シリーズ 未来の学校

秋田県発、 リベラルアーツ教育がグローバル人材を輩出する

未来を生きる子どもたちは何をどう学ぶべきなのか
そこで大きな役割を果たす学校はどうあるべきなのか
「未来」といっても決して空想や夢物語ではない、実は
もう始まっている先端的な意味での未来の学校を探訪します。

【前編】 国際教養大学が実践する、英語で学ぶリベラルアーツ [1/6]

2014年4月、秋田県の公立大学、国際教養大学(AIU)が創立10周年を迎えた。すべての授業を英語で実施、全学生に1年間の海外留学が義務づけられ、入学から1年間は留学生と寮生活を共にする。開学当時から注目を集め、就職率100%を標榜し、企業からの評価も高いこの大学は、現在どのような教育を実践しているのだろうか。前編では、授業の様子を中心に、留学生との共同生活など、学生へのインタビューも交えてレポートする。

制作協力:株式会社百人組
コメンテーター:林信行(ジャーナリスト)

 いつでも勉強できる快適な学習環境

秋田空港から車でおよそ10分、四方を森に囲まれた豊かな自然環境の中に国際教養大学のキャンパスはある。正門から入ると右側に、「2014年度グッドデザイン賞」を受賞した中嶋記念図書館が見える。館内に入ると、県特産の秋田杉を使った傘型の高い屋根が印象的だ。

7万冊を超える図書を所蔵し、そのほかに約200種類の雑誌や新聞を揃えている。閲覧スペースでは学習もできるようになっていて、座席の高さは3種類の椅子から選ぶことができる。この図書館のテーマは、「学習意欲を喚起する本のコロセウム」だ。学生であれば24時間365日利用することができる。学生たちがこれだけ恵まれた学習環境を享受できる裏側には、一方で厳しい教育カリキュラムをパスしなければならない現実がある。

 英語で問題提起し、議論し、振り返る授業

我々が最初に見た授業は英語集中プログラム、通称EAP(English for Academic Purposes)。「英語を学ぶ」のではなく「英語で学ぶ」ために、1年生が最初に受ける授業である。その中でも、今回は「リスニングとスピーキング」の時間にを見学した。

授業テーマは、インターネット上で公開されている『Ted Talks』の中から「世界でまだ多く存在する奴隷をなくそう」という動画を見たうえで議論すること。授業の冒頭に、シェリー・ブラウン先生がサマリー・シートを配布した。「なぜ人々は奴隷になったのか」「このスピーカーが奴隷に対して、異なる救済方法を取ったのはなぜか」など、動画の内容に関する質問について、学生たちに回答の記入を求めた。

サマリー・シートの回収を終えると、あらかじめ発表が決まっていたグループによるプレゼンテーションが始まる。最初にそのグループのひとりが「奴隷が存在する理由は、利益を得る人間がいるからである」と話した。2010年時点で、世界の奴隷人口は2700万人。奴隷は発展途上国に集中しており、彼らを救うためには、約108億ドルの費用が必要だという。ここでプレゼンテーション・グループが1つ目の設問を発表した。

「108億ドルをどのように集めればよいか」

その設問に対して、プレゼンテーション・グループ以外の学生たちが議論に参加する。

「そもそも奴隷の存在が知られていない。この事実を知ってもらう啓蒙活動が重要だろう。事実を知ってもらえれば、拠出金は集まりやすいはずだ」

と、男子学生が口火を切る。

「奴隷問題は身近な問題ではない。まずは告知が必要だ」

と、すぐに女子学生が続く。

続けて「奴隷の存在を伝えるためには、SNSを有効活用するべき」といった意見が挙がる。

さらに、

「資金を集めることも重要だが、解放された奴隷が生きて行くための仕事が必要だ」

「奴隷を救えないのは国に力がないという背景がある。法律が整備されていないのも問題だ」

「国が奴隷を救えないのであれば、国連や奴隷を救う専門機関が救えばよい」

といった背景や救出方法に意見が及んだところで、プレゼンテーション・グループのひとりがこの設問の議論を次のようにまとめた。

「いまだに奴隷が存在することについての人々への教育、周知が必要。奴隷を解放するための資金を集めるだけではなく、解放された後の彼らへの仕事の提供が必要だ。ただし、いずれも容易なことではない」

このあと設問は2つ続き、同様の議論が行われた。すべての議論は沈黙の間もなく活発に進み、ほとんどの学生が発言していた。学生たちの英語力には多少の差はあったが、それぞれに十分に予習をしていて、自分の意見を懸命に伝える姿が印象に残った。

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