「発達障害のある人たちの就労に関わる問題」
有識者レビューときっかけシート

きっかけシート

2016年度のCO-BOでは、発達障害のある人たちの就労に関わる問題について、研究者、行政、NGO、就労移行支援事業主、本人といった立場の異なる5人の有識者のみなさまにお話をうかがいました。
 そのお話の内容を独自に編集したのが、この資料です。

資料をふまえた有識者のみなさまのコメントもご紹介していますので、是非ご覧ください。

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CO-BOは与えられた課題について考えるのではなく、「何を考えるかを考える」ことを大切にしています。CO-BOで取り上げているさまざまな社会問題は、ひとつの「正解」を出すことの難しい問題です。これらの社会問題を解消するための唯一絶対の解決策はなく、それぞれの立場から複数の状況改善策を考え、関与していく必要があります。また、改善策や関与の前提として、問題を理解しようとする姿勢が必要不可欠だと、私たちは考えています。

社会問題は多様な問題が絡み合い、問題の本質を見極めることが難しくなっていることも多いですが、主体的に取り組むこと、また他者との対話を通して学びを得ることで、本質理解も深まります。本資料を、その一助としてご活用ください。

本資料は、学校やそれに準じた場で自由にご利用いただけます。
 学びの現場でご活用いただいた際には、その様子をお知らせいただけますと幸いです。

開設中のFacebook 等での、ご意見やご感想をお待ちしています。

資料1:「発達障害のある人たちの就労に関わる問題」きっかけシート

資料1:「発達障害のある人たちの就労に関わる問題」きっかけシート

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資料2:直面する困難とは何なのか?

資料2:直面する困難とは何なのか?

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資料3:現状

資料3:現状

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資料4:取り巻く環境

資料4:取り巻く環境

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資料5:CO-BO 発達障害のある人の就労という社会問題
の構造(仮説)

資料5:CO-BO 発達障害のある人の就労という社会問題の構造(仮説)

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 CO-BOチームの作成した『「発達障害のある人たちの就労に関わる問題」きっかけシート』に対し、フォーラムにご登壇いただいた有識者の皆さまからコメントをいただきました。

東京大学先端科学技術研究センター 近藤武夫准教授

 ■障害を社会モデルで捉えることの重要性

近藤武夫准教授

一見して、きっかけシートに列挙された困難の書きぶりが「障害の個人モデル(障害は個人の内部に存在するもの、と捉える考え方)」に寄っているように感じられ、読んでいて心が痛みます(発達障害のある人が、社会のなかで何もできない困難だらけの人であるという価値観に基づいてシートが書かれているように見えてしまう)。このような困難は、個人の特性だけから生じるのではなく、個人を取り巻く環境の問題から生じていると捉える視点が不可欠です。

国連権利条約の締約国である日本では、障害は「障害の社会モデル(社会の構造や人々の態度が、障害のある人もそこに参加することを前提としていないことから、社会参加や活躍に制限が生まれるという考え方)」で捉えることが必要です。

また、インタビューで私が述べた雇用の問題点の指摘も、社会構造の準備性の不足から、一部の人々の参加が難しくなることについて触れたつもりでした。こうした点をふまえて、一連のCO-BO記事や「きっかけシート」を読んでみてください。


 ■CO-BOの読者である学生の皆さまへのメッセージ

近年になって世間で取り上げられているいわゆる「発達障害」の問題とは、曖昧模糊として非常にわかりづらい問題です。そもそも「発達障害のある人」という確たる集団が存在しているわけではありません。そこにいるのは、個々の人生を生きている、あくまでも一人の「人間」なのです。

近年、発達障害の問題と呼ばれていることは、いっそ「生きづらさ」の問題であると言い換えても良いかもしれません。皆さん自身も、自分自身のなかに、同様の特性があることを感じた人は少なくないのではないでしょうか。その特性の偏りが極端に大きかったり、周囲の環境とその特性の偏りが衝突してしまうような状況にあるとき、個人に大きな「生きづらさ」が起こることがあります。私にも、あなたにも、いついかなるときにも起こり得ることです。

私たちの社会は、多様な背景を持つ人々から構成されています。社会全体・全員がすべからく均質に仲良くやっていく必要はありません。ただ、「そこにあること」の尊厳を認め合うことのできる社会を目指すことは、インクルーシブな社会を作るうえで、私たち全員に求められていることです。

JA共済総合研究所 濱田健司主任研究員

 ■学校や職場は、障害者が一緒に居られる場所であるべき

濱田健司主任研究員

発達障害のある人々が就労するためには、就職活動および職場定着が課題となっています。また発達障害にはさまざまなタイプがあり、それぞれに応じた就職および職場定着のためのコミュニケーションや支援が必要です。そうしたことから、発達障害は先天的なものであり、個性であることをまずは理解し、そのうえで彼らが社会においてどのように役割を持てるようにしていくかということを、学校関係者、雇用主、そして家族がともに考え、行動していくことが重要となります。また本人も自分のことを理解・受容し、周りの人々とコミュニケーションや仕事について考え、行動していくことが大切になるでしょう。

本来、学校や職場は発達障害のある人だけでなく、知的障害のある人や精神障害のある人なども一緒に居られる場であるべきです。つまり、「障害者だから」というのではなく「障害という個性のある人」という理解のもとで、一緒に学んだり、働くことができる場でなければなりません。これからは多様な人財が一緒に暮らせる社会システムを構築していくことが必要となります。発達障害のある人が共に生きることができる、そのような学校や職場をつくりたいものです。


 ■CO-BOの読者である学生の皆さまへのメッセージ

発達障害は、特別な障害ではありません。昔からあったものです。かつては、地域や社会がそうした人々を受け入れ、共に生きてきたのです。ですが、画一的な基準(効率性、強い・弱い、勝者・敗者など)により人々を判断する社会システムが広がると、その基準から抜け落ちる人々が生み出されます。その基準は本来、時代や地域によって異なるのですが、画一的な基準が世界中に広がることで多くの障害者が生み出されるのです。

自分の心身の状況や社会状況が変われば、実はすべての人々が障害者となる可能性があるのです。たとえば、私たちは日常生活においてメガネを掛けたり、靴や服を身につけています。これがなくて今、生活できるでしょうか。福祉用具というものがありますが、これは、実は障害者だけのものではありません。私たちは生きるためにメガネや靴を身につけますが、これも福祉用具。つまり、車いすも杖もその延長線上にあるのです。またある日突然大自然のなかに置かれたら、私たちはそこで生きていけるでしょうか。もし原始時代にタイムスリップしたら、私たちは障害者となるのかもしれません。

私たちの生活に欠かせない、あるいはとても有名な数学、物理学、経済学、音楽、絵画などがありますが、実はその多くが発達障害のある人によって生み出されています。ですから、反対にそうした超一流の人々からみたら、健常者と呼ばれる私たちは障害者となるでしょう。

私たちは、みんな同じ人間であり、いろいろな問題を心身、家庭、地域、社会において抱え、そのなかで暮らしているのです。そうしたなかで障害者を排除してしまうような社会は正常ではありません。共に問題を抱え、共に支えあい、共に豊かになる、多様な「いのち」が輝く社会にしていかなければなりません。

芽室町 宮西義憲町長

 ■「仕組み」の確立で、障がいのある人の就労を支援する

宮西義憲町長

発達障がいのある人の支援について、できるだけ早期にその特性に気づくことができること、関係機関と連携を図りながら、ライフステージに応じた適切なサービスを提供することが重要だと考えます。

そして、障がいのある人の就労支援について、就労の場を確保することはもちろんですが、障がいのある人が就労継続していくうえで、雇用する企業とのマッチングや定着支援が重要となります。適切な支援を行うためには、障がいのある人の特性の理解、育成・相談支援、また、企業に対しても職域開拓や雇用ノウハウの提供、企業内支援者の教育的支援など、障がいのある人と企業の両者を支援・つなぐ仕組みが必要です。この仕組みが確立することで、お互いに安心感が得られ、お互いにメリットのある働き方ができると考えます。

就労支援は行政だけの力でできることではありません。企業を含めた社会資源と連携しながら、障がいのある人の個性を最大限に生かすことのできる就労の場が、どこに住んでいても可能となる社会になっていくことが必要だと思います。


 ■CO-BOの読者である学生の皆さまへのメッセージ

私たちが一人ひとり違うように、発達障がいのある人も、その個性はさまざまです。障がいのある人は決して特別な存在ではありません。私たちは、就労支援を行うなかで、障がいのある人の個性を生かせる就労の場があれば、私たちが想像していたよりも高い能力を発揮し、生き生きと働くことができることを実感することができました。障がいのあるなしにかかわらず、その人のもてる力を最大限に発揮し、働き続けるためにはどんなことが必要であるのか、どんな支援(配慮)があれば可能であるのか。社会の制度整備も必要ですが、私たち一人ひとりができることを考えていただければと思います。

(株)九神ファームめむろ 支援員 古御堂由香氏

 ■障害のある人が、「働いて生きていく」ために

古御堂由香氏

九神ファームにも「発達障害」と診断を受けて働いている従業員がいます。彼らを見ていると、今までは「嫌だからやらない、苦手だから避けて通ってきた」こととうまく折り合いをつけられるようになっただけで、決して、苦手だったことが得意になったわけではないんだなと感じます。

ただ、お給料をもらっている以上、お互いに歩み寄る必要があるのです。「合理的配慮」を求める権利はあるけれども、その分、求められる労働力を提供する、その見返りとして給与を受け取る。法政大学の眞保智子先生の著書のなかで「障害者である労働者は、職業に従事する者としての自覚を持ち、自ら進んで、その能力の開発及び向上を図り、有為な職業人として自立するように努めなければならない」という条文(障害者雇用促進法4条)が紹介されています。「発達障害」があるからといっても、給与をもらう以上、どうしても「できないこと」「苦手なこと」は周囲にフォローしてもらい、「できること」「人より得意なこと」で会社に貢献することが必要です。それも、自分の「いい」と思う基準ではなく、会社が「いい」と思う基準で、です。また、企業側も「合理的配慮」の名を借りて、彼らが成長するチャンスの芽を摘むことがあってはいけません。

会社にとって「必要な人」と認めてもらえれば、周囲は喜んでフォローしてくれますし、貢献度に見合った給与も払ってくれます。もちろん、すべての会社がそうではないかもしれません。でも、自分の得意なことを認めてくれたり、合理的な配慮をしてくれる会社を時間をかけて探すことも「働いて生きていく」術のひとつです。


 ■CO-BOの読者である学生の皆さまへのメッセージ

みなさんがバイト先で、もしくはこれから就職する会社で、得意なことと不得意なことの差が大きかったり、こだわりの強い人と一緒に働くことがあるかもしれません。そんなときは、どうしたらお互いに働きやすく、チームとして会社に貢献できるのか、考えてみてください。「ルールだから」とこちら側の考えを一方的に押しつけてはいませんか? 「発達障害」とされる彼らには彼らなりの考え方があります。考えをお互いに押し付けあうのではなく、なぜそう思うのかお互いに伝え合い、そのうえで両者が合意できるルールを双方で作ってください。

「パートは残業はしない」という暗黙のルールが会社にあるとします。でも、パートのAさんは「残業してでも、やりかけの仕事を仕上げる」というルールのもと、働いているかもしれません。お互いがお互いのルールを押し付けるのではなく、「締め切りが翌日以降の場合は残業はしない」「終業時刻の30分前に、今日中にやるべき仕事を上司に指示してもらう」など、お互いが納得できるルールを両者で決めてください。

Bさんが1時間でできる仕事量〔a+b〕について、Aさんはaの仕事は0.5時間でできるけれどもbの仕事は2時間かかるとします(下図参照)。AさんBさんがそれぞれa+bの仕事をすると0.5(時間)+2(時間)+1(時間)+1(時間)=4.5時間かかりますが、Aさんが2人分のaの仕事を、Bさんが2人分のbの仕事をすると0.5(時間)×2(人分)+1(時間)×2(人分)=3時間でできてしまいます。お互いがお互いを理解して、歩み寄ることができれば、社会による障害は減らしていけるのではないでしょうか?

AさんとBさんが、それぞれa+bの仕事をした場合

株式会社Kaien 鈴木慶太代表取締役

 ■発達障害のある人は「大きな少数派」

株式会社Kaien 鈴木慶太代表取締役

きっかけシートの内容についてはわかりやすくまとめていただき、福祉業界で働く人にとってもあらためて現状を認識できる有効なまとめだと思っています。ですので、新たな指摘や補足などはありません。

個人的には問題のマグニチュードといいますか、影響の大きさが伝わればと思います。きっかけシートにあるとおり、発達障害のある大人の人口割合はわかりませんが、仮に子どもの調査の6.5%とすると非常に大きな人口です。発達障害のある人は、女性(人口の約50%)、高齢者(約20%)に次ぐ非常に大きな少数派ということになります。多様性や「一億総活躍」という言葉をさまざまな場面で目にしますが、その文脈にしっかり刻まれて良い存在のはずです。人手不足が叫ばれる日本のなかで、これだけ多くの人が仕事に困る状況は、国の活力を大きく削ぐことにつながってしまうと思います。きっかけシートを見て、多くの問題の一つという受け止め方ではなく、実は今後の日本の経済的な力の重要なレバーの一つという意識を持ってもらいたいです。

もう一つは「企業の努力不足が主要因」だと、読者に受け取って欲しくないという点です。もちろんそういう企業もあるかもしれませんが、余裕のある状態を健常、余裕のない状態を障害とすると、昨今は余裕のある"健常企業"は少なく、余裕のない"障害企業"が多いのが実際だと思います。余裕のない"障害企業"は従業員になかなか配慮ができません。何が多くの企業を"障害"に追いやっているのかは簡単な議論ではありませんが、問題の根っこは深く、発達障害のことだけを見ていても分からないということは伝わってほしいと思います。


 ■CO-BOの読者である学生の皆さまへのメッセージ

発達障害のある人の就労問題にかかわらず、世の中の問題は多面的で複層的です。問題の全容は何年たってもわからないと思いますし、問題は日々変化していくもので掴みづらいものです。きっかけシートを読んだ学生の皆さんにはできる限り視座の高い把握をしてもらいたいのですが、他方で、ぜひ現場に飛び込んで問題にぶつかっていってほしいと思います。現場にどっぷり浸かって発達障害のある人が直面する問題を体感することで、きっかけシートの文章が実感を持って感じられるとともに、新たな気づきも生まれ、更なる疑問も出てくると思います。

発達障害のある人の就労問題は、行政・教育機関・企業・支援者などが絡み、どの現場に飛び込めばよいのかわからないかもしれませんが、私はどこでも構わないと思います。どの現場でも必ず問題の全容が隠れているものです。ただしどっぷり浸からないとつながりは見えてきません。興味関心を持ったら、本やネットに頼りすぎず、自分の身近な事例に現場で深く関わることから始めてほしいと思います。

もう一つはきっかけシートを読んで、「自分も発達障害ではないか」と思った方へ。
 可能性として読者の学生の方が発達障害である確率は数%。自分も将来就職に苦しむのではないか、社会から阻害されるのではないかと怖くなっているかもしれません。たしかに今自分が思い描いている将来像ではないかもしれませんが、発達の凸凹を知ることは、自分の可能性を最大限に活かすうえでは何より重要です。診断されるレベルであろうがなかろうが、自分の得手不得手をしっかり理解し、上手に得意を活かす生き方を模索してほしいと思います。自分のことを可哀想だとか、障害がある、などと過度に悲観的にならないで欲しいです。凸凹のある自分を受け止めることが、自分の生きる道を探すうえでもっとも重要だと思います。

 

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【企画・取材協力、執筆】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘

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