高等教育研究室

研究室トピックス

【調査研究】
高校生はどのように志望する大学を選んでいるか

2013年12月13日 掲載
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司

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高校生の大学選択基準に関する調査とは

 高等教育研究室では、今年(2013年)3月に、全国の高校3年生(大学進学先の決定した卒業間際の高校生)とその保護者各1,181名に、大学の選択で何を重視しているか、第1志望大を決めた時期はいつごろかなど、高校生の大学選択基準に関する調査を行った。(国公私立・男女・エリアをそれぞれ統制して実施したWeb調査。)この調査の目的は、高校生は大学の何を見て進学する大学を決めているのか、また、大学が教育の質的転換を進めることは、高校生の志望大の決定に影響を与えうるかを調べることであった。この調査から得られた知見のいくつかは、弊社発行のView21大学版2013 Vol.2 『教学改革と高校生の大学選択基準』で紹介している。(View21大学版は、紙媒体冊子は、全国の大学長、学部長、高等学校長にお送りしているほか、希望者の方々にもお送りしている。また、本サイトの「教育情報誌」コーナーにPDF版が掲載されているので、そちらもご参照いただきたい。
/berd/center/open/dai/view21/2013/12/index.html

 本コラムでは、この記事の中で紹介しきれなかったデータをいくつか取り上げ、高校生の大学選択行動についての更に深い検討を行ってみたい。


進学動機別にみる志望大学の決め方~動機が曖昧な場合は大人のアドバイスが重要

 図1は、進学動機と大学選択のパターンをクロス集計したものである。同じデータは、上に述べたView 21 大学版にも掲載している。ここでいう進学動機は、以下の4つのパターンに分けている。
① なりたい職業があって、それに就ける大学・学部を選んだ
② 学びたい学問があって、それが学べる大学・学部を選んだ
③ 特に職業や学問にはこだわりがないが、よい大学に入ることを目指して頑張った
④ 特に職業や学問にはこだわりはなく、自分の成績で入れる大学を選んだ

「大学選択のパターン」は、名前を知っている大学をまず情報誌やインターネットで調べ、そこで興味のある勉強ができそうかなどで絞り込んでいった、といった選択の手順をいくつか挙げて、最も近いものを選択してもらった。こちらのパターンの詳細は、View21 大学版P7でご確認いただきたい。

 図1で目を引くのは、特に就きたい職業、学びたい学問がない(③・④)生徒で、教師・友人・保護者の勧めが30%前後と大きな割合を占めていることである。そこで、この「人の勧め、かかわり」を更に詳細に見て行きたい。
 図2は、「教師・友人・保護者の勧め」を更に詳しく見た内訳である。帯グラフ中のパーセンテージは、全体の中での割合を示している。(たとえば図1の①の「教師・友人・保護者の勧め」20.3%中、教師の勧めは8.8%が占める、というように細かい内訳が示されている。)

 これを見ると、まず「教師の勧め」が全体的に比率が高い事がわかる。志望校を決める際に、高校の教師の影響はかなり大きい。また、特に進学に職業や学問の目的を持っていない生徒(③・④)には、保護者も強い影響力を与えていることがわかる。これらと比較すると、友人同士の情報交換や塾などの影響は軽微である。


「保護者のアドバイスで志望校を決めた生徒」の保護者は、大学の何を重視しているか

 それでは、「保護者の勧めで志望校を決めた」という高校生(全体で73名)の保護者は、子どもの大学進学の際に何を重視しているのだろうか。特にこのセグメントの保護者が重視したことは何なのかを見ると、どのようなアドバイスをしているか、大学は保護者に何を伝えるべきなのかのヒントとなるだろう。図3は、その重視した項目(とても+まあ重視したの合計)上位20項目を抽出したものである。

 このデータからは、以下のような事が読み取れるだろう。このような保護者が重視しているポイントは、以下のようになる。
① 子どもの学びたいものを尊重する姿勢
② 子どもの「成長」を重視し、少人数教育などの充実した教育が行われること
③ 子ども自身の自己実現ができるか、就職の支援や実績があるかを重視している
    こと
④ 大学の環境、雰囲気などを自分で知って、納得できる大学であること
⑤ 経済的な側面(通学、学費等)とともに、地元に留まってもらいたいというこ
    と 

 ただ、気をつけたいのは、大学選択の際に保護者や教員に強く影響されているのは、大学進学の目的が希薄で、自分の成績で入れる大学を選んでいる消極的な学生に多いという点である(図2)。そのような学生には、入学後に学びの目的や主体的な学びに転換することをしっかり意識付けしなければならない。保護者も、その点を気にして子どもが鍛えられ、成長できそうな大学が重要だと考えているのだ、とも解釈できる。そのため、入学すればどんな教育の仕組みで子どもが鍛えられるのかを説明するとともに、保護者に対しても子どもの自立を促すことを勧めるようなコミュニケーションが重要ではないかと思われる。
 ステークホルダーとしての保護者は、今後ますます重要な要因となる。たとえば、オープンキャンパスに保護者に足を運んでもらい、保護者向けのコンテンツを提供する際に、何を重視し、どのように説明すべきか、このデータを参考にしていただければ幸いである。
 本調査から得られるデータは、これからも、このような形で紹介していく予定なのでご期待いただきたい。


プロフィール

山下 仁司(元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント)
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

◆シンポジウム
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
 (平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
 「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
 (平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
 「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

論文
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
 (2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
 産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集

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