アセスメント・教材研究開発室

研究室トピックス

今求められている教育内容を再設計するための
カリキュラムデザイン

2015年03月06日 掲載
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司

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アクティブラーニングの効果を上げるために

 現在、多くの大学で学生に能動的学びをさせるための「アクティブラーニング」の導入が急速に進んでいる。筆者の周囲でも、今年度から全学的に導入するという大学が数大学存在する。この事は非常に良い動きであるが、一方でそのような方法を導入しても学生が能動的にならない、目指す能力が身に付かないという声も聞かれる。また、ALの導入によって、教えたいことを教える時間が減った、などの意見も散見される。
 このままでは、「アクティブラーニングはやってみたが、十分に成果も上がらず、教えたい事が十分に教えられない」という意見が大きくなって元に戻ってしまう恐れが多分にあるのではないかと思われる。もとより、アクティブラーニングの導入は「手段」であり、2012年の「質的転換答申」であったように、その目的は依るべきモデルのない高度知識基盤社会において、主体的に課題を発見し解決できる人材の育成であるはずである。
 つまり、個々の授業にアクティブラーニングを取り入れる、という授業レベルの活動も重要であるが、それも含めて4年間をどのように使ってそのような人材を育成するかというカリキュラムレベルでの仕組みが重要だという事である。



カリキュラムをどのレベルで捉えるべきか

 図1は、文科省の資料を一部ベネッセで改編したものである。元は、2010年に大学設置基準を改訂し、大学は「社会的及び職業的自立を図るために必要な能力を、教育課程の実施及び厚生補導を通じて培うことができるよう、大学内の組織間の有機的な連携を図り、適切な体制を整えるものとすること。」とした際の文部科学省の目的・内容の説明資料である。


 ここで、カリキュラムに関して考えなくてはならないポイントは、多くの場合カリキュラムは専門教育(図1の緑の部分)の中で主に検討され、共通教育や正課外教育、正課外活動(厚生補導)(図1の赤や青の部分)とは別に設計されるという事である。
 たとえば、学生に学ばせる事の範囲と順序(Scope & Sequence)を図示化したカリキュラム・ツリーを作成している大学でも、それは専門教育の範囲でのみ作られている事が多い。勿論その事がいけないわけではないが、学生を成長させ社会的に自立させるためには、専門の教育のみでは目的は達成しえない。

今求められている高等教育の内容とは

 今高等教育に求められているのは、学生の社会的及び職業的自立を図ることである。これは、文科省だけが求めていることではない。図2は、ベネッセ教育総合研究所「高校生と保護者の学習・進路に関する意識調査」(2011)」のデータであるが、上から3番目の項目「大学に行けば社会で活躍するための実力がつく」という質問に対し、80%の高校生が「そう思う」と回答している事に注目してもらいたい。大学の実態がどうあれ、高校生は大学に「社会に出るための準備ができる教育機関である」ということを期待しているのである。


 この高校生の期待に、大学はどのように応えるべきなのか。今求められている大学の教育機能とは、発達心理学者エリクソンのいう青年期の発達課題である「アイデンティティの確立」を支援すること、将来の方向性・就きたい職業を見つけること、社会で求められる主体性や課題発見・課題解決能力や協働性を身につけさせることなのである。
 特に、アイデンティティの確立のためには、様々なグループや立場における役割を試してみる中で、失敗と成功を繰り返しながら自分の型を見つけさせることが必要であり、そのような役割を実験する場をどれだけ提供できるかが問われる。また、もちろん自分の得意な専門領域を磨いていく事も大切で、専門の学びも含めて「自分は何者か、自分は自分の何を活かして社会に参画するのか」という答えを見つけさせる必要がある。

今求められている教育内容のカリキュラムデザインのヒント

 このように考えると、今求められている教育内容を実現するためには、学生を成長させるための「成長マップ」を設計する事が必要であることがわかる。教育内容は大学・学部によって違いがあるために画一的な事は言えないが、共通で検討すべき事は以下のとおりである。

① 高校までの「答えが決まっている学び」から「答えのない課題を発見する学び」
  へと転換させる仕組み、気付きの場をいつ、どのように仕込むか
② 主体性の重要性、専門の学びの重要性にどのように気付かせるか
③ 多様な価値観や意識を持つ人間と、いかに協働して成果を上げるかをいつ、
  どのように学ばせるか
④ 社会の現実や仕組みを理解させるか、将来やりたいことをどのように見つけ
  させるか
⑤ 課題発見・課題解決の力をどのように身につけさせるのか

 他にも様々な要素はあるが、こういったことを、すべての教育機会を有機的に連動させながら設計することが重要であろう。



プロフィール

山下 仁司(元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント)
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

◆シンポジウム
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
 (平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
 「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
 (平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
 「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

論文
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
 (2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
 産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集

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