BERD 2008 No.15
【特集】
インタビュー
profile
川勝 博
名城大学総合数理教育センター長、教授
かわかつ ひろし

名城大学総合数理教育センター長、教授。
名古屋大学理学部物理学科卒業後、愛知県の県立高校で物理を中心に数学・化学・地学を教える。
香川大学教育学部教授を経て、現職。
日本学術会議連携会員。
またユネスコのAsPEN(アジア物理教育ネットワーク)日本代表・理事などの国際役員も務める。
著書に『川勝先生の物理授業(上・中・下)』(海鳴社)、編著書に『理科』(明石書店)などがある。
Refarences
●川勝博「川勝先生の物理授業(上・中・下)」海鳴社/1997〜1998年
●川勝博「科学リテラシー入門」『楽しい理科授業』明治図書/2007年4月号〜2008年3月号
BERD
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なぜ、すべての人たちが科学を学ぶ必要があるのか
──科学リテラシーの重要性が高まっている理由──
川勝 博[名城大学総合数理教育センター長、教授]

川勝  博
  科学リテラシーを身に付けさせる必要性を指摘する声が、近年、国際的に高まっている。
科学リテラシーとはいったいどういうもので、なぜ、重視されるのか。
そして、この能力を養うための教育とはどのようなものなのか。
ユネスコや科学教育をテーマとした様々な国際会議で活躍し、各国の科学教育研究者との交流が深い川勝博先生に話をうかがった。
キーワード=科学リテラシー、持続可能な開発
科学リテラシーとは何か
図表[1]理科教育の戦後史 リテラシーとは、もともとは読み書き能力のことを指します。文字を読める能力と書ける能力が、生きていく上で重要であることは、あまり多くを説明する必要はないでしょう。国が国民に対して識字能力を獲得するための学習を保障することは、人権を保障することであるといえます。また読み書きのリテラシーと並んで、計算能力も生活していく上で必要なリテラシーです。近代国家の国々は、国民に識字能力と計算能力を身に付けさせるための教育に、これまで力を注いできました。
 そして近年、識字能力と計算能力に加えて、新たに「科学リテラシー」の重要性が国際的に認識されつつあります。1992年には、ユネスコが「Science and Technology Literacy for All パリ決議」において、読み書き・計算と共に科学リテラシーを、人権を保障するために必要な学習として位置付けました。これを受けてOECD(経済協力開発機構)のPISA調査でも、読解力や数学的リテラシーと共に、科学リテラシーの調査が実施されています。
 このように科学リテラシーの重要性に対する認識は、国際的には急速に高まっています。しかし日本では、まだその概念が十分に定着しているとはいえないようです。そもそも科学リテラシーとは、どのようなリテラシーなのでしょうか。
 PISA2006科学リテラシー委員会議長のバイビー氏は、「すべての人々に理解されるべき科学リテラシーは、今までとはワンランクレベルアップした〈概念的方法的理解〉である」と述べています。その概念的理解とは、次のように説明できます。
 「概念的理解は、自然の言葉を読む力(リテラシー)である。人間の内輪の言葉(国語・算数)を理解させるだけでは不十分である。自然と人間の新しいライフスタイルを、自然の言葉を聴きつつ考えられる基礎概念と自然観が、すべての人々に必要である」*1
 概念的理解の「自然の言葉を読む力」は、さまざまな自然現象、科学現象を分析して、読み解ける力と言い換えてもいいでしょう。自然の言葉を読むためには、その説明原理となる基礎概念と自然観を身に付けていることが不可欠となります。例えば科学リテラシーの国際調査でよく聞かれる「種とは何か」、「分子とは何か」、「放射能と放射線の違いは?」と問われたときに、それをきちんと説明できないようでは、基礎概念や自然観を身に付けているとはいえません。
 一方、方法的理解については、どうでしょう。
 「方法的理解は、自然の言葉を書き連ねられる力(リテラシー)である。社会的吟味判断力の養成は、情報公開社会における市民的コントロールの要、参加権の保障である。社会の科学技術が関わる分野で、何がごまかしを生み、真実の判定を損なわせているかを判断できる訓練は、21世紀の社会参加の基本的素養である。これは専門家の真実探求力とは独立の市民が持つべき力である」*2
 概念的理解が「自然の言葉を読む力」なのに対して、方法的理解は「自然の言葉を書き連ねられる力」だと、ユネスコの学習権宣言(1985)では考えています。21世紀は、すべての人々が自然と人間の新しい歴史を書き綴ることができる力が必要です。今の時代は、遺伝子操作や核技術など、自然現象や科学現象を応用した科学技術が、著しい発展を遂げています。また社会には、最新の科学技術の是非を論じたさまざまな科学的言説が溢れています。そうした現在の科学技術や、国が進めている科学技術政策、科学的言説が、正しいものであるかどうか、正しい方向に用いられているかどうかを判断し、あるべき方向性を探り出していける力が方法的理解といえるでしょう。
  • *1と2を合わせて「概念的方法的理解」という。Bybee(1997).Towards an Understanding of Scientific Literacy,
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