● 2010年「子どもの教育を考える」にあたり、先生が大切にしているキーワードを教えてください。
「学力格差は幼児期から始まっているのか?」
「親のしつけスタイルが子どもを伸ばす」
この2つです。
● さっそく1つめのキーワードについて伺います。「学力格差は幼児期から始まっているのか?」をテーマにあげられた背景を教えてください。
児童期から中学校での学力格差が、家庭の経済の影響を受けるというデータがあがってきております。「それでは、幼児期はいったいどうなっているのか?」「いきなり小学校に入ってから、学力格差が出てきているのか?」という疑問を持ちまして、幼児期の読み書き能力、語彙力を測定してみたいと考えたところから出発しています。3,4,5歳児、3,000人くらいの子どもたちに、個人面接をしながらデータをとるという方法で研究を進めているところです(2008年度 お茶の水女子大学・梨花女子大学・華東師範大学・ベネッセ次世代育成研究所 共同研究『幼児のリテラシー習得に及ぼす社会文化的要因の影響』)。

● 今回の調査で明らかになったことを教えてください。
2008年の厚生労働省の調査で、日本の子育て世帯の平均総所得が691万円ということがわかっておりますので、収入層を700万円未満と700万円以上で分け、そのお子さんたちの読み書き能力や語彙の力を比べてみました。
こちらが読み得点です。データは、横軸に年齢(3,4,5歳)をとり、収入の700万未満の層を赤い棒、700万以上の層を紫の棒で示しています。3.4歳では、いずれも収入の影響を受けています。収入の高い世帯のお子さんの得点が高いという結果でした。ところが5歳になりますと、この収入の影響がなくなることがわかりました。まったく並んでしまいます。
書きについても全く同じ結果が出ました。5歳になると収入の影響がなくなることがわかりました。


次に語彙ですが、3歳の時では家庭の収入の影響はそれほど大きくはありません。ところが、4,5歳になると、はっきりと有意な差(統計学的に意味のある差)が出てきます。
そこで、もう少し収入との関係を細かく見たいと思い、収入を3つの層に分けてみました。すると、やはり4歳のところで収入の影響を受けていることがはっきりと見えてきました。


これまでお話した結果ですと、最初に立てた問に対して、学力格差は幼児期から始まっていると思われるかもしれません。しかし、実はこの調査では、子ども観(子どもをどのように捉えているか)、子どもとどのように関わりを持っているか、子どもと家庭でどのような時間を過ごしているか、といったようなことも調べています。そのような点を加えて見ていきますと、どうやら「しつけのスタイル」が、語彙の能力と関連しているらしいということが分かってきました。
● では、何が学力格差に影響を与えているのでしょうか?
しつけのスタイルは、統計学的な方法をつかって分類してみたところ、3つのタイプがあるということがわかりました。
「共有型しつけ」とは、子どもと対等で、子どもと楽しい時間を過ごし、ふれあいを重視し、子どもとの体験を享受・共有する関わりをすることです。「共有型しつけ」をとっている家庭の子どもの語彙能力が有意に高いということが分かりました。特に、低所得層の家庭でも共有型スタイルのもとで語彙能力が高いという結果があきらかになりました。
それと対照的なしつけスタイルは「強制型しつけ」です。「強制型しつけ」は大人から子どもへトップダウンにしつけする、自分の思い通りに子どもをしつけようとするタイプです。
まとめますと、語彙得点が高い子どもは、「共有型しつけ」を受けており、語彙得点が低い子どもは「強制型しつけ」を受けていることが分かりました。


経済とは、数字ですので見えやすいのですが、実は、その家庭での雰囲気や親子の関わりの方が大事なのではないかということが、こうした調査の分析結果から見えてきたのではないかと思います。
(第2回では、3つのしつけスタイルについて、さらに詳しくお話を伺います)
(2009年12月1日収録)
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