調査室長コラム Ⅱ

第15回 学校の信頼回復は本当か

ベネッセ教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2009/7/27更新)

教育に対する世間のイメージ

 教育に関する一般の話題というのは、明るいものが少ない。どちらかというと、毎日実践されていることではなく、子どもや教員をめぐる事件が大きく報道される。その結果、それが課題としてとらえられる。例えば、いじめにかかわる事件が起これば、学校の管理や教員の指導、家庭教育などの課題と関連付けられ、その対応策が練られることになる。教員が起こす事件も同様だ。2008年6月に発覚した大分県の教員採用にかかわる汚職事件も、一教育委員会の問題にとどまらず、公教育全体の信頼を大きく揺るがした。

 明るみになった問題を氷山の一角と考えて、全体を点検しようとする姿勢は、否定されるものではない。それによって改善される部分があるとすれば、歓迎すべきことだ。とはいえ、悪いところにばかり注目が集まるのは、どうしても暗い気持ちになる。また、教育のイメージを悪いものにする。今や、「日本の学校は優れている、先生は素晴らしい」と、手放しで賞賛する人は、少数ではないかと思える。

学校は信頼回復中!?

 しかし、世間で語られているイメージほどに、保護者の学校に対する意識は悪くない。そんな調査結果を先日発表した(ベネッセ教育研究開発センター・朝日新聞社「学校教育に対する保護者の意識調査」)。しかも、ここ4年で、学校に対する満足度が高まっているのだ。

図1:学校の総合満足度

図1:学校の総合満足度

*対象は、小2、小5の子どもをもつ保護者と中2の子どもをもつ保護者。2004年は6,288名、2008年はは5,399名。

出典)ベネッセ教育研究開発センター・朝日新聞社「学校教育に対する保護者の意識調査

 図1は、子どもが通う学校に対する総合的な満足の程度を尋ねた結果である。これを見ると、小学生の子どもを持つ保護者は8割が、中学生の子どもを持つ保護者は7割が、学校に対して「満足している」と回答している。満足度の伸びは中学校で著しく、2004年と08年の結果を比べると8.5ポイント上昇した。確かに「とても満足している」と回答する保護者は1割に満たず少ないが、多くの保護者がおおむね満足していると評価している状況である。

図2:学校・教員に対する認識

図2:学校・教員に対する認識

*数値は、「とても感じる」と「やや感じる」の合計。小学生の保護者と中学生の保護者を合わせて示した。

出典)ベネッセ教育研究開発センター・朝日新聞社「学校教育に対する保護者の意識調査

 続いて図2は、学校や教員に対する認識を尋ねたものだ。ここからも、信頼感が高まり、不満が弱まっている様子がうかがえる。「学校の先生は信頼できる」と感じる比率は、48.0%から56.8%と8.8ポイント上昇した。また、「学校は一人ひとりに応じた教育を行っていない」は62.4%から54.4%になり8.0ポイント減少、「先生の教える力が低下している」も4.2ポイント減少して過半数を割った。信頼回復ともいえる結果である。

学校現場の努力が評価を上げている

 この結果を発表して以来、多くの人から「保護者は本当に満足しているのか」という質問を受けた。世間のイメージと異なっており、どうにも違和感を覚えるというのだ。しかし、私は学校現場の教員たちの努力の反映だと思っている。

 学校の総合満足度に影響を与えている要因について分析してみると、最も強く関連しているのが「先生たちの教育熱心さ」という項目だ。この項目に対する評価が高いと、全体の満足度も高まる。つまり、保護者が満足かどうかを判断するのは、実際に子どもが通っている学校、日ごろ接している先生ということだ。その熱心さが伝わると、保護者は安心するのである。

 同様に、総合満足度に関連が深いのは、「教科の学習指導」「学ぶ意欲を高めること」といった学習にかかわる項目と、「学校の教育方針や指導状況を保護者に伝えること」という情報公開・情報伝達にかかわる項目だった。学習指導については、ここ数年、学校は学力向上のための取り組みを充実させているし、情報公開・情報伝達も数年前と比べると格段に進んだ。実際の指導の充実と、それに対する説明を併せて、保護者は評価しているのではないだろうか。

学校によってバラつき

 だが、全く問題がないわけではない。今回の調査で気掛かりだったのは、学校による差だ。総合満足度でいえば、もっとも高い学校と低い学校で、38.2ポイントの差があった。「満足している」の割合が9割を超える学校もあれば、5割程度の学校もあるということだ。また、学校ごとに4年間の推移をみると、38.8ポイント上昇した学校がある一方で、21.2ポイントも下降した学校があった。このように、全体では学校に対する信頼が高まっているといっても、置かれている状況は学校によってさまざまだ。

 だからこそ、それぞれの学校には、状況を客観的にとらえる工夫をしてもらいたい。各学校できちんとリサーチしていれば、自校が抱えている課題をとらえやすいし、その対策も立てやすくなる。また、数値はメンバー共通の目標にしやすい。教育の目標は数値のみには表せないことは百も承知だが、結果も分かりやすいという特徴を持つ。うまく使うことが肝心だ。それによりさらに学校の評価が高まれば、言うことない。

 ともあれ、今回の調査は、全体では学校の評価が上がっていることが示された。こうした明るいデータが増え、世の中に紹介されることを切に願う。


 グラフのポイントはココ!

(1) 小学校では8割、中学校では7割の保護者が、学校に「満足している」と答えている。4年間の増加は、中学校で著しい。
(2) 「学校の先生は信頼できる」の割合が、2008年調査では半数を超えた。

※初出:月刊「教員養成セミナー」2008年11月号(時事通信社)


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