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学力調査の分析視角
まずは、「学力調査」を以下のように定義しておこう。
「一般に学力調査とは、小学校から高等学校（最近では大学も含む）に学ぶ子どもたちの集団を対象として、彼らが到達したと推定される学力実態を組織的、体系的、系統的に把握し、実証的なデータを提供する調査を指す。調査の結果は、子どもたちの学力実態に影響を与えていると考えられる社会的環境（地域的・経済的・文化的諸条件）と教育的環境（学校・授業に関わる諸条件）を吟味するために使用される。
しかしながら、実施される学力調査は、その調査項目・問題構成を規定している学力観または教科教育研究や教育評価研究の到達点、調査の実施時期や実施期間そして調査対象の範囲とその抽出理論、結果の処理方法などによって、その精度と有効性が彫琢される。また、学力調査を実際に行うためには、調査の主体となる機関の性格とその構成メンバーの選定、直接の調査者の熟練度などがその成否に影響を与える。
加えて、学力の国際調査となると、各国の文化的・教育的条件を考慮しつつ、比較可能性の高い調査項目が選定される必要があると共に、翻訳事情も考慮されなくてはならない」。
もちろん、この定義に示している諸条件を完全に満たすような学力調査を実現することはかなり困難である。その中にあって、「TIMSS2003」や「PISA2003」のような国際学力調査や国立教育政策研究所の全国調査（以下「国研調査2003」）などは、このような学力調査の諸条件に自覚的に対応しており、この小論では考察対象として利用したい。
それでは、このような学力調査を分析する視角にはどのようなことが要求されるだろうか。先に触れたように、「学力の水準」のみで分析するのはあまりにも一面的だ。学力調査への多角的で重層的な分析のためには、少なくとも「学力の水準」「学力の格差」「学力の質と構造」「学習への意欲」という四つの視角が必要である。それぞれについて簡単に説明しておこう。その上で、学力調査にとって本質的な「学力の質と構造」について、節を改めて考えてみたい。
「学力の水準」とは、狭義の計測可能学力を対象にして、学力調査によって当該集団の平均値を算出したものを指す。「学力低下」が問題になるときには、主にこの「学力の水準」の低下が問われていると考えてよいだろう。確かに、IEA（The International Association for the Evaluation of Educational Achievement＝国際教育到達度評価学会） 調査における日本の順位を一覧（図表1）にすると、かつては金・銀のメダルを独占していた日本も現在では中学校の段階で6位に入賞するにとどまっていると感じる人もいるだろう。そのため、「総合的な学習の時間」の削減発言まで飛び出した。しかし、「国研調査2003」では過去問との比較で水準が上昇したことから、マスコミでは「学力改善の兆し」（2005年4月23日付、読売新聞）「ゆとり世代成績アップ」（2005年4月23日付、毎日新聞）と報じた。確かに世界レベルで日本の子どもたちの学力水準は若干低下傾向にあるが、それに過度に反応する必要はない。むしろ、過度に反応することで、次に考えるべき「学力の格差」や「学力の質と構造」、さらには「学習への意欲」の問題が看過されることこそが、危険である。
「一般に学力調査とは、小学校から高等学校（最近では大学も含む）に学ぶ子どもたちの集団を対象として、彼らが到達したと推定される学力実態を組織的、体系的、系統的に把握し、実証的なデータを提供する調査を指す。調査の結果は、子どもたちの学力実態に影響を与えていると考えられる社会的環境（地域的・経済的・文化的諸条件）と教育的環境（学校・授業に関わる諸条件）を吟味するために使用される。
しかしながら、実施される学力調査は、その調査項目・問題構成を規定している学力観または教科教育研究や教育評価研究の到達点、調査の実施時期や実施期間そして調査対象の範囲とその抽出理論、結果の処理方法などによって、その精度と有効性が彫琢される。また、学力調査を実際に行うためには、調査の主体となる機関の性格とその構成メンバーの選定、直接の調査者の熟練度などがその成否に影響を与える。
加えて、学力の国際調査となると、各国の文化的・教育的条件を考慮しつつ、比較可能性の高い調査項目が選定される必要があると共に、翻訳事情も考慮されなくてはならない」。
もちろん、この定義に示している諸条件を完全に満たすような学力調査を実現することはかなり困難である。その中にあって、「TIMSS2003」や「PISA2003」のような国際学力調査や国立教育政策研究所の全国調査（以下「国研調査2003」）などは、このような学力調査の諸条件に自覚的に対応しており、この小論では考察対象として利用したい。
それでは、このような学力調査を分析する視角にはどのようなことが要求されるだろうか。先に触れたように、「学力の水準」のみで分析するのはあまりにも一面的だ。学力調査への多角的で重層的な分析のためには、少なくとも「学力の水準」「学力の格差」「学力の質と構造」「学習への意欲」という四つの視角が必要である。それぞれについて簡単に説明しておこう。その上で、学力調査にとって本質的な「学力の質と構造」について、節を改めて考えてみたい。
「学力の水準」とは、狭義の計測可能学力を対象にして、学力調査によって当該集団の平均値を算出したものを指す。「学力低下」が問題になるときには、主にこの「学力の水準」の低下が問われていると考えてよいだろう。確かに、IEA（The International Association for the Evaluation of Educational Achievement＝国際教育到達度評価学会） 調査における日本の順位を一覧（図表1）にすると、かつては金・銀のメダルを独占していた日本も現在では中学校の段階で6位に入賞するにとどまっていると感じる人もいるだろう。そのため、「総合的な学習の時間」の削減発言まで飛び出した。しかし、「国研調査2003」では過去問との比較で水準が上昇したことから、マスコミでは「学力改善の兆し」（2005年4月23日付、読売新聞）「ゆとり世代成績アップ」（2005年4月23日付、毎日新聞）と報じた。確かに世界レベルで日本の子どもたちの学力水準は若干低下傾向にあるが、それに過度に反応する必要はない。むしろ、過度に反応することで、次に考えるべき「学力の格差」や「学力の質と構造」、さらには「学習への意欲」の問題が看過されることこそが、危険である。
「学力の格差」とは、文字通り子どもたちの学力がどのように分散しているのかをみる視角である。「学力の水準」が高い場合にも、すべての子どもたちの学力が高いとは限らない。むしろ、「学力の水準」の高さが、「学力の格差」の存在を死角にする場合もある。この「学力の格差」問題は、1970年代に入って「学力問題」の争点の一つとなったものである。最近の三つの調査結果（「TIMSS2003」「PISA2003」「国研調査2003」）を検討してみると、学力格差の顕在型とされる学力の二極分化（ふたこぶらくだのグラフ）には至っていないものの、依然として3分の1強の子どもたちに学力の遅滞があり、学年進行と共に格差の固定化と拡大がみられる。「学力低下」問題が、「低学力」問題を見過ごすことがないように改めて注意しておきたい。
「学力の質と構造」とは、学力の機能や性能のことである。従来、「病める学力」問題とか「学校知」問題といった形で、この「学力の質と構造」の在り方が問われてきた。学力調査では、「学力の質と構造」はあるべき学力モデルとして想定されていて、それに従って調査問題の作成と分析が行われる。したがって、「学力の質と構造」問題は学力調査を分析するための本質的な視角である。この点では、とりわけ国際学力調査で新たな展開が生まれようとしている。これについては、節を改めて検討してみよう。
最後に、「学習への意欲」とは、学習に自発的に能動的に取り組もうとする傾向性であり、それを喚起するためには学習環境を整える必要がある。その場合、学習環境としては、学習意欲に直接に影響する授業のみならず、学習意欲を支えている生活意欲に関係する諸条件も視野に入れなくてはならない。残念ながら、今回の「TIMSS2003」でも、例えば「数学の勉強は楽しい」と思うかという問いに対して、日本の子どもたちは「そう思わない」「まったくそう思わない」が国際平均値を大きく上回ると共に、「TIMSS1995」と比較しても高くなっている。「学習への意欲」を支えているのは、基本的には「なぜ勉強するのか、この勉強は自分たちにとってどのような意味があるのか」という「教育のレリバンス（適切性）」である。したがって、学力獲得の競争のみを強調して一時的な効果を得られたとしても、この「教育のレリバンス」、それと密接不可避な「学力の質と構造」を不問にしては、それこそ「学力問題」の根本的な解決にはならないだろう。
「学力の質と構造」とは、学力の機能や性能のことである。従来、「病める学力」問題とか「学校知」問題といった形で、この「学力の質と構造」の在り方が問われてきた。学力調査では、「学力の質と構造」はあるべき学力モデルとして想定されていて、それに従って調査問題の作成と分析が行われる。したがって、「学力の質と構造」問題は学力調査を分析するための本質的な視角である。この点では、とりわけ国際学力調査で新たな展開が生まれようとしている。これについては、節を改めて検討してみよう。
最後に、「学習への意欲」とは、学習に自発的に能動的に取り組もうとする傾向性であり、それを喚起するためには学習環境を整える必要がある。その場合、学習環境としては、学習意欲に直接に影響する授業のみならず、学習意欲を支えている生活意欲に関係する諸条件も視野に入れなくてはならない。残念ながら、今回の「TIMSS2003」でも、例えば「数学の勉強は楽しい」と思うかという問いに対して、日本の子どもたちは「そう思わない」「まったくそう思わない」が国際平均値を大きく上回ると共に、「TIMSS1995」と比較しても高くなっている。「学習への意欲」を支えているのは、基本的には「なぜ勉強するのか、この勉強は自分たちにとってどのような意味があるのか」という「教育のレリバンス（適切性）」である。したがって、学力獲得の競争のみを強調して一時的な効果を得られたとしても、この「教育のレリバンス」、それと密接不可避な「学力の質と構造」を不問にしては、それこそ「学力問題」の根本的な解決にはならないだろう。
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