高等教育研究室

研究室トピックス

◆テスト見本◆【コンサルティングの現場から】
入学後、早期に高めたい大学への期待・評価

2013年06月09日 掲載
 ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
 コンサルタント 岡田 佐織

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固定化が懸念される大学への評価

 新入生が大学に入学して2カ月が経過した。入学後間が無く、大学に適応しようとするこの時期に抱かれた大学への評価が、後々まで固定化されることを思わせるデータがある。
 以下は、ベネッセの学生アセスメント「大学生基礎力調査」にて「自分が通う学部学科を後輩に勧めたいと思うか」(以下、「お勧め度」と記載)という質問に対する2年次から3年次への回答の推移を示したものである。

 2年次の時点で、自分が通う学部学科を知人・後輩に「勧めたい」(「とても勧めたい」「まあ勧めたい」の合計、以下同様)と感じていた人の大多数は、3年次になっても勧めたいと答えている(5,705人中4,451人、78%)。一方、「勧めたくない」(「あまり勧めたくない」「まったく勧めたくない」の合計、以下同様)と感じている人は、その多くが3年次でも「勧めたくない」と感じている(2,086人中1,366人、66%)。つまり2年次に一旦定まったお勧め度はなかなか変化しないことが伺える。

<データの紹介>
『大学生基礎力調査』(詳細はhttp://www.benesse.co.jp/univ/assessment/を参照)
※このトピックスで紹介するデータは、2013年度3年次調査の回答者のうち、2011年度より継続回答し、その変化を追跡できる8,972人(22大学51学部)の回答を基にしている。
※各年次の調査時期は1年次調査では2011年4~5月、2年次調査は2012年4~5月、3年次調査は2013年4月・6月・9月前後となっている。


入学時の低レディネス状態を放置するリスク

 大学への評価(お勧め度)が2年次の春にほぼ定まるなら、2年次の評価に影響を与える要因は何だろうか。これまで実施してきた各大学での調査結果などからは、入学当初の状態が影響を及ぼしていることがわかっている。特に影響が大きいと考えられるものに、学びに向かう意欲、学習スキル、入学した大学に対する納得度、進路展望の明確さ、などがある。これらの状態を示す設問への回答をもとに大学への「レディネスの状態」を定義し、学生の分類を図り、その要因を見てみたい。
 入学時のレディネスを「学びへの意識」「学習習慣・経験」「大学志望度」の3つの要素で定義する(各要素を構成する設問肢は下枠内を参照)。すると、レディネスの高い群では、「勧めたい」との回答率は2年次で84.3%、3年次で79.6%であるのに対し、レディネスが低い群の回答率は2年次で55.8%、3年次で50.2%と低くなっている。自分が通う学部学科を勧めたいと思えない状態は、背後に何らかの要因が存在するだろうが学生にとっては望ましい状態ではないだろう。入学時のレディネスの状態が低いと、入学1年後(2年次の春)の時点で「勧めたくない」と考えるリスクを3倍程度抱え、その状態を3年次まで継続させることを考えると、影響は深刻と言える。

入学時の影響が2年後・3年後にも継続

 入学時のレディネス(学びへの意識、学習習慣・経験、大学志望度)が高い群では、2年次のお勧め率(「とても勧めたい」「まあ勧めたい」と回答した学生の割合)が2年次で84.3%、3年次で79.6%であるのに対して、レディネスが低い群では、お勧め率が2年次で55.8%、3年次で50.2%と低くなっている。自分が通う学部学科を人に勧めたいと思えない、という状態は、教育内容やカリキュラムが優れていると感じられない、大学のことが好きではない、成長した実感がない、学生生活が楽しくないなど、何らかの要因が背後に存在すると考えられる。いずれの理由にせよ、学生にとって望ましい状態ではない。入学時の状態によって、約1年後に「勧めたくない」と考えるリスクが3倍近くになり、なおかつその状態が3年生になっても継続しているのであるから、影響は深刻と言える。

入学時のレディネス高低による2年次・3年次「お勧め度」の違い

 因みに、2年次のお勧め度を目的変数とし、1年次調査の「学びへの意識」「学習習慣・経験」「大学志望度」と、2年次調査の「授業・カリキュラム満足度」、当該学部の入試偏差値(進研模試による基準)を説明変数として重回帰分析を行った結果でも、1年次調査の3つの要素はお勧め度に対して正の効果を持つ。
 また、お勧め度に対して相対的に最も大きな効果があるのは、2年次調査での「授業・カリキュラム満足度」であった。ただ1年次調査の項目も、間接的に「授業・カリキュラム満足度」に与える効果があることを考えると、効果は侮れない。

入学時の状態に早期に働きかける施策に期待

 大学の「お勧め度」が学生自身の肯定的な学びや大学生活に結びつくものとするならば、入学時点(4~5月)の状態が長期にわたり大学生活や学びを規定していく可能性があると考えられる。仮にネガティブな状態で入学する学生の存在が明らかな場合、これを極力早期に解消する支援や施策が不可欠である。
 「大学の評価は学生の意識やスキルに左右され、それは入学時点で決まっているから大学としては手の施しようがない」とすることもできよう。しかし、学部の入学時のガイダンス・プログラムを見直すことで学ぶ意欲の改善を図るなど、個別に大学の状況を見れば、施策の効果によって入学時の影響を低減させていると見られる事例も確かに存在している。
 また近頃、多くの大学では、入学時のオリエンテーションや合宿、図書館内へのラーニングコモンズの設置、ジェネリックスキル育成プログラム、社会や企業の課題に取り組むPBLなどの取り組みが広がっている。この効果を高め、入学時の状態の影響を低減(または増長)するためには、更に、各年度の新入生の「レディネスの状態」に目を向け課題と目標を明確にし、初年次教育などを通じてどのように変えていくことを目指すのか、その成果の検証と施策の改善を繰り返すことも改めて必要ではないだろうか。
 学生にとって真に効果のあるプログラム開発やその検証のあり方について、その実施時期の学生の状態を意識しながら、今後も検討を続けていきたい。

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