BERD 2006 No.6
【レポート】
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鎌田恵太郎
ベネッセ教育研究開発センター主席研究員


BERD
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社会に参画するための能力育成を考える
──特に「読解リテラシー」の視点から──
鎌田恵太郎[ベネッセ教育研究開発センター主席研究員]

 OECD(経済協力開発機構)が作成した「コンピテンシーの定義と選択」プログラム(DeSeCoプログラム)によって定義された能力は、各国のニーズに応えたものであると同時に、PISAの評価対象となっている。
 その一つがPISAの「読解リテラシー」で問われる「社会的・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用できる能力」だ。
 日本の子どもたちの能力育成のために、いま必要とされている教育はどのようなものなのか。
 各国の事例を参考に分析した。
国際的な学力調査であるPISAの基になる「キーコンピテンシー」
 1990年代後半、日本では第15期中央教育審議会において「これからの教育の在り方については、ゆとりの中で生きる力を育むことを目指し、個性重視という基本的な考え方に立って、一人ひとりの能力・適性に応じた教育を展開していくことが重要であるということを基本的な方向とする」という内容が確認されていた。そのころ、世界的には、OECD(経済協力開発機構)の加盟国を中心に教育の成果とその影響に関する関心が高まり、「キーコンピテンシーの特定」と「分析のコンセプトの各国共通化」の必要性が生じていた。
 OECDの資料によると、97年に「コンピテンシー(単なる知識や技能だけでなく、技能や態度を含むさまざまな心理的・社会的資源を活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる能力)の定義と選択」プログラム、いわゆるDeSeCo(Definition and Selection of Competencies)プログラムを開始し、2003年にその最終報告を行っている。報告では、キーコンピテンシーを「人生の成功や社会の発展にとって有益」「さまざまな文脈の中でも重要な要求(課題)に対応するために必要」「特定の専門家ではなくすべての個人にとって重要」という観点で選択し、
 
 (1) 社会的・文化的、技術的ツールを相互作用的に活用できる能力(図表1の領域(1))
 (2) 多様な社会グループにおける人間関係形成能力(図表1の領域(2))
 (3) 主体的に行動する能力(図表1の領域(3))
 
 の三つの能力であると定義している。
図表[1] キーコンピテンシーと測定項目
 00年に第1回目が開始されたPISAは、このDeSeCoプログラムに基づいている。初回から測定されている「読解リテラシー」「数学的リテラシー」「科学的リテラシー」は、主に前述のキーコンピテンシー(1)の一部を評価するための項目である。また、03年に測定された「問題解決力」は、主にキーコンピテンシー(3)の主体的に行動する能力の一部を評価するものだ。今後もこのキーコンピテンシーを測定するための新たな項目が設定されることが予定されている。
 実は、それより以前の80年代後半から90年代前半にかけて、諸外国ではカリキュラム改革の大きな動きがあった。時を同じくして、日本でも87年に開かれた臨時教育審議会を境に教育改革の議論が始まった。各国は教育目標を見直すと共に、具体的に育成すべきコンピテンシーを検討し、多くの教科に共通する育成すべき能力の設定や、教科横断的な学習テーマの設定を盛んに行った。英語を母国語としない欧州各国や韓国などは、この時に小学校から英語教育を必修化している。
 その後、例えばPISAで最も良い成績を収めたフィンランドでは、「教育目標」や「育成すべきコンピテンシー」の議論から始めて、「母国語教育の改革」「英語や第二外国語の充実」「教科横断的な七つの学習テーマの設定」を行っている。また、イギリスでは、各教科で共通して育成すべき能力として、「コミュニケーション」「数字の理解」「IT」「グループ作業」「自己の学びとパフォーマンスの向上」「問題解決」を設定し、内容を明確にしている。またフィンランドもイギリスも、小学校1年生(イギリスは就学前)から理科を単独教科として扱い、小学校5、6年生からはさらにその内容を細分化した指導を行うなど、早くから基礎的な知識・理解の教育をしている。
 しかし母国語教育では、中学校で古典文学の暗唱をさせるなど、必ずしも従来の教育内容を大きく削減しているわけではない。英語を母国語としない欧州各国や韓国が小学校からの英語導入を決断したのも、「母国語教育が最優先」とはいえ、恐らく国際社会においてコンピテンシーである「ツールの相互的な活用能力」や「主体的な行動能力」を育成するには、英語の早期教育が望ましいという判断をしたためと考えられる。
 各国は新しい能力の育成のために何を導入し、何を残し、何を除外するのかを検討するための議論にも苦心したと思われる。DeSeCoプログラムには、このように各国にある程度共通した動きに後押しされた必然的ニーズがあったとも考えられる。
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