調査室長コラム Ⅰ
第11回 将来を意識するメリットは何か
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/01/21更新）
子どもたちは、自分が文系と理系のどちらに向いているかを、いつごろ意識するのだろうか。また、将来の専攻や進学する大学などを意識するのは、どれくらいからなのだろうか。さらに、そうした将来を意識することに、どのような意味があるのだろうか。今回は、そうした将来観について、いろいろと考えてみたい。
紹介するのは、ベネッセ教育研究開発センターが経済産業省から研究委託を受けて行った「進路選択に関する振返り調査」の結果である。この調査は、全国の四年制大学に通う大学生6,463名を対して、進路選択に影響を与える要因を分析するために実施した。大学生という限られた対象であるが、進路決定のプロセスを見ることができる。
さて、図では、（１）文系・理系を意識した時期、（２）大学での専攻分野を意識した時期、（３）進学する大学を意識した時期、（４）職業を意識した時期を示した。さすがに、専攻分野や大学を意識するのは高校時代が圧倒的であるが、文系・理系の意識は意外に早く、「小学生のころ」と「中学生のころ」をあわせると半数を超える。
実際に、小・中学生のころに好んで行っていた活動や志向についてたずねると、文系進学者と理系進学者でその内容は大きく異なっている。文系に進学した学生は、子どものころから「文学・小説などの本を読んだ」「作文を書くことが好きだった」「新聞のニュース欄を読んだ」と回答し、理系に進学した学生は「理科の実験が好きだった」「図形の勉強が好きだった」「機械やものづくりに関心があった」などを肯定する比率が高い。小・中学生のころから好みはかなり分化しており、しかもそれは進路の選択に影響を与えていることがわかる。
では、図に示したような意識を早くからもつことには、どのようなメリットがあるのだろうか。総じていえるのは、自分の適性を早くから理解していたり、将来については早期に考えたりしている学生は、いわゆる文転・理転といった進路変更が少なく、悩みや不安も少ない。さらに、大学に行く目的も明確で、「皆が行くからとりあえず」といったモラトリアム志向が弱い。
もちろん、進路について早期に意識することで、得意ばかりに特化し、苦手と感じる教科や領域の勉強をあきらめてしまうこともある。そうした弊害についても認識しつつ、それでも、目的を持って学習するためには、小・中学生のころから自分の適性や将来イメージをつかむ機会を多く与えたいものだと思う。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2006年５月号（学事出版）
