BERD 2006 No.6
【特集】
インタビュー
profile
有元秀文
国立教育政策研究所総括研究官
ありもと ひでふみ

国立教育政策研究所教育課程研究センター基礎研究部総括研究官。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。
東京都立新宿高等学校教諭、文化庁文化部国語課国語調査官、国立教育研究所教科教育研究部主任研究官を経て現職。
主な著書に『「国際的な読解力」を育てるための「相互交流のコミュニケーション」の授業改革』(溪水社)、『読書へのアニマシオン入門』(学習研究社)などがある。
Refarences
『子どもが必ず本好きになる16の方法・実践アニマシオン』有元秀文著/合同出版/2006年
『子どもが必ず本好きになる16の方法・実践アニマシオン』有元秀文著/合同出版/2006年

『「国際的な読解力」を育てるための「相互交流のコミュニケーション」の授業改革』有元秀文著/溪水社/2006年
『「国際的な読解力」を育てるための「相互交流のコミュニケーション」の授業改革』有元秀文著/溪水社/2006年
BERD
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「生きる力」につながるPISA型の読解力
──根拠を基に自分の意見を表現する授業への転換──
有元秀文[国立教育政策研究所総括研究官]

有元秀文
 PISAの読解力調査で日本の高校生の無答率が高いのは、資料を基にして自分の意見を述べる自由記述問題だ。
 この事実はどんな課題を示唆しているのか。
 PISA型の「効果的に社会に参加するための」読解力を養うには、日本の国語教育に何が足りないのだろうか。
 PISAの分析に基づいて授業改革を提案する有元秀文先生に話をうかがった。
単なるテキストの鑑賞ではなく「生きるために必要な」読解力
図表[1] 読解力得点の国際比較(PISA2003) OECD(経済協力開発機構)が国際的に実施する「生徒の学習到達度調査」 ──通称PISA(ピザ)は、2003年に第2回が行われました。この調査に参加したのは41の国・地域の約27万人の15歳児です。日本では全国の高等学校等の1年生、約4700人が参加しました。
 読解力調査の日本の平均得点は、参加した国・地域の中で14位(498点)。第1回調査(00年)の8位(522点)から大きく低下しています(図表1)。この24点の低下幅は、参加した国・地域の中で最大でした。
 出題形式別に分析してみると、日本の高校生がどんな問題を最も不得意としているのか、よく分かります。
図表[2]出題形式別無答率(PISA2003)  OECD平均と比較して、日本の高校生の「無答率」が著しく高いのが「自由記述問題」です(図表2)。自由記述問題の無答率は、OECD平均より8.1ポイントも高くなっています。逆に多肢選択問題では、日本の無答率はOECD平均より低いのです。
 ちなみに00年の第1回調査でも、やはり日本の無答率はOECD平均より8ポイント高かった。00年と03年で比較すると、無答率が5ポイント以上上昇した問題の67%が、やはり自由記述問題でした(図表3)。
 こうしてみると、PISAにおいて日本の高校生の読解力が低水準の理由の一つは、自由記述問題の無答率の高さにあることは間違いありません。
 そこで、まず押さえておかなければならないのは、PISAで試される読解力とはどんな能力か、ということです。
 PISAでは、「読解力」を次のように定義しています。
 「自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」
 注目すべきなのは、「効果的に社会に参加するために」の部分。言い換えれば「生きるために」必要な読解力です。
 これは、従来の日本の国語教育でいう「読解力」とは、ずいぶん違います。日本の国語での読解力とは、あくまでも「テキストの内容を理解する能力」。テキストに書いてあることをよく理解しているかどうかだけなら、多肢選択問題によって評価できます。だから、この形式の問題に慣れている日本の高校生は、PISAでも無答率が低いのでしょう。
 ところが、PISAでいう読解力は、内容を理解した上で、「利用し、熟考」して「効果的に社会に参加」し「自らの目標を達成」できる能力です。そのために必要なのは、自分の意見を述べること。したがってPISAでは、読み解いたことについて自分なりの意見を表現することが重視されます。日本の高校生は自分の意見を問われる自由記述問題に慣れていないため、どう答えてよいか皆目見当がつかず、無答率が高くなると思われます。日本の国語教育でも自由記述問題はありますが、生徒に意見を問うことは、あまりありません。 
 このように読解力についての考え方が大きく違うため、PISAの出題には日本の国語の出題には見られない特徴が多く見受けられます。それは次のように整理できます。
  • (1) 現実の社会で直面する、生きるために必要不可欠な実際的な課題が対象になる。
  • (2) 通常の文章は6割で、残りの4割は実用的な図表・地図などが占める。
  • (3) 国語の枠を超えて、理科や社会科に関する幅広い話題が含まれる。
  • (4) 自由記述問題が4割を占める。
  • (5) 読んだことについて「自分の意見を表現する」ことが求められる。
  • (6) テキストについて評価や批判が求められる。
  • (7) 意見を書くときには「テキストに書かれたことを根拠にする」ことが求められる。テキストに書かれていない根拠を挙げると正答にならない。

 このうち(1)から(4)までは題材の選び方や形式に関することですから、今すぐにでも日本の国語教育に取り入れようと思えばできることです。PISAというと、とかくこの部分だけに目が行きがちですが、むしろ本質的な課題として注目すべきなのは(5)から(7)までの特徴です。
 とりわけ日本の国語教育で馴染みがないことは(6)のテキストの評価や批判──つまりクリティカル・リーディング(批判的読解)でしょう。クリティカル・シンキング(批判的思考力)の基礎をこれによって養うわけです。具体的にいうと、例えば物語文を読ませて「主人公の取った行動についてどう思いますか?」と問いかける。あるいは、意見文を読ませて「この意見について賛成ですか、反対ですか?」と聞く。登場人物の気持ちに寄り添って鑑賞させたり、筆者の主張を正しく理解させることだけに主眼を置く従来の日本の国語教育では、こうした学習が欠けがちだったのです。
図表[3] 無答率の上昇ポイント
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