高等教育研究室

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【政策動向の解説】
平成26年度 高等教育関連概算要求を読む

- 我が国の大学再編への幕開け -

2013年09月13日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 主任研究員 樋口 健

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8月30日政府は平成26年度政府予算の概算要求を公表した。文部科学省が提出した文教政策の概算要求は総額で5兆9035億円(前年比10.2%増)。内、高等教育局は1兆9,443億円と教育費総額のおよそ3割にのぼる。

文科省の政策の「本気度」は、通常は継続施策については前年度からの予算増加率(大幅増)や新規計上額の規模等で把握できる。自民党が政権復帰した今年度、新たな予算の中でとりわけ注目されるのは、政治主導による「骨太の成長戦略の実現」を目的として要求された「新しい日本のための優先課題推進枠(優先課題推進枠と略)」だ。以下主な施策を表に整理し、そこに見える大学改革の行方について展望する。

平成26年度 「優先課題推進枠」における高等教育関連の主な概算要求
施策名概要要求額備考
スーパーグローバル大学事業 グローバル化を背景に、世界に冠たる教育研究レベルを誇るトップレベル大学をはじめ、高等教育の国際化を牽引し有為な人材を育成するグローバルトップ大学群を形成する国公私立大学を、現行制度の枠にとらわれずに、制度改革と組み合わせ制度と予算を総動員して支援。30大学(トップ型10大学、グローバル化牽引型20大学) 156億円 新規
大学等の海外留学支援制度の創設 意欲と能力のある若者全員に留学機会を付与し、世界に勝てる真のグローバル人材を育てるため、奨学金の拡充により留学経費の負担軽減を図るとともに、大学、企業等との連携による研修の実施等、日本人学生の海外留学をきめ細かく支援する官民が協力した新たな制度を創設 144億円 前年度+93億円
国立大学改革の強化促進事業 ミッション再定義を踏まえた学内資源配分最適化のための大学や学部の枠を超えた教育研究組織の再編成に向けた取組、人材の新陳代謝や年俸制への切り替えなど先導的な取り組みを集中的かつ重点的に支援。特に、今後産業界との対話を通じて策定される理工系分野の人材育成を重点支援。 220億円 前年度+35億円
私立大学等改革総合支援事業 教育の質的転換、地域発展、産業界・他大学等との連携、グローバル化などの改革に全学的・組織的に取り組む私立大学等に対する支援を強化するため、経常費・設備費・施設費を一体として重点的に支援 248億円 前年度+70億円
大学改革加速プログラム これまでの大学改革の成果をベースとして、教育再生実行会議等で示された新たな方向性(学事暦の見直し、入試改革、ギャップターム活動、高大接続、ガバナンス改革、IR等)に合致した先進的な取組を実施する大学を支援することで、国として進めるべき大学改革を積極的に推進 20億円 新規
地(知)の拠点整備事業 大学等が、自治体と連携し、地域の課題解決にあたる全学的な取組のうち、特に優れたものを支援することで、課題解決に資する様々な人材や情報・技術が集まる、地域コミュニティの中核的存在としての大学の機能強化を図る 61億円 前年度+39億円

資料;文科省予算説明資料をもとにベネッセ教育総合研究所作成

新たな政策ツールを利用したグローバル人材の育成

26年度のポイントは「大学のグローバル化」と「地域をベースとした本格的な大学再編」を促す施策が目立つことだ。「スーパーグローバル大学事業」は、この政策枠組みに組み入れられる大学は、グローバルに研究を展開するトップの研究重点30大学である。中でも「トップ型」として明記された10大学は、国際大学ランキング100位以内にランクインすることを目標に支援される。「大学等の海外留学支援制度」についても前年度比95億UPと大幅に増額している。そのための奨学資金を、税制優遇によって民間企業・個人から集めるこれまでにない政策展開を企図しており、その成否が注目される。

「国立大学ミッションの再定義」が地域の大学全体を変える引き金に

一方「国立大学改革の強化促進事業」は、平成24年度から開始された大学改革実行プランの推進を狙ったものに他ならない。大学のミッション再定義は学部・学科再編の強力な契機となる。この施策が人材の新陳代謝まで踏みこんでいるのは、その証左である。中央教育審議会・大学分科会でも、組織・制度部会を設置し、人事制度を含む大学のガバナンス改革に関する議論を始めている。そこで意図しているものは、大学の改革スピード向上を意図した統治・権限関係の改革である。

また、併せて実施される「地(知)の拠点整備事業」は、地域の経済・産業政策と一体となり、地域大学の教育機能の改革を一層促すものとなろう。一方、国立大学の学部学科再編は、進学する高校生の大学選択行動にも大きな影響を及ぼす。すなわち、ことは国立大学にとどまらず、恐らくは周辺の公立大学、私立大学をも巻き込んだ地域一体の大学再編につながる可能性を秘めている。

大学再編元年としての平成26年

大学改革実行プランの完遂目標である平成30年度は、18歳人口が再び大きく減少を始める時期である。このように見てくると、政府・文科省の施策から、入学者人口が安定している残り5年間で大学の制度を大きく改革し、再編を具体的に進めようとの意図が透けて見える。平成26年はいよいよその実行元年であり、グローバル化促進と合わせ国公私立大学全体をまきこんだ再編の幕開けとなるのかもしれない。

プロフィール

樋口 健 (ベネッセ教育総合研究所 主任研究員)

民間シンクタンクにおいて、教育政策や労働政策、産業政策等のリサーチ・コンサルテーションに携わる。その後、ベネッセコーポレーションに移籍し、ベネッセ教育総合研究所において主に高等教育に関する調査研究を担当。これまでの関わった主な調査研究は以下のとおり。

「大学卒業程度の学力を認定する仕組みに関する調査研究」(2009年 文科省委託)
「留学生・海外体験者の国外における能力開発を中心とした労働・経済政策に関する調査研究」(2009年 経済産業省委託)[PDF]
「質保証を中心とした大学教育の現状と課題に関する調査」(2010年)
「社会で必要な能力と高校・大学時代の経験に関する調査」(2011年)
「大学生の学習・生活実態調査」(第1回2009年、第2回2013年)
「大学生の保護者調査」(2012年)
「大学生が振り返る大学受験調査」(2012年)など。

関心事:我が国における「中等後教育の戦略」はどうあるべきか
調査研究その他活動:日本学生支援機構 有識者会議委員、研修事業委員会委員

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