BERD 2008 No.13
【特集】
インタビュー
BERD
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ポジティブな言葉はその気にさせる
 やる気の発火点は脳ではなく、環境にあります。では、どのような環境のときに、淡蒼球の活動が促されるのか。当たり前のようですが、ポジティブな刺激がなければいけません。これについて面白い実験結果があります。被験者に簡単なゲームをやってもらい、スコアに応じて賞金を出します。始める前にモニターでコインの絵を見せて、1円ならスコア×1、100円だったらスコア×100という条件にすると、100円のときの方が気合が入る、つまり淡蒼球が活動します。これは分かりやすい。興味深いのは、コインの見せ方をサブリミナル*1に暗示する手法に換えても、結果が同じということ。ゲームの前に一瞬、見たと認識できないほど短時間、コインの絵を見せる。それでも、100円の方が淡蒼球は活発に活動するのです*2
図表[2]モニターの表示による握力の数値の違い  別にお金じゃなくても、ポジティブな意味を含んだものなら何でも構いません。最近発表された実験なのですが、握力計のようなものを渡して、モニターに「握ってください」と表示が出ている間だけ握ってもらいます。開始からの時間と握力の関係をグラフにすると、表示からコンマ何秒か遅れて一気にピークまで立ち上がり、次第に落ちていくような線を描きます(図表2)。で、問題はここからですが、またサブリミナルの手法によって、開始の合図の前にほんの一瞬「がんばれ」と表示したらどうなったか。何と、通常の場合より握力が2倍にも伸びたのです。反射スピードも上がって、しかも力が長持ちすることが分かりました。
 ちなみに、何でもない単語、例えば「グレープフルーツ」と表示しても、少し反応は速くなりますけど、「がんばれ」と出したときのような効果はない。つまり、意欲、やる気、集中力などを発揮するのにプラスとなる情報を、私たちの脳は五官を通じて無意識ながらに取り込んで、それに体も反応していることになります。繰り返すようですが、脳ではなく、体、あるいは環境の要因で決まってしまうのです。
 受験生がよく、勉強部屋の壁に「目指せ合格」とか「必勝」とか書いた貼り紙をしますね。あれを無益なおまじないのように思う人もいるでしょうけど、脳科学者としては逆に、あれこそが大切だといいたい。勉強に集中している間も時々は視野の隅に見えているわけで、意識に残らなくても、ああいうことをやっていると結構うまくいくものです。
  • *1 潜在意識下のこと。脳は知覚できない程度の速さや音量でも認識しているとされる。ただし潜在意識に刺激を与えることで表れるサブリミナル効果は、科学的に証明されていない。
  • *2 Mathias Pessiglione, Liane Schmidt, Bogdan Draganski, Raffael Kalisch, Hakwan Lau, Ray J. Dolan, and Chris D. Frith How the Brain Translates Money into Force: A Neuroimaging Study of Subliminal Motivation. Science 11 May 2007 316: 904-906 を参照。
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