BERD 2005 No.2
【特集】
インタビュー
BERD
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Q
そもそものお手本となった日本の教育が、今 イギリスの教育改革から学ぶことはありますか?
 ヘイズ・スクールで数学の先生に取材しているとき、逆に質問されてしまいました。「僕らは日本の学校のように教えなさいといわれているのに、日本から来て僕らの授業を見学しているあなたは何を学ぼうとしているのか?」と。
 確かに教育の質も教員のレベルも、今なお日本の方がイギリスより高水準だと思います。しかし日本の現状を見ると、経済が衰退し国の財政が悪化している中で教育改革が叫ばれている点では70年代のイギリスと似ています。
 70〜80年代にかけてイギリスが断行した改革は強権ではありましたが、それに改良を加えたブレア政権の改革も含めて、学ぶ面があると思います。私なりに3点ほど挙げてみます。
 第一に、学校理事会的な発想。制度そのものを導入するというより、保護者と教職員が互いの役割を明確にした上で何をどう連携できるのか、と考える姿勢が重要です。改革を成し遂げるために教育の専門家として教職員が何をするのか、そして保護者の存在をどう位置付けるのか。そこをもう一度見つめ直すことから始まるのではないでしょうか。
 第二に、学校評価のシステム。日本でも一部の自治体で学校選択制を導入したり、地域運営学校といった公教育に関する多様な選択肢が模索されています。教育が多様化すればするほど、学習指導要領のように入口で管理する方法は無理なので、結果を管理する発想に立ち、学校に一定の自由裁量権を与える方針が必要です。その際、イギリスが導入した教育水準監査院の評価システムは参考になるでしょう。教育水準監査院は学校の現状を診断し、その診断結果に基づいて学校理事会が改善計画を策定し実行に移します。もちろん評価すべき点も明らかにされます。そのような仕組みは学校の自律性を確保する上で必要ですし、国として教育の質を保証することになります。
 第三に、学校支援の仕組み。学校が自律性を確保するためには、評価システムと同時に支援の仕組みがなければいけません。地方教育行政の役割が重要です。地方分権化すると格差が出るという議論がありますが、確かにイギリスも自治体による格差は大きいです。その格差を是正するために、教育長などに対して経営能力を養成するための研修プログラムを提供するバーチャルなカレッジがあります。そのような活動を通じて地方自治体に効果性、効率性、経済性のある学校支援の機能を持たせようとしているのです。同時に民間による学校支援の仕組みも整備されています。今の日本で、いきなり各学校にどうぞご自由に、といわれても先生方は途方に暮れるしかありません。自由には責任が伴うので、責任を果たせる支援の仕組みがぜひとも必要です。
 日本ではこれまで「経営」という言葉を嫌う校長先生が多かったのですが、だいぶ抵抗感が薄れてきた今が改革のチャンスだと思います。組織としての学校で、保護者と教職員がどうパートナーシップを組んでいくか。パートナーシップは相互に依存したり一方的に押しつける関係ではなく、おのおのの役割を明確にして同等に責任を果たす関係から生まれます。この考え方が定着すれば、それを土台におのおのの学校にふさわしい改革の道筋が見えてくるでしょう。イギリスでも学校によって改革の方法は一様ではなく、例えばヘイズ・スクールのように徹底した効率経営の方針が他の学校にも当てはまるかといえば、必ずしもそうとは限りません。どこかのやり方をそのまま真似るのではなく、実情に合わせたやり方をおのおのの学校が考え出し、実行に移していく必要があります。
 イギリスもキャラハン首相の演説から30年かかって、ようやく軌道に乗り始めました。意識を変えるところから、時間をかけて着実に積み重ねていくしかありません。
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