高等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第7回 大学生がグローバル社会に立ち向かうために

2013年06月07日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
主任研究員 樋口 健

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高校・大学教育の「グローバル仕様」への転換が始まった

政府は加速するグローバル社会に通用する人材育成を目指して、急ピッチで様々な政策を打ち出している。今年度の高校1年生から高校の英語授業が英語で行われるようになった。また、国際バカロレア取得校の飛躍的拡充も唱えられている。大学でも、入試や教育・研究システム、学位のあり方に至るまで国際競争力の徹底強化をにらんだ改革案が浮上しており、これからの大きな変化が予想される。

このように、高校から大学にかけて教育の様々な側面で「グローバル仕様」への転換がいよいよ始まった。環境変化を前に、グローバル化に対処するための大学教育、特に語学教育はどのような今日的な意義を持つのか。そして、どう変わっていくべきなのだろうか。

大学生の外国語に対する自信は、学年進行で「右肩下がり」

一枚の気になるグラフがある(図1)。これは「大学で語学力が身についたかどうか」大学生の自己評価の比率を学年別に示したものだ。ベネッセ教育総合研究所が実施した「第2回大学生の学習・生活実態調査」(以降、大学生調査)からのデータだが、1年時がピークであとは学年が進むにつれて減少する。もっともこれは、大学生の語学力を客観測定したものではないので本当の実力を示したものではない。むしろ「自分には外国語の力がついた」との、いわば「自信」に近いニュアンスで理解できる。この観点から見ると大学生の「外国語に対する自信」は、学年進行に即して右肩下がりといえるだろう。

背景として推測されるのは、端的にいえば受験勉強をくぐりぬけた後の1年時は、接した英語の記憶がまだ鮮明である故に、それなりの自信があるということ。さらには、大学の語学授業が1~2年生を中心に配置され、3~4年になると学生は実質的に外国語(英語)から遠ざかってしまうという状況を反映している。

学生は卒業後、待ったなしで、急加速で進展するグローバル社会・経済の中で生き抜いていかなければならない。語学力は当然の、それだけに重要な素養である。しかし、その自信が4年間で低下していく現在の大学における外国語教育は、(改革を推進する大学も多数あるものの)全体として課題がある。

図1. 大学生活の中で外国語の力は身についたか

外国語への自信は、大学生の「グローバル社会に立ち向かう意識」とつながっている

大学生にとっての語学の重要性を強調するもう一つの側面がある。それは「外国語に対する自信が、グローバル社会に立ち向かうための大学生の意識や行動と強く関連している」ということだ。

図2をご覧いただきたい。「将来、海外で活躍したい」、「仕事上で必要ならば海外で働くこともいとわない」との意識について、外国語の諸技能が「身についた」とする群と「身についていない」とする群を比べると、両者の将来的な海外活動に対する積極性の差は非常に大きく、明瞭である。

図2. 外国語の身につき度合いと海外での就労意識
図2.外国語の身につき度合いと海外での就労意識

若者の内向き志向が指摘される今日、大学生の語学力の育成は、文字通り語学力の獲得に加え、広い世界に向かって主体性をもって立ち向かう「心理的なハードルを下げる」役割を担うといえる。グローバル社会に対応する人材の要件には、思考力、問題解決力、異文化・多様性を理解する力、意見を明確に主張する力など様々な要素があり、語学力だけでなく包括的な視点からの育成が唱えられる。だが、特に日本人大学生にとっての語学力の育成は、主体性や自己効力感につながるものである。単なるスキル獲得以上の人間形成上の根幹的な意味を持つ、優先順位の高いものではないだろうか。

語学力を鍛え「グローバル社会における主体性」を育もう

冒頭に触れたように、様々な制度変革の中で、今後高校段階までの語学力は大きく向上していくだろう。大学ではグローバル化への環境変化を踏まえ、4年間を通じて、大学内での様々な機会を捉えて学生の語学力を鍛える一層の取り組みを期待したい。そしてこれらは、とりもなおさず「グローバル社会における主体性」を育む教育につながるのではないか。例えば留学プログラムの充実ももちろん重要だ。その基礎となる学内の取り組みは一層大胆に充実すべきだ。まず語学の授業は1~2年に偏るのではなく、少なくとも4年間必修として配置すべきだろう。

また大学の語学教育の課題として「活用する場の不足」を指摘する声があるが、例えば専門科目の英語による授業を格段に増やすべきだと思う。そこで活発なディスカッションやプレゼンテーションを経験することこそが、多くの学生が参加できる「大学での英語活用、実践的な鍛錬の場」であるからだ。いわば英語によるアクティブラーニングである。主体性を育む教育は、現在大学教育の主要課題となっている。これをグローバル対応の視点から捉えなおし、既存の教育プログラムを再構築していくことが必要になると考える。

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著者プロフィール

樋口 健 
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

民間シンクタンクにおいて、教育政策や労働政策、産業政策等のリサーチ・コンサルテーションに携わる。その後、ベネッセコーポレーションに移籍し、ベネッセ教育総合研究所において主に高等教育に関する調査研究を担当。これまでの関わった主な調査研究は以下のとおり。

関心事:我が国における「中等後教育の戦略」はどうあるべきか

調査研究その他活動:日本学生支援機構 有識者会議委員、研修事業委員会委員

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