BERD 2008 No.13
【連載】
若手研究者
現地調査レポート
第4回:ベトナム
ベトナム
profile
崎川勝志
広島大学大学院国際協力研究科博士課程
さきがわ まさし

広島市立大学国際学部卒業。
広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期4年。
専攻は教育開発。
BERD
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ベトナム・ハノイ市における学力問題の現状を見る
─経済発展がもたらす学力向上と学力格差の実態─
崎川勝志[広島大学大学院国際協力研究科博士課程]

崎川勝志
1990年代以降、経済成長を遂げている社会主義国に共通する特徴として、市場経済制度の導入を基調とした改革・開放路線を掲げていることが挙げられる。しかし、これらの路線転換や市場経済によりもたらされた物質的豊かさは、これまでに見られなかった新たな学力問題をもたらしている。そして、それらのいくつかは日本でも共通して見られる問題である。今回の報告では、こうした社会主義国の一つとしてベトナムのハノイ市における小学生の学力問題の今日的特徴を探った。
● 調査概要
調査テーマ
(1)ハノイ市が直面する学力の今日的問題を明らかにすること
(2)学力向上の要因を明らかにすること
(3)児童間で学力格差が拡大している要因を明らかにすること
(4)ベトナムの英才教育の特徴・課題を明らかにすること
調査時期
2007年2月26日〜3月9日
調査対象校
ハノイ市バーディン地区の小学校5校
調査方法
各小学校の教員に対話形式での聞き取り調査、授業観察
調査対象者数
対象校 参加した教師の人数 授業観察した科目と学年
A校 9人 なし
B校 29人 英語3年生
C校 12人 算数5年生
D校 11人 英語3年生 算数1年生
E校 22人 英語5年生 算数4年生
● 聞き取り調査の質問項目
[問1]日本の小学校は、以前と比べ学校設備は良くなり、1クラス当たりの 児童数も減っています。また、教師の最終学歴も高くなっています。 にもかかわらず、日本では児童の学力が低下しているのではないかと いわれています。ハノイ市の児童はどのような学力問題を抱えていま すか?
[問2]ハノイ市の児童の学力は向上していると聞きますが、その要因は何で あると考えられますか?
[問3]日本では、学力の高い児童と低い児童の差が拡大してきているといわ れています。ハノイ市でも同じことが起きていると聞きます。この格 差拡大の原因は何であると考えますか?
[問4]私がベトナムの農村部の小学校を訪れた際、ほぼすべての教師が真っ 先に家庭の経済的貧困を児童の教育問題として挙げました。経済的貧 困はハノイ市の小学生の勉学にとっても問題ですか?
[問5]ベトナムは数学オリンピックなどの国際大会で他の先進国を抜いて毎 年上位の成績を収めています。ベトナムがこのような好成績を収める ことに成功している要因は何だと思われますか?
はじめに
図表[1] ベトナムの教育制度 多くの途上国では、先進国に見られないほどの教育格差が地域間で存在する。ベトナムもこの例に漏れない。例えば、都市部のハノイ市やホーチミン市の小学校では全日制の授業が行われており、コンピューターの授業や英語の授業も行われている。図書館、保健室、コピー機は完備され、テレビも各教室に1台設置されており、日本の平均的な小学校と比べても設備面ではそれほど遜色ない。
 一方で遠隔地や山岳部に行くと、わら葺き屋根で電気も通っていない小学校が存在し、授業は午前(通常7時〜11時)あるいは午後(通常13時〜17時)のみに行われる2部制を採っている。もちろん、これらの小学校ではコンピューターの授業も英語の授業も行われていない。
 前者は先・中進国に近い教育水準を保っており、後者は途上国で広く見られる教育状況である。このように、国内でも学校状況やそれを取り巻く社会状況が異なれば、各地域が抱える教育問題も異なってくる。実際、筆者がハノイ市の小学校と、ハノイ市から南西70kmに位置するホアビン省の農村部にある小学校で教員への聞き取り調査を行ったところ、地域によりまったく異なる学力問題が存在することが分かった(調査期間:ホアビン省農村部…2006年1月、ハノイ市…2007年2月下旬〜3月上旬)。
 例えば、農村部の小学校で行った聞き取り調査では、被験者全員が児童の学力改善を妨げている要因として「貧困」を挙げた。一方、ハノイ市の小学校では「貧困」はそれほど深刻な問題ではなく、逆に、近年の経済水準の上昇と共に裕福な家庭が増えていく中で、日本社会と同様の学力問題が見られるようになっている。以下の報告では、ハノイ市における調査を取り上げ、都市部における学力問題の現状の一端を示したい。
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