調査室長コラム Ⅰ
第20回 多様化するニーズにどう応えるか
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/03/17更新）
教員の勤務時間が増え、教員が多忙になっている。今の教員は、人的・物的・時間的資源が不足するなかで教育改革のための新しい取り組みを担い、実現していかなければならない立場にある。そのうえ、子どもや保護者のニーズはますます多様になってくる。
子どもに授業態度について聞いてみると、多くが、近くの子とおしゃべりをしたり、漫画を描いて遊んだり、ぼうっとほかのことを考えたりすることがあると答える。たとえば、授業中におしゃべりをすることは、小学生の65.0％が「ある」と回答しているが、さらに「先生に注意されても友だちとおしゃべりを続ける」という回答も12.0％と一割以上にのぼる（いずれも「よくある」と「時々ある」の合計、ベネッセ教育研究開発センター『第３回学習基本調査』）。この授業中の態度の乱れの要因の一つに、学習進度が自分にあっていないという感覚がある。内容が難しすぎる、もしくは簡単すぎてつまらないと感じる子が増えている。
学校が「個」に応じてくれていないといこうとは、子どもも保護者も強く感じている。東京都教育庁が行った『東京の教育に関する都民意識調査』によると、学校で「一人ひとりの個性に応じた教育が行われていると思うか」という問いに対して「そう思わない」と回答したのは、「子ども」61.6％、「大人（保護者＋一般都民）」84.4％だ。習熟度別の指導を行う学校が増え、各学校でできる限りの努力を重ねているとはいえ、40名の子どもを担任が指導する現状のスタイルでは無理もない。さらに、学校へのニーズが多様化すればするほど、個に対応することは、「学校」という枠組みでは難しい面がある。
図は、「これからの学校教育はどのような分野に力を入れゆくべきか」をたずねた結果である。トップは、「外国語教育や国際理解に関する教育」だ。外国語をしっかり見につけさせたいという親の思いが強いことがわかる。２位は道徳教育だが、環境教育、福祉教育、情報教育と続く。こうした教科を超えた教育は、総合学習などで取り入れられてはいるが、すべての学校が充分に行っているとは言えないし、そのための時間数を確保できないという問題がある。
さてさて、こうした多様化するニーズに学校はどう対応するのか。できるだけ応える方向で態勢を整えるのか、それとも、学校教育でカバーする領域を明示して、その領域の充実に特化するのか。これは、社会的に考える必要がある課題でもある。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2005年８月号（学事出版）
