調査室長コラム Ⅰ
第６回 教育の位置づけ
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2007/12/17更新）
米百表の精神――小泉元首相が最初の所信表明演説（平成13年）で取り上げ、広く知られるようになった故事である。明治の初め、戊辰戦争の見舞いとして贈られた支援米を、長岡藩の大参事・小林虎三郎が藩士に配分せずに、学校設立の資金にしたというエピソードだ。後にその流れをくむ学校が数多く誕生し、長岡の近代化を支える人材を多く輩出したという。将来に備えて教育に投資することがいかに重要かを、この話は教えてくれている。
当時の首相が所信表明でこの話を引用したように、教育の大切さが語られる場面は多い。社会が継続して発展するためには、「人」をどう育成するかにかかっている。天然の鉱産資源が少ないわが国では、なおさらだろう。ほとんどの人は、そのことを認識している。とはいえ、実態は教育に対して十分な投資がなされているといえるのだろうか。
上図はOECD（経済協力開発機構）がまとめた教育費全体の国別データである。数値は国内総生産（GDP）に占める比率を示し、公財政からの支出と家計負担の私費支出を表わしている。これを見ると、日本は28か国中23番目に位置する。「公財政支出」だけに注目すると、トルコ3.4％の次に低い3.5％だ。いかに教育への公的支出の比率が低いかがわかる。もっとも、日本のGDPはアメリカ合衆国に次いで世界第２位なので、一人当たりの支出額に換算すると平均値に近くなる。順位でも、中ほどに位置する。
しかし、支出額で中位というのは十分と言えるのだろうか。さらに、GDPに占める比率が低いというのは、国のなかでの教育の位置づけが低いということを意味しているように思えてならない。国や地方の財政が厳しいことは重々承知しているが、だからこそ、米百表の精神で教育費用を減らさない努力が求められる。将来にわたって困難な状況を支えていくのは、若者や子どもたちだ。その教育環境を整備するのは、大人世代の務めであろう。
国際的な学力テストの順位は大きく報道されるし、その低下を気にする教育関係者は多い。ところが、そもそも教育にどれくらい投資されているか、それが国際的に見たときにどの程度かまでは、なかなか配慮が及ばない。公的支出の少ないのに学力テストの結果が上位なのは、効率性のよさを物語るともいえるが、そのような指摘はほとんどされない。アウトプット（学力）だけでなく、インプット（教育投資）やプロセス（教育効果）も同時に議論されるべき、と思うのだがどうだろうか。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2006年10月号（学事出版）
