高等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第40回 大学入試制度改革の議論を進めるために
-高校・大学現場の声を踏まえた3つの課題-

2014年01月31日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
主任研究員 樋口 健

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高大接続 大学入試 教学改革

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 昨年10月末に出された教育再生実行会議第四次提言を受け、中央教育審議会(高大接続特別部会)では、新たな大学入試制度のあり方について審議を続けている。その最終的な着地点が注目されているわけだが、未だ制度の詳細な具体像は見えてこない。そこで本稿では、我々が昨年11月から12月末に実施した全国の高等学校長、大学学科長に対する調査から明らかになった、高・大の教育現場が抱く大学入試制度改革に対する認識(調査結果、自由意見)を踏まえ、今後の政策論議に求められる課題は何か、3つの観点から提示する。

課題1: 大学入試制度の改革は必要。しかし、なぜセンター試験を廃止し達成度テスト導入なのか疑問も多い。解決すべき問題を明らかにし、新たな施策の意義について理解を促す必要がある。

 図1は、現在国で審議されている入試制度改革の方向性についての、賛否を問うたものである。この結果をみると、共通の学力試験を基礎として大学が多面的な評価を加える入学者選抜には、高校・大学ともに6割程度が賛成している。自由意見では多面的評価の公平性を課題視する声があったが、高・大ともに大学入試制度改革の必要性は認め、その方向性について大枠では賛成している。

 高校と大学で賛否が分かれたのは「なぜ現在のセンター試験を廃止し、達成度テストを導入しなければならいのか」という点だ。「現在のセンター試験の廃止」については、高校では全体として反対する割合が高い(賛成19.6%、反対41.6%)。大学ではほぼ賛否均衡だが(賛成26.8%、反対28.8%)、国公立で反対の比率が4割近くに高まる。一方「基礎レベル・発展レベルの2種類の達成度テスト導入」については高校で反対、大学で賛成がそれぞれ4割と高大で反応が分かれた。ただ大学では国立は反対、私立は賛成の比率が高い。後述するが、私立大学は推薦・AO入試の資料としての活用を想定したものだろう。

 センター試験は既に20年以上にわたり安定的に運営され、基礎学力を見る公平な大学入試方式として、また高校での学習指導の中にも定着してきた。難問奇問を排した良質な問題との評価も得ている。そうした中で、政府の現在の議論では、(自由記述に多くみられたが)「現在のセンター試験の根本的な問題は何なのか」「センター試験と達成度テスト(発展レベル)の何が違うのか」という点が必ずしも明らかではない。こうした状況が教育現場からの疑問を招いていると推測される。

 いずれにしても、大学入試制度改革の必要性について認識は広がりつつある。しかし個別施策については、責任ある立場の高等学校長や大学学科長に対して、現段階でその意義や必要性が十分に伝わっているとはいえない。いずれの施策についても、高大ともに3割から4割が「どちらともいえない」と回答している点もこのことを示している。それだけに、なぜ入試制度改革が今必要なのか、入試制度改革で解決をめざす課題は何なのか、そのための施策の意義を高校・大学の双方に分かりやすく説明し、広く理解を促す必要があるだろう。

 

図1 大学入試制度改革に対する賛否(全体) 【高校調査】【大学調査】

注)  サンプル数は高校1,228名 大学2,015名。

* 右表の「賛成」は、「賛成」+「どちらかといえば賛成」の値、「反対」は、「反対」+「どちらかといえば反対」の値を示す。

課題2: 「達成度テストの複数回受験」は、特に高校で教育活動への影響を強く懸念。その一方で推薦・AO入試での活用には賛意。新制度を実効ならしめるためには、このジレンマを解消する必要がある。

 さらに各論に入るが、「達成度テストの複数回受験」については高校で賛成31.8%、反対40.6%、大学で賛成43.6%、反対23.2%と、高大での認識が分かれた。高校では特に学力上位校の反対率が高く(57.5%)、大学では私立の賛成率が高い(46.4%)。

 複数回受験に対する高校側の懸念は強い。それは「正常な教育活動に支障をきたす」との危機感である。例えば「3年間の学習がテストや受験対策に偏る」ことへの危惧、ひいては「行事や部活動への影響を懸念する」との声が多数寄せられた。また、試験の運営主体となった場合の負担増も懸念の一因としてあるようだ。

 その一方で、「達成度テスト(基礎レベル)の推薦・AO入試への活用」は高校の46.9%、大学の48.3%が賛成と回答。特に私立大学の自由記述では、基礎学力把握への活用に賛成する声が多かった。達成度テストの複数回受験には特に高校側で懸念する声が強いものの、「無試験入試」と問題視されてきた推薦・AO入試の現状打開策としては、一定の期待を集めている。すなわち、特に高校段階では達成度テストへの(複数回受験による)懸念と推薦・AO入試での活用期待が同居するジレンマが生じている。この状況をどう解消するのか、制度の実効性を高める上で重要な論点と考える。

課題3: 大学入試制度改革だけでは学びは改善しない。高校・大学の7年間を通じて若者にどのような成長の機会を与えるのか。高校・大学改革と合わせた一体改革を徹底すべき。

 また、入試制度改革のあり方を議論する上で踏まえるべき重要な事実がある。もはや「大学入試制度改革だけでは、学びは改善されない」との認識が広く存在しているということだ。その状況は、大学で6割以上、高校でも5割以上が「大学入試を改革すれば高校生はもっと積極的に学習に取り組むだろう」という考えに否定的に回答している事実に端的に示されている。また、高校の8割、大学の7割が大学で「進級や卒業の認定基準をもっと厳しくしたほうがよい」と回答している(以上図2)。

 

図2 今後の大学入学者選抜・高校や大学のあり方について(全体) 【高校調査】【大学調査】

 

 こうした点を踏まえると、大学入試制度改革は、あくまでも高校生・大学生の成長を中心に据え、高校教育の改革、大学教育の改革と合わせて総合的に検討されなければならない。先述した、達成度テストの導入に対する高校側の懸念は、(課外活動なども含め)高校生の豊かな学びと成長を保証できるのか教育面からの妥当性を問うていると解釈することもできるだろう。

 

 大学入試制度改革の議論はこれからも続く。新しい大学入試制度を実りあるものにするためにも、今後、高校・大学それぞれ教育現場からの声を大切にし、「高校・大学時代の7年間を通して、若者にどのように豊かな学びの場、成長の機会を提供するのか」という教育の原点に立ち戻った、総合的な視点に立つ改革が望まれる。これらの視点は、国の審議の中でも意識されている。しかし政府サイドだけでなく、高校・大学や保護者また我々のような教育関連の事業体をも含め、今日の入試制度改革のあり方を考え、行方を見守る「共通原則」としてあらためて提起しておきたい。

 

●調査概要

名称 高大接続に関する調査
調査テーマ 高大接続の実態・課題をとらえる
調査方法 郵送法による質問紙調査
調査時期 2013年11月~12月
調査対象

高校  校長 1,228名 (配布数 2,500通、回収率49.1%)

 *全国の全日制高等学校のリストより、無作為に学校を抽出。

大学  学科長 2,015名(配布数5,060通、回収率39.8%)

 *全国の学部・学科リストを利用し、その全てに配布。

  ただし大学院大学、放送大学、通信制のみの大学、社会人が主な対象である学部・学科等を除いている。

調査項目

【高校・大学共通項目】大学入学者に求める力・高校で育成している力/高大接続の意識/今後の高大接続像/現在の改革に対する賛否 など

【高校】進学者の実態・課題/進路指導の課題/大学入学者選抜に対する考え方/新課程下の指導実態 など

【大学】1年生の実態・課題/入学者選抜の実態・課題/高大連携/入学前教育/リメディアル教育/初年次教育 など

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著者プロフィール

樋口 健 
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員

民間シンクタンクにおいて、教育政策や労働政策、産業政策等のリサーチ・コンサルテーションに携わる。その後、ベネッセコーポレーションに移籍し、ベネッセ教育総合研究所において主に高等教育に関する調査研究を担当。これまでの関わった主な調査研究は以下のとおり。

関心事:我が国における「中等後教育の戦略」はどうあるべきか

調査研究その他活動:日本学生支援機構 有識者会議委員、研修事業委員会委員

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