保育所・幼稚園の状況にも大きな地域差が
少子化問題は、都市部と地方では全く違う様相を示していて、対策も地域の事情に合わせたものが求められるのです。また、「少子化対策」イコール「子育て支援」と見られがちですが、人口減少によって園や学校の維持も難しくなっていくので、学校教育への影響も検討すべき重要なポイントです。
たとえば、幼稚園・保育所の定員充足率を見てみましょう。2012年に当研究所で実施した、「第2回幼児教育・保育についての基本調査」のデータから、保育所の0歳児から2歳児の定員充足率を見ると、都市部以外ではすでに定員割れが起こっていることがわかります(図2)。
暖色(オレンジ色)が定員割れを起こしている割合を示しているのですが、都市部の公営保育所で22.0%、私営保育所で12.5%に対し、都市部以外の公営保育所では61.1%、私営保育所で28.5%となっています。
幼稚園も含め、3~5歳児が通う園の状況を見ると、都市部と都市部以外の状況の差が一層明確になります(図3)。とくに都市部以外の国公立幼稚園の定員割れは95.4%にもなっています。このような定員割れは、平成27年(2015)から開始される「子ども子育て支援新制度」の中で、幼稚園と保育所を一体化させて認定こども園を設立する動きに発展していくでしょう。
図2 0~2歳児の定員充足率(保育所・地域別)
図3 3~5歳児の定員充足率(園の区分別・地域別)
*図1・2共に、各年齢の定員数と実員数に記入のあったサンプルのみを分析。( )内はサンプル数。
*「都市部」は、首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)と近畿圏(京都府・大阪府・兵庫県)。
*定員割れ率(暖色部分)は「50%未満」+「50%以上75%未満」+「75%以上100%未満」の%
出典:「第2回幼児教育・保育についての基本調査」(ベネッセ教育総合研究所 2012年)
地域による教育格差を生まないために
さらには学校の統廃合も問題になります。すでにこの10年間で小学校の総数は2003年の23,633校から2012年の21,460校へと約10%(2,173校)減少しています。地域によっては、幼稚園・保育所と小学校、場合によっては中学校も統合した施設を作るところも出てきています。こうした将来的な人口減少を見越して、文部科学省では新しい義務教育モデルの研究をスタートさせています(注3)。
10年後、20年後といった長期視点で見ると、通学圏の拡大はスクールバス(タクシー)などの交通手段を用意することで解消し、児童生徒の減少は分校での複式学級のような授業や、教科によっては小中一緒の授業、ICTを使って他校の児童と交流できるようにするなど、学校教育を維持するために柔軟な対策を打たざるを得なくなるでしょう。
都市部と地方で教育格差が生じないよう、どのような工夫ができるか、将来に向け今から知恵を絞る必要が出てきます。格差拡大を防ぎ、教育の質をどのように維持していくのか、まだ議論される機会は少ないのですが、教育を受ける子ども一人ひとりの立場に立つと、とても重要なテーマであると考えます。
注1)国土交通省国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」(中間とりまとめ)
注2)「子育て同盟」の加盟県は宮城・長野・三重・鳥取・岡山・広島・徳島・高知・佐賀・宮崎の10県(2013年4月)
注3)国立教育政策研究所「人口減少社会における学校制度の設計と教育形態の開発のための総合的研究」