高等教育研究室

研究室トピックス

【調査研究】
大学におけるカリキュラム改訂のねらいと課題
-大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査結果より(その1)-

2013年11月06日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 主任研究員 樋口 健

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 ベネッセ教育総合研究所では、2012年度より我が国初のFD専門家団体である日本高等教育開発協会と共同で「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査」を実施している。周知のように、学生が自ら能動的に学ぶ「主体的な学習」への転換は、平成24年8月の文部科学省中央教育審議会(大学分科会)答申で大きくクローズアップさている。こうした状況の下、本調査は、全国の大学・学科を対象に、主体的な学習を促すカリキュラムの現状と構築の課題把握を目的として実施したものだ。
 本稿では、アンケート調査結果の中から「カリキュラム改訂のねらい」に焦点を当て、その実態と課題を述べる。

【調査概要及びURL】
調査テーマ   全国の大学におけるカリキュラムの実態
調査方法 郵送法による質問紙調査
調査対象 全国の国公私立大学2,376学科の学科長
(配布数5,196通、回収率45.7%)
調査時期 2013年2 ~ 3月
報告書リンク 大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査報告書(アンケート調査編)

 

主体的な学び」「学力向上」「社会で必要な力の獲得」が共通のねらい

 まず、カリキュラム改訂のねらいとして多いのは、「学生に主体的な学びの姿勢や意欲を身につけさせる」(66.9%)、「効果的・効率的に学生の学力を向上させる」(62.8%)、「専門的な知識だけでなく、社会に出た時に必要な汎用的能力の育成・強化」(62.3%)であった(図1)。学生の主体性と基礎学力の向上、また社会で必要な能力の獲得はひろく大学共通認識となっているようだ。我々の研究チームは、今回アンケート調査とは別に、大学への訪問調査を実施している(報告書は2014年3月刊行)。そこでは、ここに記載した3つの課題が新たなカリキュラムが目指す方向性として複数の大学から聞かれており、問題意識としての大学現場への浸透ぶりを実際に確認していることを付記しておく。
 設置者別に、違いが大きいのは、「志願者数を増やす」「就職実績や資格試験の合格率を上げる」「学生の留年・退学を減らす(なくす)」の3つの、経営課題にも関連する項目であり、いずれも私立において相対的に強く意識されていた。私立では「主体的な学び」「学力向上」「社会で必要な力の獲得」という教育上の達成と、「志願者増」、「就職実績」、「留年・退学」など経営にも関わる課題とが、密接に結びついて意識されているという見方もできるだろう。

図1 カリキュラム改訂のねらい(全体・設置者別)

カリキュラム改訂に「企業など学外の意見を取り入れる」を重視するのは2割

 一方、大学はカリキュラム改訂の際に「誰の意見を取り入れる努力をしているのか」を見たのが図2である。実際は「カリキュラム改訂において重視したこと」という設問から、意見反映に関する項目を抜粋した。これを「とても重視した」と「やや重視した」を合わせた比率で見ると「多くの教員の意見をまんべんなく」そして「教授会の承認」がそれぞれ6割以上で上位2項目であった。特に「教授会の承認」について「とても重視した」比率に着目すると実に31%にも上り、その重要性に対する認識を見てとれる。
 同様に「学生の意見や評価」は4割弱、「企業など学外の意見」は2割程度であった。これを「とても重視した」比率だけで見ると、いずれも4%に満たない。近時、学際参加型のFDなど学生側の意見を教育に取り入れようとする試みも始まっている。しかしアンケートで全体を俯瞰すると、(これまでの歴史を踏まえれば当然ともいえるが)現状のカリキュラム改訂は圧倒的に教員中心に議論されていると言えそうだ。特に「企業」がカリキュラム改訂に意見を述べる機会は、ごく僅かと推測できる。

図2 カリキュラム改訂において重視したこと(抜粋)

「開かれたカリキュラム構築」の態勢づくりは可能か

 「主体的な学び」「学力向上」「社会で必要な力の獲得」がカリキュラム改革の共通の狙いになっていることは既に述べた。これらのカリキュラム改訂のねらいを首尾よく達成するには、大学での学びの課題について教員・学生がどう捉え、学生自らが学びにどのように取り組み、教員がそれをどのように支援すべきなのか。さらには、企業など社会の側が本質的に必要としている能力は何なのか、その中で大学教育の中で育むべきものは何か、相互に意見交換・対話を行い、認識を共有しながらカリキュラム設計・運営に取り組む必要も出てくるのではないだろうか。いわば当事者・利害関係者に「開かれたカリキュラム構築」の態勢づくりが必要なのではないか。
 これまでのデータを見ると、そこに至る道筋は緒についたばかりといえそうである。しかし環境変化の激しい現在だからこそ、さらには、今後の教学改革への期待を込めて、課題として提起しておきたい。

 なお本コーナーでは、今後も「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査」の様々な調査データを取り上げ、分析結果を掲載する予定ですのでご期待ください。

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