高等教育研究室

研究室トピックス

【調査データをよむ】
海外留学が大学生にもたらす教育的価値

2014年10月10日 掲載
 高等教育研究室 研究員  松本 留奈

関連タグ:
高大接続 キャリア教育 アクティブラーニング 教学改革 コンサルティング 主体的な学び グローバル 留学 大学生

クリップする

東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに、大学生・高校生の海外留学者数倍増が政府目標に掲げられ、文部科学省ではグローバル人材の育成を目指した留学促進キャンペーンが始まった。留学を有意義な経験にするために、どのような力の獲得を目指し、日本の大学教育の中にどのように関連付ければよいのか。留学が大学生にもたらす教育的価値について今一度考えたい。

 

海外留学経験の有無で、創造力の獲得に差

まず「第2回大学生の学習・生活実態調査」の結果を用いて、大学生活全体における学習成果と留学経験の有無との関連性を見た。図示はしないが、結果の概略は、コンピュータや図・グラフ作成などの「数的処理能力」や、リーダーシップや社会参加などの「社会的な積極性・リーダーシップ」を示す項目と留学経験の有無による差はみられない。その一方で協調性や思考力、自己管理、教養などの「汎用的能力」と、外国語や国際視野などの「外国語運用能力・国際性」を示す諸項目については留学経験の有無と正の相関があるというものだ。

ここで『外国語運用能力・国際性』については誰しも納得の結果であろう。しかし『汎用的能力』とはどのようなものだろうか。『汎用的能力』を示す学習成果18項目を、「留学経験あり群」と「留学経験なし群」でクロス分析した結果が図である。

『汎用的能力』を示す18項目すべてにおいて、「留学経験あり群」のほうが「かなり+ある程度身についた」と回答した割合が高く、留学経験が『汎用的能力』全般の獲得につながる可能性があることが示唆される。中でも、特に差の大きい「自分で目標を設定し、計画的に行動する」「社会や文化の多様性を理解し、尊重する」「自分に自信や肯定感をもつ」といった項目からは、多様な異文化への対応力、計画的な行動力、どんな相手とも対等に渡り合えるアイデンティティといった、グローバルな人材育成への役立ちが見て取れる。

さらに注目したいのは、「既存の枠にとらわれず、新しい発想やアイデアを出す」に大きく差が出た点だ。留学を通して異質な文化に触れることが、学生の視野、思考の幅を広げ、創造性の獲得に役立つ可能性があると言えるだろう。

あくまでもデータ集計上の話であるが、留学経験が語学力や国際性な人材の育成だけでなく、創造性の獲得に役立つ可能性が示唆された。この可能性を、イノベーションを起こす人材の育成という国を挙げての課題解決の一助とできないだろうか。学生が留学経験の中で獲得した創造性の芽を、日本の大学教育のなかでさらに発展させていけるような取組みを期待したい。

ページのTOPに戻る