Benesse
一人ひとりの「よく生きる」のために
ベネッセ サイトマップ
ベネッセ トップ教育トップ
ベネッセ教育総合研究所
Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
トップページ センター長メッセージ 特集 ビデオメッセージ 研究員リポート 子どものココロ・大人のキモチ USER'S VOICE ご意見・ご感想
『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
子どもを取り巻く環境と生活習慣

[ 7 ]

危機がつのる「子どものからだ」

中村和彦 山梨大学准教授

子どもの体力低下・運動能力の低下が指摘されるようになって久しい。しかし、子どもにスポーツをさせることに熱心な保護者や学校などが増えているにも関わらず、なぜ低下し続けるのか? 子どものからだやこころの問題について研究し、積極的に子どもの遊びの重要性について発信・提案している中村和彦先生に「子どものからだ」をめぐる危機的状況と解決策についてうかがった。

「子どものからだ」が危ない
中村和彦 先生
中村和彦 先生
山梨大学教育学部卒業。筑波大学大学院体育研究科修了。筑波大学体育センター準研究員、山梨大学教育学部助手を経て、現在山梨大学人間科学部准教授。専門は、発育発達学・運動発達学・健康教育学。文部科学省中央教育審議会スポーツ・青少年分科会スポーツ振興に関する特別委員会委員・日本体育協会ジュニアスポーツ指導員部会部会長・日本オリンピック委員会(JOC)ゴールドプラン専門委員会委員なども歴任。著書に『子どものからだが危ない!』(日本標準)など多数。

 今年1月、全国規模で始めて実施された、文部科学省「平成20年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」の結果が発表になり、子どもの体力と運動能力が依然として低下し続けていることが話題になりました。文部科学省では「体力・運動能力テスト」を、1964年から継続的に抽出した全国の学校で実施しています。保護者の方の多くもこれを受けた覚えがあるのではないでしょうか。これまでの調査結果を比較してみると、スタート時からの約20年間はデータに大きな変化はありません。ところが1985年頃を境に、子どもの年齢や性別を問わず、すべての体力と運動能力が下がりはじめ、上がることがないまま現在に至っています。

 運動能力が低下した原因はいくつか考えられますが、なんといっても基本的動作の未習得・未発達が挙げられます。つまり、投げることがうまくできない、幅跳びの動きが身についていないといったことです。これらは、基本的動作を身につける経験が少なくなった、つまりは子どもの運動量が全体的に減っていることが原因と考えられます。さらに、学校現場では怪我の増加が問題となっていて、転んだとき手をつかず顔面を打ってしまう、十数センチの高さから飛び降りただけで骨折してしまう…といったことが起きています。そして生活習慣病が子どもにも広がりを見せています。日本の子どものからだは「危機」にあると言えます。

 別のデータでは、子どもの一日の歩数が1970年代後半までは平均約二万歩だったのに、今は一万歩を切っているということが明らかになっています。こうした運動量の低下の背景には、バス通学が普及し、下校後も自由に遊ぶ時間や場所がなくなったことなど、社会状況や生活環境の変化が考えられます。

 もう1つ指摘したいのは、全体的に体力の低下傾向が見られることに加えて、二極化が進んでいる。つまり、からだをよく動かす「活動的な子ども」と「非活動的な子ども」に分かれてきています。こうした非活動的な子どもがなぜ増えたか。原因は複合的ではありますが、ひとつ言えるのは、からだを動かしてもつまらなかった経験をした子どもが多くなっているのでしょう。からだを動かす経験がほとんどないまま小学生になり、いきなり体育の運動をしたところ、うまくできなかった。または、ある遊びや動きを繰り返したことが少なく、上達した経験がない。これでは、からだを動かすことが好きにはなれないでしょう。子どもとは本来は遊びが好きなものですが、小さいころの生活が原因などとなって、非活動的になったと考えられます。


「活動的な子ども」は大丈夫とはいえない!

 活動的な子どもの保護者は、「うちの子はサッカーが得意だから大丈夫」などと、子どもの体力の問題を人ごとのように思われるかもしれません。しかし、私は「活動的な子ども」にも、実は問題があるのではないかと考えています。かつての子どもたちは、おにごっこをしたり三角ベースをしたりと、さまざまな遊びを通して自然と「動き」を身につけていきました。ところが今の子どもたちはスポーツクラブなどの組織に所属して、そこで組織化された競技をひとつだけ続けることが圧倒的に多くなっています。これでは運動量は確保できても、「多様な動き」は身につきません。幼少期から特定のスポーツだけを続けることが、必ずしも体力や運動能力の向上にはつながらないことに、気づいていただきたいと思います。

 オーストラリアやアメリカ、ヨーロッパ諸国でも、幼少期からひとつの競技スポーツをさせる流れがありました。しかし、これではいろいろな動作が身につかないこと、ケガが増えること、そして子どもの心身の健全育成が果たせないことに気づいたのです。こういった国の子ども向けのスポーツ組織では、おもしろい・のめりこめる・楽しいなどがキーワードになっており、日本のように勝つ・うまくなるという言葉は重視されない傾向があります。アメリカでは、子どものスポーツクラブは3種以上の競技がそろわないとクラブとして認めない州が10州以上あります。またオーストラリアでは、放課後の学校を開放して子どもたちを遊ばせる「アクティブ・アフタースクール・プログラム」を国家レベルで展開しています。このプログラムには、プレイ・デリバラー(play deliverer)という、いわばガキ大将役の大人がいて、遊びや遊び方を先導します。そして子どもたちが自分たちで動きだし、のめりこんでいったら、そっと消えるのです。コツは、先導はするが決して指導はしないことにあります。日本の場合の「指導者」とは考え方、役割が大きく異なるのです。



  
最新特集のTOPページへ「子どもを取り巻く環境と生活習慣」TOPへ
この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。
(募集は終了しました)
ご意見・ご感想を読む