BERD 2006 No.5
【特集】
インタビュー
BERD
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言語形成期を活用したバイリンガル教育の特徴
 バイリンガル教育とは、一つの言語を使う「モノリンガル」に対して、「二つ(以上)の言葉をきちんと使い分ける力を持った人」という意味での「バイリンガル」を育成する教育です。
 バイリンガルに育つということは、1960年代までは知能低下、学業不振、精神不安定など否定的なイメージと結び付いていました。バイリンガルとは、「弓に二つの弦がついているようなもの(両方緩んでしまう)」とか、「人間は生来モノリンガルで、バイリンガルは二つの宗教を信じるようなもの」とかいわれたものです。ところが、70年代になってカナダで、英語とフランス語のバイリンガル教育が成功してからは、バイリンガルに育つことの有利な面が実証されるようになりました。
 「バイリンガル教育」と一口にいわれますが、実はさまざまなタイプがあります。例えばカナダの場合は「イマージョン方式」といって、学校教育の中で二つの言語を学習言語として使用することによって、2言語に堪能なカナダ人を育てようとするものです。カナダには、英語圏とフランス語圏があり、公用語は英語とフランス語です。しかし、現実には英語が主要言語で、フランス語が少数言語です。そこで、両方の住民が血を流さずに共存するために、英語とフランス語のイマージョン教育を国の政策として行っています。バイリンガルであることが首相になるための暗黙の条件ですし、また政府機関や企業に就職するために有利な資質となります。今では、カナダ型の「イマージョン方式」が、世界の各地でいろいろな目的のために使われています。例えば、マイノリティの言語が消滅する危機にあるところでは、人為的に学校教育の中で2言語を育成することでその少数言語を救おうとしています。スペインでのバスク語、そして英国のウェールズ語などがそうした例です。
 アメリカでは、英語を母語としないマイノリティの学童が、英語ができるようになるまで、便宜的に母語と英語の両方を使って教育を受けることがあります。これは二つの言語を手段として使うのであって、両言語を伸ばすことを目標としているわけではありません。その意味で「過渡的(transitional)バイリンガル教育」と呼ばれます。しかし、最近では「双方向 (two-way) イマージョン方式」または「二重(dual)イマージョン方式」と呼ばれる、2言語育成を目的としたバイリンガル教育も盛んになっています。
 バイリンガル教育は、外国語に触れる環境を整えることで自然習得させるようにします。ということは、これが可能な時期に行われなければならず、いわゆる言語形成期(2〜15歳)をフルに活用するわけです。諸外国ではかなり以前から行っていることですが、日本の英語教育では今までこの言語形成期の中核をなす、小学生時代を十分に生かしてこなかったといえます。自分から自然に学びたくなるような環境が与えられれば、言語形成期にある子どもは誰でもバイリンガルに育つ可能性があります。
 カナダではすでに40年近く、「イマージョン方式」によるフランス語と英語のバイリンガル教育(French Immersion)を行っています。イマージョンというのは、「浸す(immerse)」という動詞から来た言葉で、イマージョン教育とは、「外国語の環境にトータルに浸す」ことで習得させる方式です。具体的にいうと、算数、理科、社会といった主要教科を学習するときに外国語を使うのです。その英語とフランス語の学習時間の比率を学年ごとに変えていくことによって、両言語が高度に発達するように工夫するのです。カナダで始まったこの方式は、現在ではアメリカ、オーストラリア、ヨーロッパなど各地で広く応用されています。
 幼稚園から中学校までのイマージョンを開始する時期によって、「早期イマージョン(Early Immersion)」、「中期イマージョン(Middle Immersion)」、「後期イマージョン(Late Immersion)」に分けられます(図表1参照)。「早期」は幼稚園から、「中期」は小学校5年生から、そして「後期」は中学校からです。これに対して、外国語としてフランス語を教えるのは「コア・フレンチ(Core French)」と呼んで区別しています。日本の英語教育に当たる「コア・フレンチ」の総授業数は図表1に示したように900時間ぐらいですが、「早期イマージョン」では幼稚園から始めて小学校5、6年で、5000時間近くになります。このぐらい時間をかけると、聞く力、読む力は母語話者レベルかあるいはそれ以上に達し、話す力と書く力では母語話者レベルに近付くといわれます。
図表[1] フレンチ・イマージョン3種類とコア・フレンチの総授業時間数比較
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