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第21回 教育改革は学校現場から(3)
~「夢」を「行動」につなげる原動力は何か~

2013年09月13日 掲載
ベネッセ教育総合研究所 情報編集室
室長 小泉 和義

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2020年に東京でのオリンピック開催が決定した。経済効果に関する言及も多いが、私は、教育に及ぼす影響も大きいと考える。今回は、高校教師向け情報誌「VIEW21」高校版での取材などを基にしながら、これからのキャリア教育について論じたい。

「夢」と「行動」が結び付かない

図1の調査結果をみると、「夢がある」と答えた高校生は約6割だったが、夢のために「とても努力」をしている高校生は13.1%にとどまった。また、理想の大人が「いる」と答えた割合は、わずか17%だった(図2)。漠然とした夢はあっても、モデルとなる大人が存在しないなどの要因で、漠然とした「夢」が具体的な「目標」に変換できず、結果として、夢を実現するための行動につながっていないのが実態ではないか。

図1. 将来の夢について(高校2年生)
図2. 理想の大人の存在について(高校2年生)
出典(図1、図2):ベネッセ教育総合研究所「子ども生活・学習実態基本調査」(2012年)

1990年台の半ば以降、大学入試競争が緩和する中で、多くの進学校が「なりたい職業を明確にし、その職業に必要な学問を修めることができる学部学科を選び、最終的に自分が行くべき大学を選択する」という指導を充実させていった。学力偏差値のみの大学選びではなく、夢を実現するための大学選びが重視されるようになり、高校現場では、2003年度からスタートした「総合的な学習の時間」も活用しながら、「生き方」指導としての進路指導について、さまざまな実践が行われてきた。「VIEW21」高校版でも、そうした実践を多く取材させていただいた。

しかし、2000年台後半になると「生徒に職業の研究をさせても、どうも本気にならない」という高校現場の声を伺うことが増えた。本気で実現したい夢を抱き、その実現に向けた主体的行動につながりにくい現状は高校現場の大きな課題だ。私は、そうした現状の背景要因は二つあると考える。

一つは「一見豊かな」社会の浸透だ。学校と家庭との間にコンビニと携帯電話が加わることで、高校生は限定された生活空間の中では不自由することなく、むしろ「充実」した日常生活を実感しているかもしれない。そのような環境は、彼らに夢を描きにくくしてしまっている可能性がある。

二つめは、学校での「手をかける指導」の充実だ。特に2002年1月に文部科学省から出された「確かな学力向上のための2002アピール」以降、学校現場では、授業だけではなく、補習や課題なども充実させ、生徒への関与度を高めていった結果、かえって生徒の主体性を発揮する余地を奪ってしまったとも言える。

「大震災」と「オリンピック東京開催」

今まで述べてきたような日本社会の中で、高校生が本気で夢を抱き、夢の実現のために具体的な目標を設定し、その目標達成に向けた行動を起こすためには、どうすればよいのだろうか。

私はその課題解決のヒントが、「東日本大震災」と「オリンピック東京開催決定」の二つの出来事の中にあると考える。

まず、「東日本大震災」について述べたい。震災後、高校生の「他者への貢献意識」は高まった(図)。困っている人に対して、自分に何かできることはないかという意識の高まりは、今回のような未曾有の災害があったからこそ芽生えたものかもしれない。

震災後、中国地方のある高校1年生の女子生徒にインタビューをした際、その生徒は次のように語った。

「私は震災後、自分が被災地のために 何か出来ることはないかをいろいろと考えました。でも自分には、コンビニの募金箱に自分の小遣いを入れることくらいしかできません。 自分にもっと力があったら、被災地のために役立つことが出来ると思いますが、その力がありません。 だから、今は勉強をして大学に行き、社会に役立つ人間になりたいと思います」

今回の大震災が、地方の高校生の意識にも少なからず影響を与えていることに驚いた。「他者のために自分は何ができるか」という問いを出発点とすることで、自分の具体的目標を主体的に見つけていくことができるのではないか。そして、それが、自分自身の夢の発見にもつながっていくのではないかと考える。

また、「オリンピック東京開催決定」によって、トップアスリート達の活躍が、今まで以上に身近になることが期待できる。高校生であれば、自分と同世代の選手もいるだろう。夢を強く抱き続けることの大切さが、理屈ではなく、素直に高校生に伝わるはずだ。そして、夢を具体的な目標に換え、目標達成に向けてひたすら努力し続けるアスリートの姿は、同じスポーツの道を目指す者だけではなく、スポーツ以外を志す多くの高校生のモデルともなるだろう。

もちろん、モデルは決してオリンピックに出場するアスリートだけではない。身近にいる親や教師も、高校生にとってのよきモデルとなり得る。

高校生を本気にさせるには、私たち大人こそが夢を語り、行動をすることではないか。

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著者プロフィール

小泉 和義
ベネッセ教育総合研究所 情報編集室 室長

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、高校の進研模試営業に関わる。その後、研究部門に異動し、教育分野に関する調査研究、サイバー子ども学研究所のチャイルドリサーチネット(CRN)の運営に関わる。その後、学校向け情報誌進研ニュース(VIEW21の前身)中学版の編集担当、VIEW21(小学版、中学版、高校版)副編集長、VIEW21(小学版、中学版、高校版)編集長を歴任し、現在に至る。これまで関わったおもな研究、発刊物は以下のとおり。

関心事:主体性は育成できるものなのか。スキルを育成した結果としての姿勢なのか。

その他活動:任意団体 次世代の教育を考える会 幹事

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