教育フォーカス

【特集10】高大接続の再設計 ~ 高校・大学、大学入試はどう変わるべきか

[第5回] 新しい大学入試制度への期待と懸念 [1/4]

杉谷祐美子先生

川嶋 太津夫●かわしま たつお

大阪大学 教授
名古屋大学教育学部、神戸大学大学教育推進機構を経て、2013年10月から大阪大学未来戦略機構教授、2015年4月から同大学グローバルアドミッションズオフィス長。中央教育審議会大学分科会大学教育部会及び大学院部会臨時委員、国立大学協会入試委員会専門委員。専門は教育社会学、高等教育論。現在の関心は、教育の質保証やアセスメント。 主な研究成果としては『初年次教育:歴史・理論・実践と世界的動向』、『大学改革の現在』、『大学のカリキュラム改革』、『初年次教育の現状と未来』、『大学改革を成功に導くキーワード30』(いずれも共著)などがある。

Ⅰ.はじめに:本調査の背景

本調査(「高大接続に関する調査」)を実施した2013(平成25)年11月の時点では、すでに2012年9月から始まっていた中央教育審議会高大接続特別部会は、まだ審議途中であり、審議経過報告が2014年3月に、そして答申「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について?すべての若者が夢や目標を芽吹かせ、未来に花咲かせるために?」(以降、『高大接続答申』)が公表されたのは、我々の調査実施から約1年経過した2014年12月であった。

しかし、我々としては、2012年8月に行われた文部科学大臣からの諮問が「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」と題しているように、審議のポイントは、大学入試を含む高校教育と大学教育の接続に絞られていることが明白であるため、特別部会の答申を待つことなく、関係者の現状認識を明らかにし、望むらくは、その後の中央教育審議会の審議や関係者の議論に資することを企図して調査を実施した。

その後の経緯を簡単に触れておくと、総理大臣を長とする政府の教育再生実行会議が2013年10月にその第4次提言として「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」をとりまとめ、その中で、2つの達成度テスト(仮称)(「基礎レベル」と「発展レベル」)の導入、複数回実施、段階別成績評価を提言するなど、その後の『高大接続答申』の基本的方向性を示した。

ところで、この諮問にも表れているように、中央教育審議会での議論は、単に高大接続だけではなく、高等学校教育の質保証や大学教育の質的転換についても、同時並行的に行われていた。2014年6月には、高等学校教育部会から「高校教育の質確保・向上に向けて」と題する審議まとめが公表され、多様性に留意しつつも、高等学校教育の質保証の観点から共通性・標準性の重要性を指摘し、すべての高校生が身につけるべき資質・能力として高等学校教育の「コア」とその質保証の手段として希望参加型の「達成度テスト(基礎レベル)(仮称)」の導入が提案された。(図表1参照)。

図表1 高等学校教育の「コア」

高等学校教育の「コア」

出典:中央教育審議会初等中等教育分科会高等学校教育部会審議まとめ
「高校教育の質確保・向上に向けて」p.17

他方、大学教育の在り方については、大学教育部会で審議が進められ、我が国の大学生の自主的学習時間が国際的にも見劣りすることから、授業外の自主的な学習時間を「量的」に増加させる工夫を通じて、大学生を能動的な学習者へと変容させるべく大学教育の「質的転換」を図るよう提言した答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて?生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ?」(以降、『質的転換答申』)を、2013年8月に公表した。

『高大接続答申』が出た後、それを単なる机上のプランに終わらせないように、文部科学大臣から具体的な工程表を含めた「高大接続改革実行プラン」が2015年1月に公表された。さらにそれを受ける形で、「高大接続システム改革会議」が同年2月に発足し、具体的な施策の検討を始めた。

なお、このような中央教育審議会等での高等学校教育、大学教育、及び両者の接続の在り方に関する一連の議論の底流には、2008年12月の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」(以降、『学士課程答申』)において、いわゆる「大学全入時代」のAO・推薦入試における「学力不問」状況の問題視とそれへの対応としての「高大接続テスト(仮称)」導入の提言、そして、高大連携や初年次教育の重要性の指摘、さらには「出口管理」の方向性として我が国の学士課程教育に共通する学習成果として「学士力」の提言などがあった。また、『学士課程答申』を受けて佐々木隆生北海道大学教授(当時)を主査とする「高等学校段階における学力を客観的に把握・活用できる新たな仕組みに関する調査研究」(2010年9月)の成果が存在することも忘れてはならない事実である。

このシリーズを終えるにあたって、今検討が進んでいる新たな大学入試制度への期待と幾つかの懸念をここにまとめてみることにする。

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