教育情報

企画室より

数学的思考力をICTで学ぶ小学校

2014年07月24日 掲載
BERD編集長 石坂 貴明

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南池袋小学校の取り組み

 池袋駅から徒歩10分。ビルの谷間にあるのかと勝手に想像していたが、明るくゆったりとした緑も豊かな小学校だった。中村雅子校長は学習指導要領と豊島区教育ビジョン2010に基づいた同校の教育方針として、これからを生きる子どもたちに求められる汎用的な問題解決能力の育成を重視している。その能力も机上だけで身につけようとしているわけではなく、人や自然や地域から学ぶ姿勢(コンピテンシー)も大切にしている。もちろん、必要な情報を引き出し活用する能力(リテラシー)もICTも駆使しながら育成している。

数学的思考力をタブレットPCで

 今回見学したのは、6年3組(24名)の2時限続けて行われた算数の時間。一人一台のタブレットPCを使って、問題解決能力の基礎にもなる数学的思考を体験するという研究授業だ。同校に設置してあるタブレットPCは全部で50台。これだけのタブレットPCが導入されていること自体、都内の小学校の中でも恵まれている。


コンピューター室にはグループ毎に向かい合うように席が並んでいる。日直の挨拶と共に授業スタート。まず、研究授業の進行役である星千枝研究員(教育テスト研究センター・以下敬称略)の話に耳を傾ける。星は、同校の「体験活動・言語活動を重視した問題解決能力の育成」研究に一昨年から協力者として参画している。今回の授業で使う「Global Math(グローバルマス)」というプラットフォームも、問題解決能力育成に適しているということで授業に採り入れられたものだ。

「南極大陸の面積はどれくらい?」

 「みんなだったらどういうふうに考える?」という星の問い掛けに、児童たちは南極大陸の地形を四角形や三角形を組み合わせて捉えることで、近似値を計算できるという発想に気付く。同時にそれは、正解は必ずしも1つではないという気付きにもつながっている。それを念頭に、次は4年生で既習の「立方体の展開図」をPC画面上で自由に作成もできる『学習探険ナビ』で、展開図にもいくつものパターンがあることを復習する。

そして、いよいよ立方体を川の上で展開して橋を作り、川を渡るという『Global Math』のゲーム、「ロジキュー」に挑戦する。立方体を置く(PUT)、進ませる(ROLL)、展開する(OPEN)という3つのボタンも上手く使いこなさなければならないが、ボタンの機能説明は特になく、児童たちは試行錯誤しながらゲームの規則性を見出していく。

児童たちは「ロジキュー」で、問題解決のステップである「発見」→「計画」→「実行」→「見直し」を体験できる。画面をクリアすると複雑な設定にレベルが上がっていく。次に次に画面をクリアしたくて児童たちは必死に考え、試している。ICT支援員(1名)とボランティア大学生4名が協力してくれているので、基本操作などで困っている生徒はいない。

協調的学習の成果

 一人ひとりが「ロジキュー」で学習する際にも様々な光景が見られた。「ヒント」もあるが頑なに見ようとしない子、キーボード画面を指スクロールで消そうとする子(iPhoneに慣れていると考えられる)、何回でも間違いができるため「発見」「計画」プロセスを飛ばし片っ端から「実行」する子。全体としては、タブレットよりデスクトップPCの方に慣れている児童がまだ多い様子だった。「ロジキュー」もデジタル教材として改善すべき点はまだあるが、子ども特有の良い面も引き出していた。
 
 たとえば、グループ内で発生した教え合いだ。これは、OECDや文科省が重視する「協調的学習」には不可欠なファクターと言える。つまり、正解が必ずしも1つとは限らない未知の事象に対して、多様な考え方を共有・議論して新しい発想に気付いたり、試行錯誤しながらより良い解決方法を探し出したりすることが世界の学びのトレンドなのだ。6年3組の授業でも、結果として教え合い(聞き合い)が最も活発だったグループが最も高いレベルの画面に到達していたのが印象的だった。

「頭の中ですごい考えることができておもしろかった」

 児童の感想をすべて見た。学習の目当ては達成でき、概ね良好だったことがわかる。大きく分けると「頭をフル回転させた」「自分なりの工夫ができた」「もっと、家でもやりたい」「教えることができた」という意見が大半を占めた。なかには「さまざまな人と競いあうことができるとよいと思った」という意見もあった。このような前向きで意欲的な意見、感想を聞くことができる学校の授業はいまどれだけあるだろう。

デジタル教材をいつからどのように義務教育に導入するかは議論百出ではあるが、財源の目処が立たないこともあり、国による明確な方針と方法論もまだ見えてこない。一方、国の決定を待てない自治体の中には、首長の強力なリーダーシップによる教育改革を行う動きも見られる(ex. 東京都荒川区の全小中学校で今年度から一人一台タブレットPC導入や、佐賀県武雄市の全小中学校と民間塾とが包括的提携を計画中など)。

 南池袋小学校での今回の研究授業の試みにも、地域や外部に学校を開いて研究と実践を行おうとする柔軟で積極的な教育方針を感じた。勿論、教育のICT化議論で問われるべきなのは、児童・生徒たちの学びの意欲が高まり、自立的探究心が育っているかどうかである。今回の授業では児童たちの知的好奇心や探究心が確実に刺激されて、問題解決能力の育成定着につながることが期待できそうだった。研究はまだスタートしたばかり、今後の動向もしっかり見ていきたい。

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