ビッグデータを活用した教育研究の取り組み

学校との共同研究

●タブレット活用状況を約250名の全生徒へお返ししました(2017.1.13)

 タブレット教材から得られる生徒一人ひとりの学習記録。これを上手に生かして生徒のやる気や学力を高められないだろうか。そのような思いから、生徒一人ひとりのタブレット活用状況をまとめた「1か月の学習記録」を作成しました。(資料1

 生徒のやる気や学力を高めるために必要なのは、テスト得点など、単に結果としての学力や能力を認識させ認めてあげることではありません。むしろ、努力したプロセスを認識させ認めてあげることが重要であることが、様々な研究から分かっています(例えば、中室(2015)『「学力」の経済学』)。そのような考え方をもとに、以下の2点を生徒へのフィードバックのポイントとしました。


 ① 学習の量(取り組みレッスン数)を可視化

 もっともわかりやすい努力を表す指標は「学習の量」です。一般には、学習時間や取り組み問題数などが思いつきますが、ここでは両者と密接に関連する「レッスン数」(資料2)を取り上げ、各教科どのくらい取り組んだか、学校平均と比べてどうだったかを示しました。取り組み上位者には「がんばりマーク」をつけ、学習の励みになるようにしました。


 ② 学習の質(一度間違えた問題の解き直し、学習の頻度)も可視化

 学力を上げるには、学習の量だけでなく学習の質も重要だということが明らかになっています(ベネッセ教育総合研究所(2014)『小中学生の学びに関する実態調査報告書』)。その中でもとりわけ、できなかった問題を解き直す振り返り学習が重要であることがわかっています。タブレットの学習記録からは、単に取り組んだ問題数だけではなく、「一度間違えた問題を再び解き直して正解にたどりついたか」という学習のプロセスもわかります。これにより、「最初は×だった問題を○にした努力」を生徒がどれだけしたかがわかるようにしました。


上の2点に加えて、3つめのポイントがあります。それは

 ③ 生徒自身が「振り返り」、「次の目標設定」を行う

 学習の主体者である生徒本人が、自分の取り組みを振り返り(内省)、これからどのように学習するかを宣言する(目標設定)ことは、とりわけ中学生の学びにとって重要なことだと考えられます。単に①②のデータを示すだけではなく、生徒本人の主体的な行動に結びつくような仕掛けをあえて入れてみました。


 「1か月の学習記録」は2016年の最後の登校日に、約250名の全生徒へお返ししました。可視化された学習の量と質を振り返り、次の目標を立てた生徒たちの、新年からの学習の取り組みに期待したいです。(岡部悟志)

 

▼資料1:生徒へお返しした「1か月の学習記録」

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▼資料2:「レッスン」について

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●三輪中学校でタブレット活用の授業実践を見学しました。(2016.12.13)

 岐阜市立三輪中学校では、タブレット活用の3割を理科が占めています。それはなぜか? その理由を探るべく、理科を担当する加藤先生の授業を見学し、お話をうかがいました。(2016年11月22日)


▼三輪中学校のタブレットの活用状況
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▼三輪中学校のタブレットの活用状況
理科・加藤先生の授業の様子

▲理科・加藤先生の授業の様子

 

 黒板には「雲はどうしてできる?」と板書してあります。飽和水蒸気量についての授業です。黒板を使い、生徒との質疑をしながら授業が進みます。タブレットはいつ使うのだろう?と見ていると、使ったのは授業の最後でした。授業のまとめをきちんとしておくと生徒の理解が定着しやすい。そのためにタブレット教材を活用するのだと気づきます。

 練習問題を電子黒板に投影しながら、授業の振り返りを進めます。板書指導でもよくすることですが、加えてタブレット教材のどこに関連する練習問題があるか、「単元マップ」を使って伝えています。さらに「家に帰った後に今日の授業の確認をしてみよう」と生徒に声をかけました。生徒からすれば、タブレットを使ってどう勉強したらいいか、そのやり方がわかるような指導が実践されていました。

 7月半ばに生徒に尋ねたアンケート調査では、「上手な勉強方法がわからない」と回答した生徒が7割もいました。多くの生徒が勉強方法に悩んでいます。「タブレット教材を使った上手な勉強方法」を教える一つのモデルとなる指導方法と思えました。

 授業後、加藤先生に理科のタブレット活用方法をお尋ねすると、今回のように「タブレット教材の単元マップと授業との関係をモニターに映して使い方を指導している」とのお話。理科の活用が多い点については「教科特性として理科は覚えることが多く、学びやすいのかもしれない」とお話いただきました。授業と家庭学習を結びつける具体的な指導が、タブレット活用を促していることがうかがえました。(外部研究員・牧田和久)




●藍川中学校でタブレットを使った朝学習を実施しています(2016.11.25)

 岐阜市立藍川中学校では9月末から、今回の研究の対象となる2年生の全クラスで、朝学習に「進研ゼミ」のタブレット教材を使っています。使い始めてからおよそ1か月半。2016年11月9日(水曜)に、その様子を見学しました。

 定刻になるとざわつきがピタッととまり、各自が課題への取り組みを開始。毎朝の学習が定着している様子がうかがえます。この週末から中間試験があったので、この日の朝学習は何をやるか自由。このため、使っている教材は教科書や参考書、タブレットとさまざま。クラスごとにも濃淡はありましたが、半数程度の生徒がタブレットを利用していました。


藍川中学校の朝学習の様子

▲藍川中学校の朝学習の様子

三輪中学校での打ち合わせ
 

 見学した後、先生方から日ごろの様子や教材活用の感想を教えていただきました。

①分からない問題は友だちに聞き、理解してから、次のステップに進むよう指導している。
個別性の高いタブレット教材では、そうした教え合い・学び合いは難しいかもしれないと思っていたが、タブレットでも教え合う行動が生まれていて意外だった。

②タブレット教材は、解答の○×がすぐに出るのでゲーム的に取り組む懸念があった。
しかし、間違えた問題をやり直す機能も使い、学び直しにも利用している。

③1人1台の環境のなかで、タブレットを自分のものとして大切に使おうという意識が感じられる。当初、乱暴な扱いや自宅持ち帰りでの破損なども心配したが、大きな問題はなかった。

④今回の実証研究では、ポケットWi-Fiでインターネットに接続しているが、つながらないケースや、通常では要求されないはずの不要なID入力をしなければならないケースがある。通信環境の不備やパスワード入力の手間などで、余計な時間が発生することは課題。

 実際に2学年全体で使い始めてみて、多くのことが心配したほどではなかったと感じる一方で、通信環境の不備やiPadの機能制限、教材の更新にかかる手間などで、想定外の時間と労力がかかっています。そうしたことは、都度対応していますが、まだ不安定であることも事実です。費用をかければ解決することがあるのかもしれません。しかし、コストをできるだけ抑えながら環境を整えることも重要な課題です。

 とはいえ、こうした試行錯誤の末に生徒の活用が進み、ログデータが蓄積されてきました。果たして生徒はどんな学習をしているのか。データの分析結果は、改めて報告します。(外部研究員・牧田和久)




●教材の発展的な活用について議論しました(2016.11.9)

 生徒がタブレット教材を使い始めてから2か月。学習ログを見ると、生徒の多くが家庭学習で使ってくれていることがわかります。しかし、ここまでは自主的な利用だったことから、使い方にバラつきがあったのも事実。ということで、学校から教材をより有効に使いたいと提案いただき、先生方と発展的な活用について議論しました。

 参加者は、藍川中学校では、本多校長先生、松岡教頭先生、数学科担当の吉岡先生、牧谷先生、尾本先生(2016年9月27日開催)。三輪中学校では、高橋校長先生、今西教頭先生のほか、2学年主任の山田先生、国語科の室谷先生、社会科の林先生、数学科の由井先生、理科の加藤先生、英語科の可児先生、体育科の石槫先生(同10月7日開催)。いずれにも岐阜市教育委員会の松巾主幹、赤地指導主事に加わっていただきました。議論を通じて決めたことは、次のようなことです。


 ①【単元マップ】の作成 (→単元マップの例)

 「授業の進度」と「教材」の関連がわかると生徒への指示が容易になる。こうした要望から、3月までの教材(5教科)の学習内容を一覧化。教員と生徒がともに使うことで、授業と教材の関連をつかみやすくする。


 ② 既習内容の学び直しの充実

 とくに数学科の先生からは、過去の学習内容につまずきがある生徒をフォローしたいとの要望を受ける。教材には誤答を蓄積して、それに応じた問題が提供される学び直しの仕組みがある。また、進研ゼミにはたくさんのアプリケーションがある。これらを活用して、個別の生徒の状況に応じた教材の組み合わせを考える。


 加えて、藍川中学校では朝10分の帯学習の時間を使い、月曜から国社数理英の順で毎朝タブレット教材を使った学習に取り組むことにし、さらに家庭学習での活用を促すことにしました。三輪中学校では、授業に取り入れてみたいとのアイデアが出て、タブレットの教材画面をケーブルで教室にある大型テレビに映すことにしました。これにより、たとえば授業の導入でタブレット教材を使い、前時のふりかえりをするといった工夫ができます。

 それぞれの学校の課題と実情に応じた活用案が出て、先生方からは指導を充実させたいという思いが強く伝わってきました。(木村治生)


藍川中学校での打ち合わせ

▲藍川中学校での話し合いの様子

三輪中学校での打ち合わせ

▲三輪中学校での話し合いの様子

 


●校長先生・教頭先生と課題の整理をしました(2016.9.23)

 2016年9月9日(金)、藍川中学校、三輪中学校のそれぞれで、タブレット学習を行う前に実施した「総合学力調査」(①国語・数学・英語・理科・社会の学力テスト、および②学習に関する意識調査)の結果と、夏休み中の「③タブレット活用状況」(学習記録)の報告を行いました。藍川中は本多校長と松岡教頭、三輪中は高橋校長と今西教頭に参加いただき、岐阜市教育委員会(岐阜市教育研究所)から松巾主幹(所長補佐)、赤地指導主事が加わって、各校の課題を整理しました。

 ①学力テストについては、教科別や設問種類別(基礎・応用別や単元別など)に全国との比較を行い、学校・学級の特徴を確認。得点は、両校とも全国と大きな差はなく良好でした。しかし、教科によって多少の凸凹があり、「数学」に課題があることが話し合われました。男女差が大きかったりや通塾による差が大きかったりと、学校によって異なる特徴も客観的なデータをもとに確認できました。

 次に、②学習に関する意識調査では、学びに向かう意欲やスキル、学校生活や家庭学習の状況などの分析結果を報告しました。学力にくらべると学習意識の面での課題が大きいことは岐阜市全体でも改善を要する。そうした認識が共有されました。

 ③タブレットの活用状況では、学習記録に関するデータ(学習ログ)から活用者数、活用頻度などの結果を示しました。夏休みにタブレットを用いた学習を行った生徒は、およそ半数。夏休み中は利用促進を行っておらず、今後、先生方の指導に組み込んでいく必要が議論されました。

 話し合いの中では、日ごろの実感と同じだったところ、予想と異なるところについての指摘もありました。思い込みを排して客観データを元に授業や家庭学習のあり方などが検討でき、指導を改善するうえで現状把握が大切な第一歩となると感じられる議論でした。

 次の訪問では、実際に教鞭を取っている先生方から指導の様子をうかがい、タブレット教材をどのように活用していくかを議論する予定です。(岡部悟志)

当日の授業の様子

▲当日の話し合いの様子



●夏休み中の利用の実験をしました(2016.9.5)

 夏休みは家庭学習に取り組んでもらう絶好のチャンス。ということで、夏休み前に教材の基本設定と使い方についての授業を行った後に家庭に持ち帰ってもらい、自由に学習できるようにしました。

 しかし、夏休み開始直後に、教材がダウンロードできないトラブルが発生。7月下旬と8月上旬に何度も学校にうかがい、タブレットの機能設定のし直しとダウンロードの作業に追われました。

 原因は、機能制限の仕方です。今回の研究では、学習に専念する環境を作るために、「進研ゼミ」の教材しかダウンロードできないような制限を何重にもかけました。その結果、改訂されるアプリの自動更新に対応できない設定になっていました。この対応で、学習専用の状態はそのままに、1台ずつタブレットの機能制限の仕方を変える作業をしました。

 それからも、生徒自身が設定したパスコードを忘れてしまったり、画面が固まったまま動かないタブレットが出たりと、小さなトラブルがいくつか起きています。タブレットの利用は学習効果を高める側面もありますが、設定に1か所不具合があっても使えなくなることがあります。便利なようでいて不便なことも多いと実感。学校での利用には、こうした運用面でのノウハウを積み重ねることが大切だということも深く理解しました。

 機能制限の再設定はたいへんでしたが、収穫もありました。作業しながら、タブレットを持ってきてくれた生徒に話を聞いてみると、多くがタブレットの学習に前向きで、楽しんでいる様子が伝わってきます。従来の学習にタブレットの学習を組み合わせて、効果的な方法を工夫しながら勉強しているという生徒もいて、学習量の増加とともに、学習の質の改善に役立てているケースが生まれていることもわかりました。(木村治生)



●教材の使い方についての授業をしました(2016.7.14)

 2016年7月14日に、岐阜市立三輪中学校と藍川中学校の2校で、本研究にかかわる授業をしました。授業では最初に、教育委員会と校長先生が取り組みのねらいについて説明。その後、ベネッセ教育総合研究所(三輪中学校は木村、藍川中学校は中垣)が、タブレットの基本的な操作方法、教材についての説明、初期設定、情報の取り扱いにかかわる指導などを行いました。また、時間の最後には、生徒が教材をダウンロードして、自分の好きな教科の学習に挑戦。教室のあちらこちらで教え合いが始まり、歓声が上がります。これから始まる学びにワクワクしている様子が伝わってきて、私にとってもこの上なく楽しい授業でした。

 教材(進研ゼミ+)には、学習の目標、レベル、内容、スケジュールなどを登録する機能があります。何を目標に、どのような学習をいつ行うか。そうしたことを自ら決めることは、自律的な学習者になるうえで必要です。また、そのように自分でコントロールしながら行う勉強は、学習効果を高めます。このことは、学習に関する私たちの研究(たとえば、小中学生の学びに関する実態調査 )でも明らかにされてきました。今回の実証研究は、今までわかっていたことを学習記録のログからとらえる貴重な機会。さらに、ログからは、今までは入手することが難しかったデータを得ることができます。その分析によってどのような新しい知見が得られるのか、とても楽しみです。

 そして、今回は、全国のデータと比較することで各中学校の特徴を明らかにしたり、子どもたち一人ひとりの学習の状況を可視化したりすることも試みます。その結果を教育委員会や学校に提供することで、ビッグデータを教育改善に役立てる仕組みづくりにトライします。学校の先生方とも一緒にデータを分析して、最終的には生徒一人ひとりの学習がよりよいものになる。その状態を目指していきたいと思います。

当日の授業の様子

▲当日の授業の様子


この日の授業までに、家庭や学校での使用環境の調査、タブレットの管理や運用ルールの検討、保護者の方々への説明など、多くの課題がありました。岐阜市教育委員会と三輪中学校・藍川中学校には、実践主体としてそれらの解決にあたっていただきました。そのご尽力に、心より感謝申し上げます。


プロジェクトリーダー
ベネッセ教育総合研究所 副所長
木村 治生



●学校との共同研究に着手します

 ベネッセ教育総合研究所では、「包括的研究推進等に関する協定」 を締結している岐阜市の協力の下、2校の中学校(7学級)・約250名の中学2年生を対象に、デジタル教材を用いた実証研究に着手します。
 この研究は、学校や家庭でデジタル教材を用いて学習した記録を分析し、その結果を学校に提供することで、学習指導の改善に役立てることを目的としています。研究の事前・事後に、標準化された学力調査や学習アンケートを実施して、どのような成果があったのかを検証する予定です。

この共同研究の様子については、随時、ウェブサイトを用いて報告します。

【共同研究の枠組み】

共同研究の枠組み



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