BERD 2005 No.1
【特集】
インタビュー
BERD
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「詰め込み教育」と「ゆとり教育」の狭間で授業の指導原理が崩れた
 「学力」や「学習意欲」の低下に関連して指摘されている問題の一つに「分からない授業」がある。ここでも、認知心理学の理論を背景に、子どもたちへの個別学習相談の実践研究を続けてきた立場から、市川教授が危惧するのが、授業での「指導原理の崩壊」だ。
 「『詰め込み』とか『教え込み』と呼ばれる授業では、確かに、先生が一方的に説明するだけで、子どもの理解度をほとんど考えていませんでした」
 これは、日本に伝統的な「旧タイプ」の分からない授業なのだと言う。
 ところが、「ゆとり教育」の頃から、「新タイプ」の分からない授業が、とくに小学校で多く見られるようになる。「自力発見」「協同解決」の名目で、授業でも教師がきちんと教えない。こうした「教えずに考えさせる授業」は、指導書にも取り上げられ、研究授業でも基本的にこのタイプの授業が見られるようになった。
 「子どもがほとんど基本的な知識を持っていない状態で、『自分で考えましょう』『みんなで考えましょう』と言って、いろいろな意見を出させる。教え込みになってはいけないという理由から、先生もあまり説明をしません。子どもが疑問に突き当たっても、丁寧に教えようとしないし、宿題で知識を定着させることもしなくなってしまったのです」
 これでは、「子どもに道具だけ与えて、野球の仕方を教えずに、野球を体験しようと言っているようなもの」と言う。最初は適当に遊んでいても、上達しないからそのうち飽きてしまう。これに近いことを1990年代の教育でもやってきたのではないかと市川教授は見るのである。
 「『教え込みの授業』も、『教えずに考えさせる授業』も、多くの子どもにとっては、分からない授業、つまらない授業です。学力低下の背後には、授業での指導原理が崩れている実態があり、それが授業の魅力を損なっていると同時に、学力が低下する一因になっていることは否定できません」

誤解されがちな「教えて考えさせる授業」

 学校の授業について、市川教授が提唱しているのが「教えて考えさせる授業」である。これまで見られた「教え込み」や「教えずに考えさせる」とは異なる指導原理で授業展開を目指すものだ。
  算数や数学でも、単元の初めにある説明の部分、例題として教科書に答えが書いてあるような所もきちんと説明する。教科書もしっかりと読む。その上で、授業が流れていく過程で、理解を確認するための課題、発展的な課題、自己評価活動を入れていく。問題解決学習は、導入部でいきなり行うのではなく、クラスの中で基礎知識の共有を図ってから行うのが特徴だ。
  「教えて考えさせる授業」では、教師が説明したことをもって教えたとせずに、その先の「いかに理解を深めるか」「教えられた知識をいかに使うか」が重要なカギを握る。
  「この授業は、先生の説明を受けたり、教科書を読んだりするだけでは分からない子どもが多いことを、むしろ前提にしています。ですから、新しい学習項目に当たる部分は、先生が丁寧に教えますが、教えたからといってどんどん進んでしまうわけではないのです」
  だが、この主張は、誤解されることも多いと市川教授は言う。一方には、教師から教えてしまうのでは「教え込み」ではないかという反発がある。問題解決学習そのものを否定しているかのように受け取られることもある。その一方では、ただ教師の説明の後に問題を解かせればよいとする誤解から賛同されることもある。
  「先生の中には『教えて考えさせる授業をやっている』と言う人がいます。しかし、その授業を見せてもらうと、私の言う『教えて考えさせる授業』とはおよそ違っています。大切なのは『考えさせる』と言ったときの中身ですが、多くの場合、『理解を確認する課題』や『自己評価活動』が抜け落ちていて、先生の説明の後いきなり問題を解かせて、先生が解説しているだけなのです」
  つまり、子どもに「教わったこと」を自ら表現させるとか、グループで教え合うことで、理解を確認して共有する活動が行われていないのである。
  また、最近は習熟度別と少人数の授業が全国的に試みられるようになっている。共に「子どもの理解」を重視しているが、市川教授は「これはやり方によっては効果がある」ものの、一方で、「教えて考えさせる授業という視点で見ると、気になることがある」と懸念を示す。
  「形は習熟度別少人数でも、実態としては『教えずに考えさせる』という指導原理が強く残っていて、それで授業を引っ張りすぎてしまうのです」
  習熟度別授業のメリットは、そのクラスに合わせた課題を出し、説明できることだ。他方、少人数授業では、一人ひとりを丁寧に見ることができたり、子どもの発言の機会が増えるというメリットがある。
  「習熟度別と少人数では、本来メリットの内容が違うということです。現在はこの二つをセットにして実施されていますが、『教えずに考えさせる』という原理が先にくると、せっかく習熟度別にして同じ学力レベルの子どもを集めているのに、一切の説明を抜きにして、いきなり課題を解かせて個別に指導しようとする。これでは、たちまち時間が過ぎてしまいます」
  それなら最初は教科書も活用して、共通の学習事項をしっかりと教えておく。それで理解できない子どもがいたら、個別に当たっていく。「習熟度別で、かつ少人数にするのであれば、両方のメリットを生かせる効果的な授業ができるはずなのに、そうなっていないことに問題を感じます」と言うのである。
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