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Benesse発 2010年「子どもの教育を考える」
このコーナーでは、教育のあるべき姿をベネッセ教育研究開発センターと、皆さんと共に考え、創りあげていきます。
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『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』更新終了のお知らせ

『Benesse発2010年「子どもの教育を考える」』は、2010年3月31日をもって、更新を終了させていただきました。
これまでたくさんのアクセスをいただき、ありがとうございました。

特集
子どもを取り巻く環境と生活習慣

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子どもの言葉の力を育てる環境づくり

内田伸子 お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授

脳や体とともに、言葉は発達する

 次に、発声の発達についてですが、乳児期の最初のうちは、呼吸音(呼気)に混じって、きゅきゅというような発声が出ます。それから3か月ぐらいになりますと、あ、あというような声が出てきます。まだこれはきれいな音ではなく、観察していると、手の上下運動といっしょに、少しタイムラグがあるのですが、あ、あ、あ、あと出てくる。これは、発声をコントロ−ルする脳の部位と、手をコントロ−ルする脳の運動野の部位が隣接していて、一方の興奮が他方にもれて伝わるからと考えられています。ちょうど生後6か月ぐらいになりますと、今度は手の運動と発声とは独立して、つまり、声は出していても手は動かなくなります。発生も“あうあう”“ばあばあ”のような母音と子音を伴った音節になります。その後“あうあうあうあうあうあうあう”という長い音節を、まるで日本語を話しているかのようなメロディ−で発声が出てきます。そして8〜9か月になると、“まんま”“ぱ−ぱ”“にゃんにゃん”のような、意味をもつ重ね言葉が出るようになるわけです。こうした発声の発達は、個人差や性差もあるので、早い・遅い、多い・少ないなどについてあまり神経質にならないほうがよいと思います。

 1歳を過ぎると子どもは立ち上がるようになります。立ち上がると上顎骨が上がって下顎骨が下がるために、舌を動かす空間が大きくなります。離乳食を食べたりするので、舌筋が発達して舌を自由に動かせるようになります。声帯の位置も下がりますから、振動させてはっきりとした発音ができるようになります。今まではミルクを飲み呼吸をするという生命維持の器官だったものが、発声に都合のよい構造をもつ器官に変わるのです。それで声帯の位置も下がります。声帯の位置を、赤ちゃんやチンパンジ−のそれを0としますと、ネアンデルタ−ル人は0.7ぐらいの位置にあります。そして、人間の子どもは1歳を過ぎると1にまで下がり、呼気で声帯を震わせてさまざまな音を発音できるようになります。二足歩行が発声の発達に大きな変化をもたらしたわけですね。

 大人と同じような発声器官をもつようになった子どもは、その後、1歳半くらいから“わんわんいた”“これなあに”のような2語文、3語文を話すようになり、お腹の中にいた頃からそれまでの間にストックしていた音声素材を一気に話すようになります。これがいわゆる“語彙爆発”で、1週間に40語ぐらいを獲得していきます。そして3歳頃までに1文の文法を理解し、5歳後半頃までに文章の文法を理解するようになります。すると起承転結の構造をもった語りができるようになり、長い話も作れるようになります。そして小学校に入ると系統的な学習が始まることになります。


言葉は、人とのやりとりを通してこそ獲得される

 言葉の発達を、主に言語聴覚面と発声面からお話しましたが、子どもはどのようにして言葉を獲得していくのでしょう。物語を吹き込んだテ−プなどを流していれば自然に学習するかといえば、そうではありません。本来、言葉は人とのやりとりによって学習するものです。乳幼児の教育番組やDVD(ビデオ)の視聴時間と、乳幼児の言語発達との関係を調べた調査研究では、視聴時間が少ない子どもの方が言語発達が進む傾向が見られるという結果が報告されています。(詳しくは、内田伸子著「子育てに『もう遅い』はありません」sasaeru文庫:成美堂出版P31などを参照ください)これは、言葉は人とやりとりし、社会的な交信手段として使うことにより獲得されていくものであり、一方的に流れる教育番組やDVD、語学のテ−プを与えるだけでは言語の獲得が難しいことを示しています。

 本やテレビから言葉を獲得するという間接学習は5歳〜6歳を過ぎたころから、それ以前の子どもは人とのやりとりで使われた言葉を自らも使い、人と意を通わせてみて、言葉が獲得されていきます。この時期の子どもにたとえば源氏物語を見せた場合、暗記はできたとしても、その意味は理解できないでしょう。当時の暮らしや男女の機微などの背景を知らない子どもにとっては、感情を伴って読むことのできない源氏物語の文章は単なる文字の連なりにすぎないのです。

 絵本の読み聞かせをすることも、言葉の獲得に大きな効果があります。子どもは、文字は読めても意味を捉えていない場合が多くあります。子どもに任せきりにするのではなく、保護者の声を聞かせて、楽しい本の世界へといざなってほしいと思います。子どもの想像がゆっくりと広がるように、保護者の声のぬくもりを伝えていくことが大切です。今や保護者は非常に忙しくなり、しつけの多くの部分をアウトソ−シングするようになりました。読み聞かせもテ−プに任せたり、映像を見せることですませようとする傾向があります。

 しかし、映像と読み聞かせの効用は同じではありません。たとえば「やまんばが耳まで裂けた真っ赤な口をがっと開いた」という26文字の言葉は、ゆっくり読むと15秒ぐらいかかりますが、映像は一瞬で見せてしまいます。そしてアップテンポで次々と場面が切り替わっていきます。これですと、子どもたちは言葉をほとんど聞かなくなります。あとで理解テストをすると、起こった出来事を記憶しているだけで、その出来事の意味は理解していないことがわかります。つまり、子どもたちは映像を読み取る技法は身につけますが、行間を読むなどの深い読み取りの力が育たないのです。

 読み聞かせでは、大人の語りではなく、育児語で語りかけると集中がいいことがわかっています。“犬が走っています”ではなく、“わんわんが走っているよ”の方が、赤ちゃんはじっと聞いています。1歳くらいの赤ちゃんに、いろいろ条件を変えて実験してみると、女性の声で育児語がいちばん集中してくれます。ですが、お父さんが読んだほうが効果的な本もあります。お化けのような、どきどきする題材は、男性の声で低いバリトンで読むと、赤ちゃんはものすごく集中して聞きます。父親にも出番はあるわけですね。そして、両親が本を読む姿を見て育った子どもは、それをモデルにして、自分自身も活字との付き合いを始めます。幼児期に読み聞かせをして絵本の楽しさを知った子どもは、生涯、活字をともにするというデ−タもあります。ぜひ、親子で会話をしながら、各家庭で読み聞かせの世界を繰り広げてほしいと思います。



 
  
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