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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
子どもを取り巻く環境と生活習慣

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子どもの言葉の力を育てる環境づくり

内田伸子 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授

子どもの“言葉”の発達は、保護者にとって関心の高い事柄の一つである。ところが、社会に氾濫するさまざまな情報や保護者の思い込みなどから、子どもへの教育がバランスを欠くことになることもあるように思われる。子どもはどのような発達を遂げて言葉を獲得し、どのようなことが必要とされるのだろうか。子どもの言葉の獲得や発達にかかわる幅広い研究を続けている内田先生に、お話をうかがった。

聴覚の発達とともに、“よしよし”は気持がよくなる合図として刻まれる
内田伸子 先生
内田伸子 先生
お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。学術博士。専攻は発達心理学、認知心理学。主な著書に『言語発達心理学』(放送大学学術振興会、編著)、『子どもの文章:書くこと考えること』(東京大学出版会)、『幼児心理学への招待−子どもの世界づくり』(サイエンス社)など。

人にとって言葉とは、考える手段であり、人とつなぎ合うためのコミュニケ−ションの手段であるという2つの面をもっています。このような“人間の証”ともいうべき言葉を人はどうやって獲得していくのでしょうか。まず、その発達の仕方についてお話しましょう。

 言葉の獲得は、子どもが母親のお腹の中にいるときから始まっています。受胎して18週頃に聴覚神経系にネットワ−クができ始めると、母親の体内の音である心臓の拍動や血液の流れる音に混じって、外部の音−母親の声、母親と会話をする父親の声、母親が見ているテレビの声−が、母親の骨を通して、羊水を伝って、子どもに届いています。18週というほんの小さな段階から、母体を通して言葉を音として聞き始めているわけです。妊娠中は、優しい言葉を話し、美しい音楽を聞くなどして、リラックスした生活をおくることが大切です。胎教に音楽がいいと言われたりしますが、それは母体を興奮させないようにして安定させる−体液の流れをよくして、羊水をよい状態に保つ−といった意図もあるのです。

 生まれたばかりの子どもが不安や空腹のために泣いていると、お腹の中で聞きなれた母親の“よしよし”という声が聞こえてきます。“よしよし”のあとにおっぱいをもらったり、おむつを替えてもらったりしてよい状態になることを何度か経験するうちに、子どもは“よしよし”という声を聞いただけで落ち着くようになります。こうして“よしよし”は、気持ちがよくなる合図としての意味が加わります。このころの子どもは、言葉を、高い低いなどのピッチや全体のメロディ−で聞いているようです。“よしよし”などのあやし言葉は高いピッチでメロディ−があるために安心できる音として捉えますが、“だめ”などの叱り言葉はピッチが低くメロディ−もないために不安な音として捉えます。そうして脳が発達するにつれて、音はしだいに言葉として捉えられるようになっていきます。

 生後6か月頃の子どもは、万国共通の“耳”を持っていて、英語のLとRを別の種類の音として聞き分けることができますが、日本の子どもであれば、日本語に取り巻かれた環境で生後12か月まで過ごすと、その聞き分けができなくなります。日本語には“ラ(La)”と“ラ(Ra)”という音に意味の違いがないので、聞き分ける必要がないからです。このような話をすると、気の早い保護者は“12か月までに英語のテ−プを聞かせれば、英語と日本語のバイリンガルになるのではないか”と思うかもしれませんね。けれどもそれは正しいとはいえません。母語をきちんと習得する前に英語などの第二言語を学習すると、混乱して、かえって母語の日本語の獲得が遅れてしまうことがあります。

 日本からカナダやアメリカへ移住した子どもを対象にした調査研究では、一番早く母語話者の読解力偏差値まで到達できるのが2年半で、それは小学校3年生まで日本語の読み書きを学習した子どもの場合であることが明らかになっています。次にスム−ズなのが、小学校6年生までしっかり日本語で学習した場合。3、4歳までだと、立ち上がりは早くても、11年半ぐらいかかります。特に、国語や社会などの教科に関することでは、文化的背景を理解することが必要なので、ついていくことが難しいようです。これは母語で土台をしっかり作っておく必要性を示しています。専門的には「二言語相互依存説」というのですが、2つの言語は別々に獲得されるのではなく、土台となる共通部分があって、それを母語でしっかり築いておくことが大事と考えられています。母語での意味、発音、語彙の種類、文法などを学んでおくと、それとは構造の異なる第二言語を学ぶときに、言語を分析したり、意味を解析したり、音を弁別したりといった力−これらは共通の水面下にある能力−を活用して習得することができます。まずは、きちんと母語での学習で土台を作ることが大切なのです。



  
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