初等中等教育研究室

ベネッセのオピニオン

第98回 子どもたちが将来の目標を持てるよう促すには -「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」の結果から-

2016年03月24日 掲載
研究員 橋本 尚美

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キャリア教育 職業教育 子どもの生活と学びに関する親子調査2015 東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所の共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクト

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 文部科学省は、「若者の社会的・職業的自立」が課題となるなか、2000年代以降、中学校、高等学校を中心としたキャリア教育を推進してきた。2011年には、「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(答申)(2011年1月31日)をまとめ、一人ひとりの発達や社会的・職業的自立を促す視点から、今後はさらに、幼児期から高等教育の各発達段階に応じた体系的なキャリア教育の充実が必要であるとして、その基本的な方向性や具体的方策を示した。
 その中で指摘されているのは、社会的・職業的自立は、子ども・若者が「夢や希望、目標を持ち、それらを具体的に行動に移していくこと」で実現できるということである。子どもが将来の目標を持つことは、子どもが自立に向かうための第一歩であると考えられる。
 また、将来の目標を持つことは、子どもが学習する理由(学習動機づけ[同一化的動機づけ])としても意味を持つものである。

 しかし、大人にとっても将来の見通しを持ちづらい現代社会において、子どもたちは、自分の将来をどのように考えているのだろうか。また、このような状況のなかでも、自分の将来の目標をはっきり持つことができている子どもたちは、ふだんどのような経験や行動をしているのだろうか。

 ここでは、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所の共同研究「子どもの生活と学び」研究プロジェクト(親子パネル調査)の第1回調査「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」(Wave1、2015年7月実施)の結果をもとに、子どもの将来への意識の実態とその課題を明らかにしたい。

 なお、この内容の一部は、すでに「親子調査2015」のプレスリリースで報告している。

「将来の目標がはっきりしている」を肯定する子どもは半数程度。中学生がもっとも低く、高校3年生で6割になる

 まず、子どもたちに「将来の目標がはっきりしている」かどうかを尋ねたところ、「将来の目標がはっきりしている」(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」)の比率は、小4~6生で5割強であった。この比率は、中学生で4割台に低下したのち上昇し、高3生で6割になる。夢見る小学生と現実的な進路選択を行う高校生の「はざま」の中学生で、将来像を持つのが難しい様子がうかがえる(図1)。
 この傾向は、「将来なりたい職業(やりたい仕事)」があるかどうかについても同様である。「将来なりたい職業(やりたい仕事)」が「ある」の比率は、小4~5生が7割弱でもっとも高く、中1~2生で4割台に低下、高3生で6割弱となる(図2)。
 また、これらの項目には性差がみられる。女子のほうが男子に比べて、肯定率(「とてもあてはまる」+「まああてはまる」、「ある」の比率)が高く、特に、「将来なりたい職業(やりたい仕事)」が「ある」の比率は、どの学年でも女子のほうが10ポイント以上高い。男子のほうが将来の夢や目標を持ちにくいようだ。


図1 「将来の目標がはっきりしている」かどうか(全学年・学年別/性別)

図1 「将来の目標がはっきりしている」かどうか(全学年・学年別/性別)

※「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%。子どもに「Q.あなた自身のことについて、次のようなことはどれくらいあてはまりますか。」と尋ねた。

※ 性別で5ポイント以上差があるものは>、10ポイント以上差があるものはで示している。


図2 「将来なりたい職業(やりたい仕事)」があるかどうか(全学年・学年別/性別)

図2 「将来なりたい職業(やりたい仕事)がある」かどうか(全学年・学年別/性別)


※「ある」の%。子どもに「Q.あなたには、将来なりたい職業(やりたい仕事)はありますか。」と尋ねた。

※性別で10ポイント以上差があるものはで示している。

「将来の目標がはっきりしている」と回答した子どもの将来像

 では、「将来の目標がはっきりしている」と回答した子どもは、自分の将来像をどのように描いているのだろうか。
 まず、希望する進学段階を尋ねたところ、「将来の目標がはっきりしている」に「とてもあてはまる」と回答した子どもは、そうでない子どもに比べて、「専門学校・各種学校まで」や「大学院まで」の比率が高く、「まだ決めていない」の比率が低い。「将来の目標がはっきりしている」子どもは、「四年制大学」以外の進路も含めて、自分に合う進路を多様に検討していると思われる(図3)。
 また、図4をみると、「将来の目標がはっきりしている」子ども(「とてもあてはまる」「まああてはまる」)は、そうでない子どもに比べて、「将来なりたい職業(やりたい仕事)」が「ある」の比率が高い。「なりたい職業(やりたい仕事)」があることは、将来の目標を持つことと関連している。


図3 希望する進学段階(「将来の目標がはっきりしている」かどうか別)

図3 希望する進学段階(「将来の目標がはっきりしている」かどうか別)

※図をクリックすると大きく表示されます。


※子どもに、「Q.あなたは、将来、どの学校まで進みたいと思いますか。」と尋ねた。

※中学生のデータは省略。小4~6生と高校生の中間の傾向である。


図4 「将来なりたい職業(やりたい仕事)」があるかどうか(「将来の目標がはっきりしている」かどうか別)

図4 「将来なりたい職業(やりたい仕事)」があるかどうか(「将来の目標がはっきりしている」かどうか別)

※小4生~高3生のデータ。小・中・高校生ともほぼ同様の傾向である。

「将来の目標がはっきりしている」ことに影響を与えているもの

 それでは、子どもたちは、どのようにして、将来の目標をはっきり持つようになったのだろうか。
 表1は、子どものさまざまな経験、行動、属性(性別、学校の成績、保護者の学歴)などが、「将来の目標がはっきりしている」ことに与える影響を明らかにするために、ロジスティック回帰分析を行った結果である(Exp(B)の値は、影響の大きさを示している[その条件が変わった場合にどれくらい影響が変わるか。1より小さい場合はマイナスの影響])。

 これをみると、以下の3つのことがわかる。
 1つには、「将来の目標がはっきりしている」ことに与える影響が大きいのは、「疑問に思ったことを自分で深く調べる」ことや、子どもの行動力、自己肯定感、父母が「やりたいことを応援してくれる」かどうかである。これらは学校段階が上がるほど影響力を増す傾向にあり、特に、父母が「やりたいことを応援してくれる」は高校生で強く影響している。
 2つには、「母親との会話量」や「他者との会話量」も、「将来の目標がはっきりしている」ことに影響しているということである。特に、「他者との会話量」は中・高校生で影響するようになる。
 3つには、学校の成績や保護者の学歴の影響は、ほとんどないということである。


表1 「将来の目標がはっきりしている」ことへの影響(ロジスティック回帰分析の結果)

表1 「将来の目標がはっきりしている」ことへの影響力(ロジスティック回帰分析の結果)

※表をクリックすると大きく表示されます。

※学校段階別に行ったロジスティック回帰分析の結果のうち、影響の大きさを示すExp(B)(オッズ比)と有意確率を表にして示したもの。

※***:p<0.001、**:p<0.01、*:p<0.05。

※有意差がみられるもののうち、Exp(B)が1.1以上のものに濃いアミカケ、1.0以上のものに薄いアミカケをしている。

※定数は省略している。Nagelkerke R2 乗値は、小4~6生0.156、中学生0.172、高校生0.156。

※使用している変数は以下の通り。


■使用している変数一覧

<従属変数>

「将来の目標がはっきりしている」(「とてもあてはまる」「まああてはまる」=1、「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」=0)

<独立変数>

・男子かどうか(男子ダミー)(男子=1、女子=0)

・「疑問に思ったことを自分で深く調べる」かどうか(選択[調べる]=1、非選択[調べない]=0)

・母親との会話量(母親との会話[「学校での出来事」「友だち」「勉強や成績」「将来や進路」「社会のニュース」の5項目]を「よく話す」=4点~「まったく話さない」=1点に得点化して合計)

・父親との会話量(父親との会話[「学校での出来事」「友だち」「勉強や成績」「将来や進路」「社会のニュース」の5項目]を「よく話す」=4点~「まったく話さない」=1点に得点化して合計)

・他者との会話量(「祖父母と話をする」「近所の人と話をする」などの5項目を「よくある」=4点~「まったくない」=1点に得点化して合計)

・行動力(「自分でできることは自分でする」「一度決めたことは最後までやりとげる」「難しいことや新しいことにいつも挑戦したい」の3項目を「とてもあてはまる」=4点~「まったくあてはまらない」=1点に得点化して合計)

・自己肯定感(「自分の良いところが何かを言うことができる」「失敗しても自信を取り戻せる」の2項目を「とてもあてはまる」=4点~「まったくあてはまらない」=1点に得点化して合計)

・父母が「何にでもすぐ口出しをする」かどうか(子どもの回答のうち「とてもあてはまる」=1、「まああてはまる」「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」=0)

・学校の成績(小4~6生は4教科、中・高校生は5教科の成績を「上のほう」=5点~「下のほう」=1点に得点化して合計)

・母親大卒ダミー(大学、大学院=1、中学校、高校、専門学校・各種学校、短期大学、その他=0)

将来の目標を持てる子どもに

 子ども自身が自分の将来を見通し、目標を持てるようになることは、子どもが「自立」に向かううえで重要な要素である。この「子どもの生活と学び」研究プロジェクトでも、そう位置づけて、調査を進めている。また、将来の目標を持つことは、子どもの学習動機づけとしても意味が大きく、それを促したい。

 それに対して今回の調査結果では(表1)、子どもの「将来の目標がはっきりしている」ことに影響を与えるものとして、「疑問に思ったことを自分で深く調べる」という経験をしているかどうかや、子どものふだんの行動力、自己肯定感、保護者の肯定的なかかわり(「やりたいことを応援してくれる」)、母親や他者との会話量などがあることがわかった。子どもが、ふだんから好奇心を持って調べたり、自分で行動したりする経験を重ねられるように、また自己肯定感を持てるように、保護者や他者としてかかわり、子どもの成長を促すことが大切だろう。

 一方で、図1、図2を見ると、「将来の目標がはっきりしている」や「将来なりたい職業(やりたい仕事)」が「ある」の比率が、学校段階が上がるにつれて直線的に伸びることを良しとするかどうかは検討が必要そうだ。中学生の時期を、自分の将来について迷ったり、悩んだりする段階ととらえることもできる。また、男子の将来の夢や目標の持ちにくさに見られるように、子どもには、それぞれの「自立」のスピードやかたち、課題がありそうだ。

 私たち大人には、子どもが将来の目標を持てるような社会を創ることとともに、それぞれの子どもの「自立」の特徴を踏まえたかかわりが求められる。



●「子どもの生活と学び」研究プロジェクトでは、今後も、毎年調査を重ねるなかで、子どもたちが、高校卒業時点の「自立」にむけて成長・発達していく様子とそれに必要な要素を明らかにしていきます。

●2016年7月に、東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所が共同で、「子どもの生活と学びに関する親子調査2015」報告会(仮称)を開催し、本調査のより詳細な結果分析をご報告します。

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著者プロフィール

橋本 尚美
はしもとなおみ

初等中等領域の子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究を担当。現在は、小学1年生~高校3年生を対象とした「子どもの生活と学び」研究プロジェクトを担当している。
これまで担当した主な調査は、「学校教育に対する保護者の意識調査(朝日新聞共同調査)」 (2012年)、「第5回学習指導基本調査」(2010年)、「放課後の生活時間調査」(2008年)、「中学校選択に関する調査」(2007年)など。子どもの文化世界や学びの実態、子どもの成長環境としての社会・学校などに関心を持っている。

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