調査室長コラム Ⅱ

第22回 「携帯電話」をどう教えるか

ベネッセ教育研究開発センター 教育調査室長 木村治生 (2010/2/22更新)

携帯電話の所有状況

 今回は、「携帯電話」を取り上げたい。このツールとの付き合い方を子どもにどう教えるかは、実に難しい課題だと考えるからである。

 子どもたちの携帯電話の所有がここ数年で急速に広がっているのは、周知のとおりである。学校に持って来るようなケースも生じてきたため、すでに小学校の94%、中学校の99%で、携帯電話の持ち込みを禁止している(文部科学省「子どもの携帯電話等の利用に関する調査」2009年)。しかし、禁止すれば問題はなくなる、というわけではなさそうだ。

 では、どれくらいの子どもが携帯電話を使っているのだろうか。図1は、小学4年生から高校2年生までの所有率を示したものである。ここからは、いくつかの興味深い傾向が読み取れる。第一に、小学生の所有率はおよそ3割で、学年による大きな変化はない。第二に、携帯電話の所有率は中学生の段階で拡大し、高校入学とともに9割を超える。第三に、小6から中3までの4年間は女子の所有率が高く、男女で15〜20ポイント程度の開きがあることだ。

図1:携帯電話の所有の有無

図1:携帯電話の所有の有無

*「自分専用の携帯電話を持っている」+「家族と一緒に使う携帯電話を持っている」の%。

**この設問は「自分専用の携帯電話を持っている」「家族と一緒に使う携帯電話を持っている」「携帯電話は持っていない」の3択で回答。

出典)ベネッセ教育研究開発センター『子どものICT利用実態調査』
2008年実施

子どもが携帯電話にはまる背景

 学年や性別で所有率が異なるのには、いくつかの理由がある。小学生のうちは、利用目的の多くを家族への電話連絡が占める。夜に塾に通っている、保護者が働いているなどの連絡が必要な一部の子どもが所有の中心であり、友だちとのやりとりは少ない。小学生の所有者の7割は1日に1回以上「家族に電話」をかける一方で、6割が「友だちにメールを送ること」はほとんどないと回答している。こうしたことから、本当に必要な子ども以外にはあまり広がっていないことが分かる。

図2:「親しい友だちを遊びに誘う」ときの方法(中学生)

図2:「親しい友だちを遊びに誘う」ときの方法(中学生)

*「その他の方法」は「手紙を書く」と「その他の方法を使う」という回答の合計を示した。

出典)ベネッセ教育研究開発センター『子どものICT利用実態調査』
2008年実施

 しかし、中学生になると様相は一変する。中学生は、友だちとのメールでのやりとりが使用目的の中心になる。「友だちにメールを送ること」がほとんどない子は1割程度になり、3割は1日に21回以上メールを送るという。そうしたヘビーユーザーが、クラスに5〜6人はいる計算になる。友だち関係の維持に必要ということになると、親しい相手が持ったら自分も持たなければならなくなる。図2は、中学生について携帯電話を持っている子と持っていない子に分け、「親しい友だちを遊びに誘う」ときにどのようなツールを使うかを尋ねた結果だ。ここからは、携帯電話を持つと同時に、日ごろのやりとりがメールで行われるようになることが分かる。

 そして、そうした友だち関係を、女子ほど重視する。女子は携帯電話の所有率も高いが、その上にヘビーユーザーである割合も高い。女子は、気持ちを伝え合うコミュニケーションの道具として利用する傾向が強い。このような使い方は、相互のつながりを確認し、仲間の凝集性を高める効果を持つ。思春期を迎える子どもたちには、密にやりとりをすること自体が楽しくて仕方ないに違いない。こうして、中学生になるのを境に、女子が先行する形で所有率が上昇する。

携帯電話の懸念

携帯電話について教えるのが難しいのは、それが思春期の友だち関係の維持を背景にしているところにある。子どもにしてみれば、保護者や教員が友だち関係に介入することは受け入れ難い。

 とはいえ、コミュニケーションが親密になりすぎて歯止めがかからなければ、それは問題だ。ある子にとっては、「命の次に大切」というくらい依存度が高くなる。また、ある子にとっては、頻繁すぎるやりとりが重荷になるだろう。そもそも、携帯電話の使用時間が長くなることは、学習や睡眠などを含めた生活全般に影響を与える。

 また、インターネットの利用に関して言えば、大人の目が届きにくく、事件や犯罪に巻き込まれる可能性も否定できない。ネットいじめのように、軽い気持ちでも加害者になる恐れがある。放置はできない問題である。

大人としてのかかわり

 では、大人はどのようにかかわれればよいのだろうか。使用があまりに度を越しているようならば、一時的に携帯電話を取り上げたり、禁止したりする措置もやむを得ないだろう。とはいえ、携帯電話は子どもたちが成長して大人になった後も、使うツールである。そうであれば、一方的な禁止ではなく、適切な使い方を教えていくしかないように思う。

 まず、危険性についての知識をきちんと伝えておきたい。知識を得るためには、保護者や教員も十分に勉強する必要がある。次に、一定の関与が重要だ。例えば、子どもがはっきりと答えてくれないとしても、使い方について子どもに尋ねるようにしたい。「携帯電話があなたに困った状況をもたらさないか心配である」というメッセージを送り続けること、それが何より大切だろう。最後に、子ども自身に適切な使用について考えさせる必要がある。どういう目的で、どの程度使うのがよいか、子ども自身が回答を出すことが、無規律な使用の歯止めにつながる。

 大人がかかわりにくい問題を含んでおり、明確な答えもないが、そのような場を持つことでかかわり続けるしかないように思う。


 グラフのポイントはココ!

(1) 携帯電話の所有率は、小学生3割、中学生5割、高校生9割である。中学生の女子が先行して所有が拡大する。
(2) 親しい友だちを遊びに誘うとき、携帯電話を持っていない子は「直接話す」、持っている子は「メールを送る」が多い。携帯電話の所有とともに、友だち間のコミュニケーションが大きく変わる。

※初出:月刊「教員養成セミナー」2009年6月号(時事通信社)


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