家庭での心理的なサポートと物理的なサポートが、子どもが自ら学習へのエンジンをかけるときにとても役に立つということです。これは小学校低学年という、基本的に学習に意欲的に取り組むことができ、親からのアドバイスをまっすぐに受け入れられる時期だからこその特徴かもしれません。

子どもの積極的な気持ちを信頼し、学ぶ環境を整えて、子どもの「学習態度」を支えよう

 幼児期から小学校までの時期は、学びの基礎力を培う時期です。同一の子どもが年少児から小2になるまでの5年間を追跡したデータを分析した結果、幼児期で培った力が小1での「学習態度」につながり、さらに小2の「学習態度」に結びつくことがわかりました。さらに、保護者が子どもの意欲を大切にし、学ぶ環境を整えることが、家庭で子どもが「学習態度」を身に付けるときの支えになることがみえてきました。

 年長児から小学校低学年の時期は、園から小学校へと子どもの環境が大きく変化する時期です。新しい先生に出会い、友だちが増え、授業が組まれることで時間の使い方が変わります。子どもは新しい環境に期待を持ち、適応しようとします。しかし、実際には学校生活のなかで先生の話を聞き取って理解し、興味の有無に関わらずカリキュラムに従って学習していくなど、難しい場面に直面することも多くなります。そのようなとき、保護者としては子どものゆるやかなペースに心配になり、焦りがつのるあまり、「なんでできないの?」「他の子はできているの?」と暗に子どもを責めてしまうこともあります。そのようなとき、一息ついてください。そして、子どもがやろうと取り組んでいる姿勢を汲み取り、子どもの積極的な気持ちを信頼して、取り組み始めたときにほめ、やり遂げるまで(じりじりしますが)見守り、前回はできなかったけれど今回はできたことを保護者自身が発見して伝えてあげてください。子どもは自らの成長を知り、自ら学ぶことへの自信につながります。また、子どもが家庭でも学ぶ機会を得られるように環境を整えることも大切です。学校で習ってきた知識や技能を定着することにつながり、考え方の理解を深め、もっと広く深く知りたいという気持ちを育みます。このような子どもの積極的な気持ちを信頼し、学ぶ環境を整えることは、幼児期から小学校に切り替わり、学習生活をスタートする時期に必要な保護者の関わり方と言えるのではないでしょうか。

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著者プロフィール

田村 徳子
たむら さとこ

ベネッセ教育総合研究所 研究員

(株)ベネッセコーポレーションの小学講座教材編集などを経て、2008年度より現職。
妊娠・出産期から乳幼児をもつ家族を対象とした意識や実態の調査・研究を担当。
これまで担当した主な調査は、「妊娠出産子育て基本調査」(2008年~2010年)、「幼児期から小学生の家庭教育調査」(2011年~2017年)「乳幼児のメディア視聴に関する調査研究」(2011年~2013年)など。
新しく若い生命の存在が、家族や社会など周囲とどのようにかかわりを持ち、互いに影響を与えて次世代を担っていくのかを探り、知見を広く還元したいと思っている。

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