アセスメント・教材研究開発室

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第49回 国際バカロレアに見る、これから起きる大学入試改革の方向性

2014年04月14日 掲載
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司

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 3月23日に、東京インターナショナルスクール(TIS)において「次世代教育サミット~国際バカロレア」が開催された。当日は、下村文部科学大臣を筆頭に、今里文部科学省大臣官房国際課長、大竹教育再生実行会議有識者委員などのほか、国際バカロレア(IB)の初中等・ディプロマプログラム(PYP、MYP、DP)で学ぶTIS、立命館宇治高等学校の小中高校生たちのプレゼンテーションなど、多彩なプログラムで「これからのあるべき教育」の姿が示された。TIS代表は、坪谷ニュウエル郁子氏で、IB機構のアジア太平洋地区における日本人初の理事を務めている。

 文部科学省は、2018年度までにIB(DP)資格を取得する高校を200校に増加する(2014年3月現在で19校)としている。特別講演の中で下村大臣は、高校でのIB導入を促すために、今後IB資格を入試に活用する大学の増加を文科省としても後押しするという話をされた。そして、IB資格(DP)を大学入試において活用する大学として1月に発表があった、筑波大学の全学部でのIB特別入試や慶応大学法学部の事例に触れた。

 大学入試における、IB資格の活用は、徐々に広まりつつある。同じ1月に発表のあった東京大学の推薦入試の制度概要において、法学部が求める提出書類の中で、「国際通用性のある入学資格試験における優秀な成績を証明する資料(国際バカロレア、SAT など)」としてIB資格に触れている。

IBの教育目標と今後わが国が育成すべき能力の関係

 なぜ、文部科学省はIB資格を入試で使うよう薦めるのか。それは、IBの教育が今後の日本の実現すべき教育のあり方とかなりオーバーラップしているからだと言えよう。例えば、下村大臣のプレゼンテーションの中でも取り上げられたDPの歴史の試験。「アフリカ又はアジアで21世紀に誕生した国家を1つ選び、その主要な国内問題と、それらがどの程度解決されたかを論ぜよ」「経済社会問題への対応について、2つの多党制国家の政策を比較対照して論ぜよ」といった問題から2つ選択して約1時間半で解答する。

 このような問題が出題されるのは何を見るためだろう? それは、IBの掲げるLearner Profile (IBの学習者像)を見れば明らかである。

 

探究する人 (Inquirers)

知識のある人(Knowledgeable)

考える人(Thinkers)

コミュニケーションができる人(Communicators)

信念のある人(Principled)

心を開く人(Open-minded)

思いやりのある人(Caring)

挑戦する人(Risk-takers)

バランスのとれた人(Balanced)

振り返りができる人(Reflective)

*これらの訳は文部科学省のホームページによる。

 

 単に、知識を持つ人間を育てたいのであれば、このような卒業試験は必要ない。学んだ知識を元に、分析し評価し、自分の考えをまとめ、それを他者に効果的に伝えることができる人間を育てる。そのアウトカム(教育成果)がどうであるかを見るために、このような問題を論述形式で出題しているのである。

大学入試改革の方向性と課題

 今後の日本における大学入試改革がどのようになるのか、そのヒントがここにはあると思われる。まず、入試で見ようとする力。中央教育審議会 高大接続特別部会においても、達成度テスト(発展レベル)(仮称)の在り方として「これからの大学教育を受けるために必要な『主体的に学び考える力』等の能力の測定のため、知識・技能のほか、活用力や汎用的能力等を重視すべきではないか。」という意見が出ている*。先に挙げた問題例のように、教科にのっとってはいても、現実社会の課題を取り上げ、知識のみを問うのではなく知識を活用した上での分析力や課題発見力が問われるものとなるだろう。

 次に、出題の方式。センター試験のような多肢選択方式ではなく、「求められる能力を測定するためには、現在の多肢選択方式よりも、記述式や論述式を重視することが必要ではないか。」(中教審 同資料)とあるように、文章で、論理的に自分の意見を他者に的確に伝える論述力が重視される事になるであろう。

 もちろん、このような方向性を実現するためには、まだ多くの課題がある。たとえば論述の答案を的確に、かつ効率的に採点するルーブリックのあり方。答案を確実に短期間に捌くためのコンピューターによる出題・解答方法、採点方法。複数回実施の場合の問題の困難度を調整するため(テスト理論では「等化」と言う)の方法などが挙げられる。今からこれらを検討・研究開発しなくてはならない。また、初中等教育においては、より論述力、表現力を身につけさせる指導がすべての教科で必要になると思われる。(この点は、もとより現行の指導要領で強調されていることではあるが。)課題は山積しており時間もかかるが、上記の課題はすべて実現している事例はあるし、達成不可能ではない。

 国際バカロレア認定校となることは容易ではないし、すべての学校においてできることではない。しかし、その実践されている内容や教育の考え方などには参考にすべき事が多く、今後の大学入試改革、教育改革の大きなヒントとなるだろう。

 

*高大接続特別部会 第12回 資料5「達成度テスト(発展レベル)(仮称)に係る論点」

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著者プロフィール

山下 仁司
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント

福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

近年の活動

【大学FD・SD研修講演】
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

  • 【シンポジウム】
  • ・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル(平成22年、25年)
  • ・九州工業大学シンポジウム
     「大学教育のあり方と秋入学‐世界で活躍できる人材を育てるために‐」(平成25年)
  • ・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

  • 【論文】
  • ・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」(2011)
  • ・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
  • ・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
     産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
  • ・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集

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