高等教育研究室

研究室トピックス

【アナリストの視点】
ラーニングコモンズの普及とその効果検証

2014年03月28日 掲載
 ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
 VIEW大学版編集長・アナリスト 広瀬康豊

関連タグ:
IR 教学改革 アクティブラーニング 主体的な学び

クリップする

オープンキャンパスで紹介されるラーニングコモンズ

 仕事がら、この1年間は大学への訪問が多く、50を超える大学を訪問した。取材で伺うだけでなく、学会への参加や、高校生に交じってオープンキャンパス等にも参加した。オープンキャンパスは、学内のさまざまな施設も見られるし、授業などの説明も聞けるので、各大学の雰囲気をつかむのによく活用している。そんなオープンキャンパスで気になったのが、ラーニングコモンズの普及の兆しである。
 キャンパスツアーに参加すると、3分の1近くの大学でラーニングコモンズ(あるいは、図書館の談話可能エリア)を案内された。高校生へのPRポイントの1つになりつつある印象を受ける。大がかりで新しい施設もあれば、図書館の1角に可動式の机や椅子を設置した程度のものまで、規模や内容は様々である。さらに、学生が多く集っている場合もあれば、まばらな場合もあった。大学による差がまだまだ大きい感じがする。

図書館内では3年で2倍へ増加

 ラーニングコモンズの定義は、大学により多少の違いはあるが、「学生が自由に集まって学ぶことができる大学内の共有施設」のことをいう場合が多い。複数の学生が集まるため、ディスカッションは可能だし、プレゼンテ―ションエリアが設定されていることもある。本やインターネット検索などの情報資源の活用のほか、パソコン貸し出しやリファレンスのサービスなどが提供される場合もある。設置場所は、図書館内だけでなく、図書館外に設置される場合もある。平成24年度「学術情報基盤実態調査」によると、図書館に設置されたアクティブラーニングスペースは、この3年で2倍に増加したとのことである(226館、2012年5月1日現在)。

導入効果は利用率だけでは判断できない

 大学改革を支援する立場の人間として、ラーニングコモンズ等の施設のPRの話を伺うと、大学の本来の目的が達成されているかが気になってくる。保護者の顔をして何気なく施設利用について聞いてみると、平日・土曜で利用にばらつきがあるとも聞く。実際、オープンキャンパスの開催がない日には、寝ている学生がちらほらいる場合がある。施設の利用状況は、大学によっても、時期によっても、結構違うようだ。こうした状況を見て、単純に利用状況だけでよしあしを判断できるものではない。
 問題は、「授業との関係性」だ。グループワークなどの授業外学習が必要とされ、プレゼンテ―ション等の事前準備が必要となるような授業が、どれだけ開催されているかが問題なのである。授業がその施設を使わせるようなものがなければ、施設利用率向上にはつながらない。このような「授業外学習が必要とされるアクティブラーニングをどれだけ実施しているか」を判断の前提としていなくてはならない。また、施設の広さ/込み具合/学生数も大学によって様々なので、込み具合だけでは一概にはよしあしは判断できないのである。

効果測定は、学生の成長への寄与率で

 さらに立ち戻って、大学教育全体で考えた場合に気になるのは、「学生の成長に、この施設はどれだけ寄与できているのか?」という点だ。施設の利用率は、施設運営側から見た点であり、学生本位の見方ではない。学生によって(履修授業によって)、施設の利用が必要な人/必要でない人が存在する訳だし、必要とした学生が利用の結果として変化(成長)したかが、本来、重要なことなのではないか。
 だから、この施設が成功したのか否かは「4年間かけて育てた学生が、卒業する段階で、定性的にも、定量的にも成長したことが検証できるか」という視点が必要であるといえよう。評価指標には、満足度やアウトカム指標を見てほしい。そして、タイミングは入学後・卒業時点を基本に、在学中にも何回か計測できるとよいだろう。

卒業時の効果測定では学生全体の利用率も

 そして、全学生を母体にどれだけの効果が出ているかも、この卒業時点の定量調査で把握すべきだ。4年間の最後になら、施設の利用率も「毎月利用した/3・4年時に利用した/1・2年次に利用した/利用したことがない」など、さまざまな利用形態・利用頻度を4年間に渡って聞くことができるし、これと先に例示した満足度やアウトカム指標をクロスすれば、利用者/非利用者ごとの満足度・成長度の検証も可能である。
 ラーニングコモンズは、この数年で設置されてきた施設なので、今すぐによしあしを判断するのは困難だ。現在は、利用率からの効果の検証をしているタイミングかもしれない。しかし、いずれは、学生本位の視点に返って、学生への成長寄与の検証を、卒業時点での調査で、その効果を判断して行くべきものと考える。

プロフィール

広瀬 康豊 (ひろせ やすとよ VIEW大学版編集長・アナリスト)
1991年(株)福武書店(現<株>ベネッセコーポレーション)入社。進研ゼミ中学講座・高校講座にて、社会科系の教材編集、高校受験・大学受験の情報誌編集、高校入試・大学入試の分析、デジタルメディアを使った教材開発、システム開発業務(合否判定システム開発・webサイト開発等)に従事。2013年4月より現職。

ページのTOPに戻る