BERD 2006 No.5
【特集】
インタビュー
BERD
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外国語が母語に与える影響
 あまり早い時期から外国語を学ばせると、母語に悪い影響を与えるのではないかと心配する声もあるようですが、子どもの場合、母語の力を土台に外国語が伸びていきます。ですから、母語が社会の主要言語で伸びやすい環境の場合は、母語と外国語の両方が伸びる可能性が高いのです。ということは、日本人の子どもが日本の小学校で英語を学ぶなら、日本語へのマイナスの影響はほとんどないといえるでしょう。むしろ逆に、日本語の発達に刺激を与えて、より日本語が強まる可能性があります。その反対に、母語がマイノリティ言語である場合は、母語も外国語も伸び悩むケースが出ます。ですから、マイノリティ言語を母語とする外国籍の子どもの場合は、母語が伸びにくい環境ですから、よほど気を付けないと、母語も日本語力も伸び悩むという状況です。大人は母語で考えてしまい、外国語で話したり書いたりするときに、母語の語順などが干渉してマイナスの影響を及ぼしていると感じることがありますが、母語が発達途上にある子どもの場合は、両言語が関係し合って伸びていきますから、母語がしっかりしているということは、その子が非常に大きなリソースを持っているということなのです。
図表[2] 母言語形成期と母文化形成期  母語の発達過程を見ると、5歳にもなれば、してよいことと悪いこと、といった母語を土台とした母文化が身に付きます。母語による話し言葉はだいたい8歳くらいまでに習得されますが、抽象的な思考ができるようになり、抽象語彙が増えるのは10歳以降だといわれています(図表2参照)。子どもが外国語の環境の中に置かれた場合、会話力はだいたい2年で獲得しますが、外国語で抽象的な思考ができるようになるには5〜7年以上かかるといわれています。というように、言語の側面によって発達に必要な時間が異なるのです。
図表[3] カミンズの「2言語共有説」(氷山説)  二つ以上の言語を習得した場合、表記の仕方などが違っていても、思考と関係が深い部分は共有しているという「2言語共有説(または氷山説)」があります(図表3参照)。母語で作文が得意な子どもは、外国語でも文章を書くことに優れていることが多いのはこのためです。また、母語で九九をいえる子どもは、それが何の役に立つのかを理解していますので、外国語の数字を学ぶ必要はありますが、母語と関連させて外国語でも九九がすぐにできるようになります。 
 2言語共有説を提唱したのは、トロント大学のカミンズ教授(Jim Cummins)ですが、2言語間の移行に方向性があることを指摘しています。簡単にいえば、「十分な接触量と動機づけがあれば、外国語を学んで伸びた能力は母語にも転移する」というものです。日本人の子が小学校で英語を学んだ場合、日本語力にマイナスになることより、英語で学んだことが接触量の多い日本語に自然転移され、プラスになることの方が多いということです。例えば、日本人の子どもが英語でロールプレイをして積極的にコミュニケーションに参加できた場合、母語の日本語でも人との関係構築により積極的になるなどがその例です。
図表[4] フレンチ・イマージョン生徒の英語読解力  国際学力調査(PISA)の結果も、もしかしたら2言語間の転移の可能性を示しているといえるかも知れません。世界31か国を対象に読解力調査を実施したところ、カナダは2位でした。しかも、英語読解力を詳しく見ると、英仏イマージョン教育を受けている生徒の方が、英語だけで学んでいるモノリンガルよりも優れているのです(図表4参照)。もちろんイマージョン教育には英語母語話者の子どもが多いので、昔はエリート教育といわれたのですが、近年はさまざまな言語背景の子どもがイマージョン教育を受けるので決してエリート教育とはいえません。しかもカナダ全国で同じような結果が出ているところを見ると、2言語の同時発達による相乗効果ということも否定できないわけです。
 また、小学生の外国語教育の問題点の一つは、学習開始年齢とその到達度ですが、この点についてもバイリンガル教育はいろいろなデータを持っています。例えば、早期・中期・後期の各種イマージョンで学んだ高校卒業生のフランス語力を比較したものがあります*1。この調査の結果、年少から始めた方が有利だったのは聞く力と話す力でした。つまり、開始年齢が早く、学習時間総数が多くなればなるほど、対話力で有意差が見られました。読む力と高度な書く力については、高学年になってから始めても大差がなかったということです。
 というわけで、同じイマージョン教育でも幼児から始める「早期イマージョン(EI)」が最も効果が高いのですが、全員が受けるわけにはいきません。そこで、現在カナダでは、イマージョン教育だけでなく、コア・フレンチを選択した子どもたちの中からもバイリンガルに育つ子どもが増えるように、連邦政府が10年先を目指して「2013年プロジェクト」を立ち上げました。これまで毎日40分行ってきたフランス語の授業を、週3回にして1回の授業時間を倍にしてみる取り組みとか、授業を1学期間にまとめて行うなどの実験をしています。これまでのところ、分散型よりも集中型の方が語学力が伸びるという結果が出ています。また年少者向けの教授法として、AIM(Accelerative Integrated Method)というジェスチャーを駆使し、ストーリーやドラマ化を採り入れた画期的な方法も開発されています*2
  • *1 Lapkin, S. (1998) French Second Language Education in Canada. University of Toronto. pp.31-55.
  • *2 「AIM LANGUAGE LEARNING」のウェブサイトを参照。
      http://www.aimlanguagelearning.com/
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