調査室長コラム Ⅰ
第22回 「ぶつからない親子関係」がもたらすものは？
ベネッセ教育研究開発センター 調査室長 木村治生 (2008/04/21更新）
地震、雷、火事、親父。昔は恐いものの代表として、「父親」が挙げられていた。時代が変わっても「地震」は揺るがずに人々から恐れられているが、「父親」の地位は急降下している。親子関係は格家族化の進展とともに大きく変化したとされ、そのころから教育ママとしての「母親」のほうが恐くなった、などと言われもした。しかし、近年では、父親・母親のいずれもが、とても「優しい」ようだ。
図：どういう親か
出典）NHK放送文化研究所『中学生・高校生の生活と意識調査』2002年
図は、中高生に対して父親･母親が「どういう親か」を聞いた結果と、父親･母親自身が自分を「どういう親だと思っているか」を聞いた結果を示している（ＮＨＫ放送文化研究所、2002年）。これを見ると、「きびしい」は親子ともに数値が低く、「いろいろなことを話す」「やさしくあたたかい」が高い数値を示している。驚くのは、「子どものことをよくわかっている」と評価しているのが、親自身よりも子どもである点だ。かつての青春ドラマの主役たちは、「親はオレのこと、何にもわかっちゃくれない」とグレていったものだが（三流ドラマの見過ぎ？）、今の中高生は、親からよく理解されていると認識している。それなのに、親のほうは子どものことをよくわかっているか不安なのだ。
このような親子関係は、親自身が「友だちのような親」でありたいと思っていることと関連する。「友だちのような親」と「権威のある親」のどちらでありたいか聞いてみると、前者を選ぶのは父親では60％、母親では83％にのぼる。こうしたデータを総合的にみると、今の親は子どもとよくコミュニケーションを取り、理解を示していて、いい親子関係を築いているといえそうである。しかし、対立が失われることの問題も、ふと思う。
一つは発達上の問題だ。年齢区分ごとの発達課題を提唱したハヴィガーストは、青年期の課題として「両親や他の大人からの情緒的な独立」をあげている。この時期は、自分と大人の違いを意識し、反発することで自己を確立するわけだが、その過程を経ずに、ぶつかることを避けているとしたら、子どもの自立を阻害することはないのかということ。もう一つは、親自身の問題だ。同じ調査で、家庭内では自分の子どもにきびしくない親が、学校にはきびしさを求めていることが示されている。子どもの自立のために「ぶつかること」の必要性は感じながらも、それを学校に押しつけているとしたら、「それは親の責任ではないか」と言いたくもなる。
※初出：月刊「授業つくりネットワーク」2005年６月号（学事出版）
