BERD 2006 No.5
【特集】
インタビュー
BERD
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スキル重視かコミュニケーション重視か
中央教育審議会外国語専門部会「小学校における英語教育について」から抜粋 今回のレポートの一番のポイントは、必修化か否かではなく、「小学校で英語教育を行うことで、何を目指すのか」の「何を」を提示したところにあると考えています。「何を」を定めないままに、必修にするかどうか、どんな教材を使ってどのような授業を展開するか、といった議論をしても、あまり実のあることではありません。
 公立小学校における外国語学習が、当時の文部省による研究開発学校の指定という形でスタートしたのは、1992年のことです。やがて小学校英語をテーマにした研究開発学校は、96年ごろには各県に1校ずつの割合で広がりました。02年から始まった「総合的な学習の時間」では、多くの小学校が国際理解に関する学習の一環として英語活動を取り入れるようになり、さらに小泉内閣によって設けられた構造改革特区の制度を活用して、金沢市のように教育課程の中に英語科を設置するような自治体も現れました。
 こうした動きによって、現在では9割以上の小学校が英語活動を実施しています。しかしその内実を見ると、構造改革特区制度の中で教科として英語教育を行っている小学校もあれば、特別活動の中で年間わずか数時間だけ取り入れているという小学校もあります。また、ゲームや歌などの活動の中で英語と親しんだり、コミュニケーション能力を培うことを重視したりする小学校がある一方で、中学校の前倒しのようなスキル重視の指導を展開している小学校もあります。
 今回、「小学校で英語教育を行うことで、何を目指すのか」の「何を」を提示したのは、このように現在行われている小学校での英語活動の内容に、相当のばらつきが生じていることに対する課題認識が委員にあったからです。小学校英語をよりよい方向に充実させるためにも、また教育の機会均等のためにも、ばらつきを是正し、何らかの共通の教育目標を設定することが重要ではないかと考えたわけです。ただし私個人としては、「小学校での英語活動は、当分ばらつきのあるまま進めていいのではないか」という意見を持っています。これについては後で述べるとして、部会全体の総意としては、共通の教育目標を設定することへと議論が集約されていきました。
 レポートでは、その「何を目指すか」の方向性として、二つのモデルを挙げました。一つはALTなどの外国人との交流を通して、会話技術や文法などのスキル面を中心とした英語力の向上を目標とすること。すなわち、英語のスキルをより重視する考え方。もう一つは英語を使った活動を通じて、言語や文化への理解を深めると共に、ALTや留学生との交流を通して、積極的にコミュニケーションしようとする態度の育成や、国際理解を深めることを目標とすること。すなわち、国際コミュニケーションをより重視する考え方です。
 こうした分け方は、「乱暴じゃないか」といわれればその通りです。本来英語教育は「スキルかコミュニケーションか」といった二者択一で割り切れるものではありません。コミュニケーションをするにはスキルを身に付けることが不可欠だし、コミュニケーション活動とまったく離れたスキル学習もあり得ません。しかし、あえて図式的に示すことで、小学校英語のあるべき姿を問いたいという思いがありました。
 「スキルかコミュニケーションか」という問題設定に対して審議状況のレポートでは、「小学校段階では何のために英語を学ぶのかという動機付けを行うことを重視し、言語やコミュニケーションに対する理解を深めることで国語力の育成にも寄与するという観点から、国際コミュニケーション力の育成を重視する考え方を基本とすることが適当であると考える」と表明しました。「小学校英語は、スキルではなくコミュニケーションでいきましょう」と、はっきりと標榜したのです(上記レポートの抜粋を参照)。
 今回のレポートが人々に最も問いたかったのは、まさにこの部分です。例えば保護者を対象に行った意識調査では、約7割が小学校段階で英語を必修化することに対して、肯定的な意見を持っていることが明らかになっています。そのうちの多くは、「子どもには英語を話したり聞けたりするようになってほしい」という思い、つまり、スキルを身に付けてほしいという思いがあるから、小学校英語に対して肯定的であると想定できます。
 それに対してレポートでは、「小学校英語はスキル学習ではありません。コミュニケーション学習です」という方向性を打ち出したのです。今後小学校英語を展開していく上で、「何を目標として小学校で英語教育を行うのか」という点を共有化しておかないと、さまざまなブレが生じてしまう恐れがあります。そこで「コミュニケーション重視の英語教育」という目標を明確に提示することで、世論に一石を投じることになると考えたのです。しかし、前述したようにマスコミはここを論点とせず、必修化の是非ばかりを議論の俎上に乗せています。とても残念なことだと思います。
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